東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙の上部に薄いベージュの模様

書籍名

ちくま新書 「反日」中国の文明史

著者名

平野 聡

判型など

272ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2014年7月10日

ISBN コード

978-4-480-06784-5

出版社

筑摩書房

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「反日」中国の文明史

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これまで日中関係は歴史上長きにわたり、漢字や儒学の共有、あるいは文物の交流を通じて深い関係をつくってきたと言われた。しかし実際にはどうか。前近代においてはたしかに遣唐使や鑑真和上に象徴される交流もあったものの、互いを問う声が途絶えたまま、細々とした交易が続いた時代の方が圧倒的に長かった。それは主に、中国文明の側は海に不慣れな内陸の農業文明であり、日本の側は必要に応じて中国の文物や商品を需要したものの、海の存在に助けられて政治的な従属や摩擦をなるべく避けたためであろう。そのような中、日中は時折対峙することはあったものの、それは総じて力を伴い、日本側は元寇、中国文明側は倭寇と秀吉といった暗いイメージを相手方に抱いた。その後日本側は江戸時代に儒学を取り入れ、独自の日本・中国観をつくったものの、中国文明の側は騎馬民族を中心とした国家である清の支配のもと、絶海の先にある日本への関心はほとんど持たなかった。
 
そのような両国が、近代国際関係のもと正面から交流しなければならなくなったことが、昨今の両国間の摩擦の根源にある。日本側では、西洋の覇権に対抗し連帯する「アジア主義」が先走り、同じ漢字文明を共有する日本が新たにアジアを主導すると考えたものの、「華 = 最も先進的な文明」という自意識を受け継ぐ近代中国の人々が激しく反発したのは当然であった。一方、西洋近代の受容に後れを取った近代中国は、明治日本の発展に新鮮な衝撃を受け、和製漢語を積極的に取り入れて「もう一つの近代日本」づくりへと邁進してきた。しかし近代中国は同時に、列強が角逐する弱肉強食の世界観に飲み込まれつつ、「自らこそ大国としての道徳心を発揮し、真に小国を救い導く」発想を強めた。それは、社会主義の中心としての地位をソ連と争い低迷に喘ぐ原因にもなったし、昨今の超大国としての台頭を「平和的」と称する割には他の主要国に対して対抗的であることにもつながっている。
 
こうして現代の中国は、国際社会における自らの身の置き所を必ずしも得られない歴史を積み重ねてきただけに、自らのナショナリズム形成において常に意識せざるを得なかった日本に対し、複雑な感情を深めている。それは一面では、「日本をもっと知りたい」という関心に結びつき、訪日・知日ブームを巻き起こしているものの、別の一面として、日本と過度に近い人々への反発や、日本ではなく中国こそアジアの代表であることを知らしめたいという強い主張をも引き起こしている。このような葛藤が、国内の様々な矛盾と結びつくことによって、共産党政権の厳しい対日外交姿勢を生み出している。
 
本書は以上のような流れを、中国文明的なものの見方、そして混沌に満ちた数千年の歴史から説き起こし、歴史と現在を結ぶ意識のありようをたどることによって、単純なる「反日」ではない中国の姿を立体的に理解できるよう努めたものである。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 平野 聡 / 2016)

本の目次

序 章 習近平時代と「中国夢」
第1章 自足と調和の中国文明
第2章 揺らぐ「礼」と「夷狄」の関係
第3章 近代国際関係と中国文明の衝突
第4章 日本的近代という選択
第5章 社会主義という苦痛
第6章 「中華民族」という幻想
第7章 不完全な改革開放と文明衰退論 - 六四天安門事件への道
第8章 高度成長は中国に夢をもたらしたか
終 章 尖閣問題への視点

関連情報

書評:
中沢孝夫 (福山大学教授) 評「歴史が語る両国の関係」 (『日本経済新聞』夕刊 2014年7月23日)
https://www.nikkei.com/article/DGXDZO74588110S4A720C1NNK001/
 
池田信夫 評「中韓を呪縛する儒学の伝統」 (『アゴラ 言論プラットフォーム』 2014年7月10日)
https://agora-web.jp/archives/1603358.html

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