東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

枝にとまった鳥の絵

書籍名

中国の歴史7 中国思想と宗教の奔流 宋朝

著者名

小島 毅

判型など

432ページ、A6判

言語

日本語

発行年月日

2021年1月12日

ISBN コード

978-4-06-522143-3

出版社

講談社

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

中国思想と宗教の奔流

その他

原本は2005年7月刊行

英語版ページ指定

英語ページを見る

中国の歴代王朝のなかで、宋は現代日本での人気はいまひとつでしょうが、影響という点からは最も重要な時代です。宋には始皇帝や西太后のような専制君主はいませんし、諸葛孔明や鄭成功のような悲劇の英雄もいませんが、とても文化的でかつ経済的に繁栄した時代でした。
 
本書は全12巻の「中国の歴史」シリーズの第7巻として2005年7月に刊行され、2021年1月に文庫本になったものです。このシリーズは2種類の中国語(大陸の簡体字版と台湾の繁体字版)に翻訳されています。
 
宋は秦や唐のようないわゆる統一王朝ではありません。北方には同じく中華を名乗る遼や金があり、軍事的な緊張のもとで外交関係を結び共存していました。そのため宋の人たちは文化的な優越性を誇示しようと努め、実際に文学・宗教・芸術・科学・技術など多方面にわたって高度な成果をあげました。それらは12~13世紀に日本に伝わり宋風と称される新様式となって定着し、禅・茶道・水墨画など今にいたる伝統文化につながっています。
 
シリーズの他の巻や別シリーズでの宋代史の本と異なる本書の特徴は、全10章のうちの半分、第5章から第9章が文化史に充てられていることです。そのひとつの理由は上記のとおり日本文化への影響を考慮したためですが、中国史のうえでも「唐宋変革」(英語ではTang-Song transition) と呼ばれる重要な画期だからです。
 
唐宋変革論は約百年前に内藤湖南が提唱し、近年では中国語圏や欧米で活躍する研究者たちも引照している国際的な学説です。ところが、その多くが政治的・経済的な変動に焦点を当てた分析になっています。本書では内藤の問題提起がもともとは文化史的・文明論的なものであった視点に立ち戻って、宋という時代が持つ特性を描くことに意を用いました。この点で、事件・人名の羅列に終始するしばしば見かけるたぐいの概説書とは異質な内容になっています。
 
なかでも著者自身の研究テーマである朱子学 (狭義の宋学) が、広義の宋学の一流派として旧来の儒教に代わって誕生・成長した過程の紹介に多くのページを使っています。この運動に関わった士大夫たちは、単に政治を担当する官僚ではなく、社会的には地域のリーダー (local elite) であり、文化的には文芸全般に通ずる教養人でした。現在では朱子学は主として哲学分野で研究対象とされていますが、本来は政治学・経済学はもとより自然科学としての側面ももつ広範な学術体系でした。本書はそのことを宋の時代相のなかで描き出していきます。
 
なお朱子学の思想的側面については同じ著者の『朱子学と陽明学』(ちくま学芸文庫) を、儒教の歴史的展開における朱子学の位置づけについては『儒教の歴史』(山川出版社) を併読してください。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 小島 毅 / 2022)

本の目次

はじめに 
第一章 宋朝の誕生
第二章 宮廷の運営
第三章 動乱の世紀
第四章 江南の安定
第五章 宗教の土着化
第六章 士大夫の精神
第七章 技術の革新
第八章 文化の新潮流
第九章 庶民の生活
第一〇章 中華の誇り
おわりに
学術文庫版あとがき
主要人物略伝
歴史キーワード解説
参考文献
年表
索引

関連情報

書評:
中国の歴史・全12巻の読み方 その2
天児 慧 (早稲田大学名誉教授) 評「膨張する習近平政権」と向き合うために、歴史から学べること (現代ビジネス 2020年12月9日)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/77879?imp=0
 
梅村尚樹 評 (『史学雑誌』115巻 (2006) 10号 2006年10月20日)
https://doi.org/10.24471/shigaku.115.10_1785
 
関連記事:
全集「中国の歴史」(講談社学術文庫版)をめぐって「史料は小説より奇なり。」
対談=鶴間和幸×上田信 (『週刊読書人』 2021年1月1日号)
https://dokushojin.com/reading.html?id=7862

このページを読んだ人は、こんなページも見ています