東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

赤とクリームイエローの表紙

書籍名

ちくまプリマー新書 子どもたちに語る 日中二千年史

著者名

小島 毅

判型など

288ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2020年3月5日

ISBN コード

978-4-480-68370-0

出版社

筑摩書房

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

子どもたちに語る 日中二千年史

英語版ページ指定

英語ページを見る

本書は筑摩書房が主催した社会人講座「ちくま大学」として、五回に分けて行った連続講義がもとになっている。この講義では主対象を高校生に設定し、学校の教員や一般の人たちにも聴講してもらった。その時の録音を文字に直したうえで、話の順序を変えたり内容の添削をしたりかなり大幅な修訂作業を施している。
 
私たちが暮らす日本という国の歩みは、すぐ隣の世界的大国、中国の圧倒的な影響下に常にあった。中国文明の恩恵は数千年前の稲作伝来に遡れるが、国家間の最初の外交関係は西暦57年に倭奴国王が後漢に朝貢したことだった。以来、両国は二千年の長きにわたってどのような関係を結んできたのか。本書はその紆余曲折の道のりを具体的に語っている。
 
大学入試センター試験の日本史では、中国や朝鮮との関係をあつかう設問が毎年のように出題されている。この傾向は21世紀に入ってから顕著になってきた。これは学習指導要領の改訂や、それを承けての教科書の記述の変化に対応している。日本列島、つまり現在の日本国の範囲内だけで日本史を語るのではなく、東アジアという地域のなかで日本の歩みを捉えようという動きが学界で共有されるに至ったのだ。40年ほど前、著者自身が高校で学んだ時と比べて高校の日本史はかなり変化している。「子ども」だけでなく「おとな」の人たちにも新たに知ってもらいたい事象が列記・紹介されている。実際、東京大学の同僚たちからも「知らないことが多かった」という感想をもらっている。
 
たとえば古代の邪馬台国や倭の五王、遣隋使・遣唐使のことは誰でも知っているが、中世の「勘合貿易」が実は朝貢使節団(遣明使)だったことは認識されていない。近世についても「鎖国」ではなく「海禁」という用語が適切で、日本から渡航することはできなかったけれども、輸入物品(唐物)を通じて同時代の中国文化を摂取しつづけていたことが日本の伝統文化に影響を与えている。近代の「不幸な歴史」には、19世紀における対中認識の変化(憧れから軽蔑へ)が心理的に大きく作用している。
 
日本と中国との政治外交上の関係は良好とはいえない。中国に対する国民感情もあまりよろしくない。ただ、実は二千年来、友好関係にあった時期のほうが稀だった。しかし、外交関係が無かったり戦争していたりという状態の時期も含めて、日本が中国から受けた文化的な影響は大きく、その恩恵は計り知れない。「仲良くしよう」というお説教ではなく、「こんなことがあった」という史実をまず知ってもらうために書かれたのが、本書である。

 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 小島 毅 / 2020)

本の目次

第1章  国家の誕生(中国文明とは何か 中国古代統一国家の成立 ほか)
 
第2章  唐風と宋風―平安時代・鎌倉時代(遣唐使時代の終わりとその後の東アジア 唐風と国風 ほか)
 
第3章  朝貢から進攻へ―室町・織豊時代(朝貢冊封体制の理念 明の登場と朝貢外交の復活 ほか)
 
第4章  狭い窓口、深い関心―江戸時代(武家政権とその長の名称のこと 海禁の時代へ ほか)
 
第5章  あこがれから軽蔑へ―近現代(近世東アジア海域の三つの類型 教育勅語の思想背景 ほか)

関連情報

書籍紹介:
安田峰俊 「何を受け入れ、何を拒むべきなのか……日本が中国と向き合った2000年で問われ続けてきたこと」 (『週刊文集』2020年5月28日)
https://bunshun.jp/articles/-/37966

このページを読んだ人は、こんなページも見ています