東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白と赤の表紙

書籍名

岩波新書 日韓関係史

著者名

木宮 正史

判型など

254ページ、新書判、並製

言語

日本語

発行年月日

2021年7月20日

ISBN コード

9784004318866

出版社

岩波書店

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日韓関係史

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なぜ、近年、日韓関係が急激に悪化することになってしまったのか。本書は、その原因として日韓関係が「非対称的で相互補完的な関係」から「対称的で相互競争的な関係」に変容したにもかかわらず、日韓双方が、それに適切に対応できていないという点に注目する。
 
冷戦期、(1) 日本の力の優位、(2) 日本の市場民主主義と韓国の開発独裁という体制の違い、(3) 政府・財界関係のみの関係、(4) 関心・情報・価値の日本から韓国への一方的流通、によって特徴付けられる非対称的な関係の下、日韓協力によって韓国の経済発展と政治的安定を達成し、それによって北朝鮮に対する韓国の体制優位を確保することで日韓の安全保障を確実なものにするという、相互補完的な関係が形成されてきた。
 
ところが、冷戦の終焉と韓国の先進国化・民主化によって、(1) 日韓の力の対等化、(2) 市場民主主義という価値観の共有、(3) 地方政府間・市民社会間関係、社会文化関係を含む多層で多様な関係、(4) 関心・情報・価値の流通における日韓の双方向化、などによって日韓関係は対称的な関係へと変化した。そして、上記の共通目標が達成されてしまったが故に、今後は一体何のためにどのように協力するのかが不透明になり、日韓間には競争関係が強く刻印されることで、相互に自分の方が進んで譲歩し難いという関係になってきた。日韓の間に存在する歴史問題や領土問題に起因した対立関係がエスカレートしないように管理するという課題を、日韓双方とも共有し難くなったのである。
 
さらに、外交政策をめぐる乖離も目立つようになった。日韓は冷戦期も、またそれ以後も、米国との同盟関係を共有する。米国との同盟の共有が日韓の紐帯になってきた。ところが、冷戦が終焉し米国との同盟が変質する中、対称的な日韓が対米同盟をめぐって競争関係を構成するようになり、それが日韓関係にも影響を及ぼすようになっている。
 
次に、北朝鮮の存在である。韓国は北朝鮮に対する体制優位を確保したが、その後韓国主導で統一に向けた平和共存の制度化へと一直線に進んだわけではなかった。日韓を射程に入れた北朝鮮の核ミサイル開発、日本人拉致問題、日朝国交正常化など、南北関係や日朝関係を構成する諸要素が日韓関係にも影響を及ぼしてきたし、今後も及ぼすことになる。
 
そして、中国の存在である。冷戦初期、中国は日韓にとって「敵性国家」であった。しかし、中国との国交正常化を通して関係を深化することで、中国は日韓にとって政治経済における重要なパートナーとなった。ところが、中国の大国化、そして米中関係が対立へと変化する中、日韓がそれにどのように対応するのかの選択を迫られる。そして、それも日韓関係に影響を及ぼすことになる。
 
本書は、こうした日韓関係の展開過程を分析することで、「日韓関係がなぜこうまで悪化したのか」という問題を再考すると共に、「では、どのように取り組むべきであるのか」を考えたい。

 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 木宮 正史 / 2021)

本の目次

序 章 日韓関係の現状とそのダイナミズム
 
第一章 日韓関係の「前史」―― 一八七五年~一九四五年
第一節 「西洋の衝撃」と日韓関係―対称性からの出発
第二節 近代化をめぐる日韓の協力と対立―支配・被支配への帰結
第三節 日本の植民地支配とその帰結―究極の非対称性
 
第二章 冷戦下における日韓関係の「誕生」―― 一九四五年~七〇年
第一節 日韓関係の初期条件
第二節 日韓国交正常化交渉I―― 一九五〇年代
第三節 日韓国交正常化交渉II―― 一九六〇年代
第四節 日韓関係の「一九六五年体制」:経済協力と安全保障
第五節 国民レベルにおける日韓「一九六五年体制」
 
第三章 冷戦の変容と非対称的で相互補完的な日韓関係―― 一九七〇年代・八〇年代
第一節 米中・日中の和解と北朝鮮をめぐる日韓関係
第二節 米国の関与削減と日韓関係――日米韓関係から日韓関係へ?
第三節 日韓の非対称性と市民社会間関係の萌芽
第四節 「ポスト朴正熙」の日韓関係
第五節 非対称な日韓協力と対称化の諸側面
 
第四章 冷戦の終焉と対称的な日韓関係の到来― 一九九〇年代・二〇〇〇年代
第一節 日韓関係の構造変容――非対称から対称へ
第二節 冷戦の終焉と朝鮮半島への「配当」――南北関係の改善と限界
第三節 日韓歴史問題の浮上
第四節 日韓パートナーシップ宣言――対称関係の「理想型」
第五節 北朝鮮の核ミサイル問題と日韓関係――共通脅威に応じた相互補完的協力
 
第五章 対称的で相互競争的な日韓関係へ――二〇一〇年代
第一節 歴史問題の「拡大再生産」――「慰安婦」問題と「徴用工」問題
第二節 北朝鮮政策――目的における対称性と方法における非対称性
第三節 米中大国間関係――新冷戦への対応か、旧冷戦の解体か?
第四節 歴史問題から経済・安全保障の対立競争へ?
 
終 章 日韓の「善意の競争」は可能か? 
 
参考文献
あとがき
日韓関係略年表
 

関連情報

著者インタビュー:
「三宅民夫のマイあさ!」三宅民夫の真剣勝負: 過去最悪? 対立深まる日韓関係を読み解く (NHKラジオ 2019年9月11日)
http://www.nhk.or.jp/radio/magazine/detail/my-asa20190911_02.html
 
陰謀論に囚われる日韓、これで北朝鮮問題を解決できるのか 東大教授・木宮正史さんインタビュー (J-Castニュース 2019年2月24日)
https://www.j-cast.com/2019/02/24350881.html?p=all
 
著者コラム:
日本と韓国の「葛藤」はなぜ過激化したのか、すれ違いの構造を解く (現代ビジネス 2019年8月28日)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66799?imp=0

日本と同じアメリカの同盟国なのに、韓国が中国には「いい顔」を見せる本当の理由 - だから日韓関係は戦後最悪に至った (PRESIDENT Online 2021年8月13日)
https://president.jp/articles/-/48597

政策オピニオン: 構造変容に直面し「迷走」する日韓関係 ―何を目指し、どのように克服するか (一般社団法人平和政策研究所 2021年6月23日)
https://ippjapan.org/archives/6315
 
SGRAかわらばん: エッセイ604:木宮正史「日韓関係の危機をどう克服するのか」 (SGRA – 関口グローバル研究会ホームページ 2019年8月1日)
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/asia/2019/13670/
 
関連記事:
政治プレミア: 大貫智子 (政治部記者) 日本外交の現場から - 韓国文化好きが増えれば歴史問題は解決するのか (毎日新聞 2021年11月28日)
https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20211121/pol/00m/010/010000c
 
書籍紹介:
おすすめ読書館 (西日本新聞 2021年10月29日)
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/823655/
 
(新書・文庫)『日韓関係史』木宮正史著 (日本経済新聞 2021年9月4日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO75419810T00C21A9MY6000/
 

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