東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に花びらの写真、帯に「近代日本に見る主権回復の試み」とコメントあり

書籍名

条約改正史 法権回復への展望とナショナリズム

著者名

五百旗頭 薫

判型など

378ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2010年12月

ISBN コード

978-4-641-17370-5

出版社

有斐閣

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日本は1850年代、60年代に欧米諸国に対して開国しました。その時に結んだ条約が不平等であるということで、条約を平等なものに改める交渉が、明治になってから続きました。19世紀後半の日本外交の最大のミッションが、この条約改正でした。欧米諸国を説得するためには、日本の西洋化をアピールする必要があったため、国内改革の源泉ともなりました。さらに、こうした西洋志向の外交・内政に対し、国内で強い反対運動が起きたため、ナショナリズムの契機でもありました。
 
したがって、近代日本の成り立ちを理解するためには、条約改正史の理解が欠かせません。これが私の本のテーマです。この理由からだけでも手に取って頂けるといいのですが、他にも三つの狙いがあります。
 
第一に、合意困難な対立を合意可能な争点に分解する人間の能力と、その限界に興味がありました。
 
少しだけ具体的に説明すると、条約改正の最終目標は、日本国内でありながら外国人の被告を外国領事が裁くという、領事裁判制度を撤廃することでした。司法上の独立を果たすということです。しかし、外国の合意が得られそうにないので、外国領事が日本の行政規則に介入するのだけでもやめさせようとしました。行政上の独立といえるでしょう。こちらは合意可能に見えました。
 
しかし行政についての合意も結局できず、より困難なはずの最終目標―領事裁判撤廃―に挑戦して苦労することになりました。どうしてことさらにハードルを上げる羽目になったのか。ここには人間世界の普遍的な難しさを垣間見ることができるかもしれないと思い、この本を書きました。
 
第二に、近代国家を構成するものが何であるかについて、新しいアプローチで考えようとしました。
 
行政・司法・立法の意義や相互関係については、例えば憲法学で学ぶことができます。しかし、外交史から学ぶこともできると思います。恐らく条約改正史というのは、主権を回復するために、三権のどれからどうとりもどしていくかについて迷い、模索した歴史であるからです。
 
第三に、東アジアの国際問題の起源について考える手がかりになれば、と思っています。
 
この本の特徴の一つは、欧米との条約改正交渉と、1871年に締結した日清修好条規の改正交渉を、一体として分析している点にあります。だからこそ、欧米を文明国として模範にする一方で、中国を文明化から背を向けた存在として位置付けるという、ダブルスタンダードが定着する過程を追跡できます。このダブルスタンダードがもたらす後遺症から、まだ東アジアは立ち直っていないように見えます。その起源を考えたいと思いました。
 
与えられた問いに答えることでは、AIにかなわないかもしれません。しかしそもそも何が問題であるかを考えるのは、人間の得意とするところです。史料の海に対してこの人間の能力を活用し、見えてきたものをなるべくコンパクトにまとめたつもりです。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 五百旗頭 薫 / 2016)

本の目次

 序章 研究史と前史,視点
第1部 行政における主権回復の試み
 第1章 寺島宗則外務卿と税関行政
 第2章 井上馨外務卿と警察行政
第2部 法権回復への跳躍
 第3章 条約改正予備会議
 第4章 会議の間 - 日本の台頭と最後の暫定協定構想
 第5章 条約改正会議 – 法権回復への国際的合意と国内対立
 終章 総括と展望

関連情報

「書評 五百旗頭薫著『条約改正史 - 法権回復への展望とナショナリズム』 日本政治外交史の真髄」(酒井哲哉)『書斎の窓』605、2011年
 
「書評 五百旗頭薫著『条約改正史: 法権回復への展望とナショナリズム』」(青山治世)『東アジア近代史』15、2012年
 
「書評と紹介 五百旗頭薫著『条約改正史: 法権回復への展望とナショナリズム』」(鵜飼 政志)『日本歴史』780、2013

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