東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙にブルーグレーの菱形の模様

書籍名

宗教の世界史 5 儒教の歴史

著者名

小島 毅

判型など

352ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2017年5月

ISBN コード

978-4-634-43135-5

出版社

山川出版社

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儒教の歴史

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「儒教」という語に、あなたはどんなイメージを持っておられるだろうか?
 
高校時代に漢文や世界史、あるいは倫理といった科目の授業で教わった、中国の昔の思想。孔子とか孟子とかいった思想家の名前。「おのれの欲せざるところ、人に施すことなかれ」という箴言。男尊女卑の封建道徳。……
 
本書は孔子にはじまる儒家思想が、漢代に王朝体制を支える儒教に発展し、近代にいたるまで国教として機能してきた歴史を通史的に描いている。
 
思想教説の紹介だけでは、宗教においてはその教義史にすぎず、宗教の全体像を伝えるものにはならない。儀礼や慣習を含めた信者の生活全体が当該宗教の内容と解せられるからであり、それらを一切紹介しない宗教記述は皮相的なものにとどまることになろう。従来の儒教史と称するものには、往々にしてこの類が見受けられるように筆者には感じられる。
 
もちろん、「おしえ」は儒教の重要な要素であり、その流行変化が儒教の歴史を紡いできたのであるから、これを軽視することはできない。思想哲学面での、あるいは道徳倫理説としての儒教の展開を中心にしつつ、それが実際の儀礼や慣習にどのように作用したのか、またはそうした作用を意図してどのような「おしえ」が説かれたのかが、本書の叙述に際して著者が意を用いたところである。ただ、当たり前のことながら、過去の東アジアの人々の生活慣習のすべてが儒教の「おしえ」によるものではない。どこまでを儒教教説の影響と判断するかは、結局は記述者の主観・恣意になってしまいかねない。「儒教とは何か」という大きい問いへの各人の答案も、この点と関わっていよう。
 
本書では筆者の専門と能力に応じる形で、王権にかかわる祭祀の問題に重点を置く。儒教は孔子の時代から祭祀を重視する教説だった。『論語』のなかには、すでに君主が携わる祭祀についての孔子の発言を伝えている。漢代に実際に君主 (皇帝) のあり方を支える「教」として機能するようになると、王権祭祀が儒教式に再編され、その種類や方式をめぐって儒教の学者同士が論争を展開した。
 
儒教は中国で誕生し、漢代以降の中国王権を支える役割を果たしていたが、中国の外にも広がった。それは周辺地域に儒教を受容することで独自の王権が成立していったからである。特に中国から見て東方・南方においてその現象が顕著だったし、歴史的事由によって東方・南方の新興国が (中国の領域内部に取り込まれることなく) そのまま現在につながった。韓国 (朝鮮)・日本・ベトナム (越南) である。本書は中国での儒教の展開を中心に扱うが、これら諸国についても若干の記述を行って、東アジア全域における儒教の姿を概観できるようにした。章立てとして国別にはせず、時代順を優先して、各国の状況を同時並行的に段階に分けて記述している。

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 小島 毅 / 2017)

本の目次

序章  儒教をどう描くか

第1章  儒教の巨匠たち  孔子・孟子・荀子  前5世紀~前3世紀
  1. 孔子の虚像と実像
  2. 儒家屈指の論争の士  孟子
  3. 先秦儒家の殿軍  荀子
  4. 経書の成立

第2章  儒教国家の成立  漢~唐・五代、前2世紀~10世紀
  1. 前漢
  2. 後漢
  3. 魏晋南北朝
  4. 隋唐五代

第3章  宋学の諸相  宋、11世紀~12世紀
  1. 儒教の変質
  2. 王安石とその後学
  3. 道学の勃興
  4. 朱熹の思想教説

第4章  朱子学と陽明学の拮抗  元明、13世紀~17世紀前半
  1. 朱熹没後の朱子学  南宋後半・元
  2. 心性論と礼教秩序  明代前半
  3. 陽明学と西学  明代後半
  4. 朱子学の流入  朝鮮王朝と日本

第5章  清・朝鮮後期・徳川日本  17世紀後半~18世紀
  1. 清初三大師とその周辺
  2. 康煕・雍正の学術動向
  3. 乾嘉の学
  4. 朝鮮と徳川日本

第6章  近代社会と儒教  19世紀~現在
  1. 中国
  2. 日本
  3. 韓国・ベトナム・台湾
  4. 儒教の現在