
書籍名
朝鮮半島 危機から対話へ 変動する東アジアの地政図
判型など
166ページ、B6判、並製
言語
日本語
発行年月日
2018年10月12日
ISBN コード
9784000238977
出版社
岩波書店
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2017年米国トランプ政権と北朝鮮金正恩政権との間で軍事衝突の危険性が高まる中、2018年に入って、韓国平昌オリンピックをめぐる南北対話の開始、そして4月板門店での南北首脳会談開催を通して、南北関係の改善が進んだ。そして、9月の平壌での南北首脳会談で、事実上南北間における終戦宣言、不戦宣言が合意された。さらに、こうした南北関係の改善は、米国トランプ政権をも巻き込む形で展開し、6月シンガポールでの歴史上初の米朝首脳会談開催にもこぎつけた。2019年に入ってから、2月ハノイでの米朝首脳会談が何の合意もなく決裂、その後、6月に板門店での3回目の米朝首脳の顔合わせはあったものの、北朝鮮の非核化をめぐる実務レベルの進展がない中、8月には米朝合同軍事演習が行われ、それに対抗して北朝鮮は短距離弾道ミサイルの発射を繰り返した。
このように、朝鮮半島情勢は、2017年の緊張激化、18年の緊張緩和と和解、19年の不透明化、というように、まさに激動期を迎えている。そうした激動をもたらした国際政治力学を、そこに関わった、韓国、北朝鮮、米国、中国のそれぞれの思惑と指向について考察が加えられる。韓国については、文在寅政権の中心的外交ブレーン文正仁氏によって、文在寅政権の外交政策に関する見取り図が示される。氏は金大中政権以来の韓国進歩政権の外交ブレーンとして活躍した大学教授であり、韓国が置かれた国際関係に対するリアルな認識に基づき、なぜ、韓国にとって対北朝鮮和解協力政策が必要であるのかを、合理的に説明する。平井氏は、日本を代表する北朝鮮ウォッチャーとして、金正恩が、なぜ、核戦力と経済建設との両立を指向する「並進路線」から非核化へと舵を切ったのかを「体制の保証」という観点から合理的に説明する。尾形氏は米国通の新聞記者として、トランプ政権が対北朝鮮対話へとなぜ舵を切ったのかを政権の内部力学および国際政治力学から解明する。中国政治ウォッチャーとして定評のある朱建栄氏は、北朝鮮の背後に控える中国の立場について、中国が非核化を支援するのみならずその先を見据えていることを明らかにする。
では、日本はどう対応してきたのか、そして、どのように対応するのか。一方で安倍首相は無条件での日朝首脳会談を提唱して日本も乗り遅れずに関与しようという姿勢を示す。しかし他方で、北朝鮮の非核化をめぐる米国、南北朝鮮の動きに対しては慎重な姿勢を示す。さらに、北朝鮮の非核化の実現可能性にも悲観的であり、それに前のめりになる韓国および米国の姿勢にブレーキをかける。こうした葛藤を背景に、日韓関係の現状は、徴用工問題や輸出規制問題をめぐって葛藤が深まる。安倍政権の対朝鮮半島外交がどのような認識に基づいているのかを明らかにし、そうした外交に代わる代替的政策をどのように提示するのかが論じられる。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 木宮 正史 / 2019)
本の目次
一 平和プロセスの現状と展望――南北・米朝交渉を検証する (李 鍾元)
二 激動の朝鮮半島と日本外交――限界と可能性 (木宮正史)
2 金正恩体制は何を目指すか――「権力の確立」から「体制の保証」へ金正日総書記の霊柩車を囲んだメンバー …… 平井久志
3 朝鮮半島の非核化と文在寅政権の戦略 …… 文 正仁
4 「追い込まれた米国」が解凍した二五年の先送り――トランプと金正恩を繫いだインテリジェンスルート …… 尾形聡彦
5 朝鮮半島「非核化」の先を見据える習近平 …… 朱 建榮
6 米朝核交渉と日本外交 …… 田中 均・太田昌克
7 日朝国交正常化はなぜ必要か …… 太田 修
関連情報
「朝鮮半島の今を知る」(20) 木宮正史・東京大学大学院教授 (2019年1月31日)
https://www.youtube.com/watch?v=RNWIKrPNhB4
会見リポート:
司会 五味洋治 (日本記者クラブ企画委員) 「朝鮮半島の今を知る」(20) 木宮正史・東京大学大学院教授 (2019年1月31日)
https://www.jnpc.or.jp/archive/conferences/35308/report