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書籍名

東アジアの尊厳概念

著者名

加藤 泰史、小倉 紀蔵、 小島 毅 (共編)

判型など

550ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2021年3月

ISBN コード

978-4-588-15116-3

出版社

法政大学出版局

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東アジアの尊厳概念

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本書は加藤泰史を研究代表者とする文部科学省科学研究費補助金 (基盤研究 (S) )「尊厳概念のグローバルスタンダードの構築に向けた理論的・概念史的・比較文化論的研究」(2018年度~2022年度) の中間研究成果で、『尊厳と社会 (上・下)』(法政大学出版局、2020年) の続編として作成され、プロジェクトに関わる研究分担者・研究協力者・海外研究協力者たちの論考といくつかの読書案内コラムから構成されている。
 
「尊厳 (dignity)」は「人間の内的価値」を意味する概念で、古代ギリシャのプラトンがアクシア (axia)、古代ローマのキケロがディグニタス (dignitas) と呼んだものの系譜を引き、近代ドイツのカントがドイツ語でヴュルデ (Würde) として定着させた。ドイツでは今も尊厳概念が市民に必須な基礎的教養として重視され、ギムナジウム (日本の中高一貫校に相当する) の「政治・経済」の教科書でその概念の歴史と憲法上の規定について十数ページにわたって説明している (松田純『遺伝子技術の進展と人間の未来』、知泉書館、2005年)。
 
1948年の「世界人権宣言」はdignityを人類共通の価値とした。その漢字表記が「尊厳」(現在の韓国ではハングル表記だが、もとの漢字表記は同じ) だけれども、この熟語は東アジアの伝統的な思想文化のなかでは重要な概念を表す用語ではなかった。「東アジアの尊厳概念」を研究するにあたってまず重要なのは、たとえ現在中国語・韓国語・日本語の「尊厳」が英語のdignityやドイツ語のWürdeの訳語として定着していても、その具体的内容の異質性・差異性を正確に認識し、その認識に基づいて西洋と東アジアの間のズレを見定めることである。本書はそのための初歩的取り組みである。
 
かつては、東アジアなどの非-西洋圏における伝統思想のなかに、西洋的な意味での尊厳 (dignityやWürde) があるか、それとも無いのかが探求されてきた。近代西洋思想は世界に普遍的な核心的な価値を持つことが自明視されていたからである。しかし現在はこの桎梏から解放されて、「西洋の尊厳とは異なる概念を用いた思考が東アジアにはあった」と語るようになってきた。さらに進んで尊厳概念自体の価値を問い直し、「そもそも尊厳とは、洋の東西を問わず不要であり不適切な概念である」と主張することもできるだろう。なぜなら西洋でも非-西洋でも、「尊厳」概念の存立条件を考えることのなかには、それが存立しない可能性を考慮する必要があるからだ。
 
西洋と非-西洋を単に対比的に語るだけではなく、あらゆる思考のパターンを俎上に乗せて、「尊厳」概念に対して丁寧かつ大胆に解剖していくことが今後求められており、本書はそうした思考の冒険を試みるための適切な手引書である。
 
(以上の紹介文は、本書の「前書き」と「後書き」とを抄出して構成した。)
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 小島 毅 / 2022)

本の目次

編者前書き 「東アジアの尊厳概念」研究の構築に向けて (加藤泰史) 

I 日本関係編
第1章 バイオエシックスと生命倫理学の間──医学者の「尊厳」理解 (加藤泰史) 
第2章 野間宏文学における「弱者の生」から逆照射される「尊厳」(ギブソン松井佳子) 
第3章 如空の衆生を度す──仏教における人間の尊厳と個の尊重 (前川健一) 
第4章 林羅山における自由と身分秩序──『性理字義諺解』に着目して (武田祐樹) 
第5章 人間の尊厳と「極東の偉大な諸宗教」──ヨーロッパの人間観に対するルソーの異議申立て (松田 純) 

◎読書案内コラム
1 蟻川恒正『尊厳と身分──憲法的思惟と「日本」という問題』(池田弘乃) 
2 宮下紘『プライバシー権の復権──自由と尊厳の衝突』(品川哲彦) 
3 島田陽一・三成美保・米津孝司・菅野淑子=編『「尊厳ある社会」に向けた法の貢献──社会法とジェンダー法の協働』(池田弘乃) 

II 中国関係編
第1章 現代新儒家牟宗三のカント理解 (小島 毅) 
第2章 中国憲法史における尊厳概念──その背後にある政治思想 (中村元哉) 
第3章 求むれば則ち之を得、舎つれば則ち之を失ふ──人間の尊厳に対する儒教の立場からの考究姿勢について (倪 培民/中澤 武 訳) 
第4章 中国の伝統における人権 (スティーブン・C・アングル/齋藤元紀 訳) 
第5章 儒教的な人間の尊厳に向けて (王 小偉/陳 健成 訳) 
第6章 人間の尊厳の儒教的概念 (李 亜明/高畑祐人 訳) 
第7章 台湾の終末期医療の法制化における尊厳概念の変遷──家族代理決定から自己決定権への道 (鍾宜錚) 

◎読書案内コラム
4 有馬斉『死ぬ権利はあるか──安楽死、尊厳死、自殺幇助の是非と命の価値』(香川知晶) 
5 里村佳子『尊厳ある介護──「根拠あるケア」が認知症介護を変える』(小林道太郎) 
6 スウェーデン社会庁『人間としての尊厳──ノーマライゼーションの原点・知的障害者とどうつきあうか  (第二版) 』(徳地真弥) 
7 岸邦和『「人間の尊厳」を考えるための練習問題』(高畑祐人) 

III 朝鮮 (韓国関係編
第1章 暴力としての歴史認識 (小倉紀蔵) 
第2章 韓国で人間尊厳性概念の開新を目指して公共哲学する──独話的概念創出から対話的概念開新への試み (金 泰昌) 
第3章 社会的生命力の源泉としての尊厳──安重根『東洋平和論』を手がかりに (片岡 龍) 
第4章 三魂論について──西洋哲学と朝鮮儒教の出会い (金 光来) 

◎読書案内コラム
8 旻子『尊厳──半世紀を歩いた「花岡事件」』(宇佐美公生) 
9 陶徳民『西教東漸と中日事情──拝礼・尊厳・信念をめぐる文化交渉』(武田祐樹) 
10 フランシス・フクヤマ『IDENTITY──尊厳の欲求と憤りの政治』(岩佐宣明) 
11 デルフィン・ヒラスナ『尊厳の芸術──強制収容所で紡がれた日本の心』(成瀬 翔) 
12 ヨハン・セルス+チャールズ・E・マクジルトン『人間としての尊厳を守るために──国際人道支援と食のセーフティネットの構築』(徳地真弥) 
13 加藤泰史・小島毅 編『尊厳と社会 (上・下)』(徳地真弥) 
 
編者後書き 人間概念の改変に向けて (小倉紀蔵) 

関連情報

書評:
信濃毎日新聞 2021年05月08日
 
沖縄タイムス 2021年4月28日
 
書籍紹介:
朝日新聞「好書好日」
https://book.asahi.com/sanyatsu/TOP/intro/ADTLM20210407101.html
 
関連ホームページ:
研究費補助金 (基盤研究 (S) )「尊厳概念のグローバルスタンダードの構築に向けた理論的・概念史的・比較文化論的研究」(2018年度~2022年度)
https://kato-yasushi.sugiyama-u.ac.jp/index.html
 
関連イベント:
連続シンポジウム「世界哲学・世界哲学史を再考する」第五回「世界哲学における「尊厳」概念」 (オンライン[東京大学東アジア藝文書院] 2021年7月22日)
https://www.eaa.c.u-tokyo.ac.jp/events/h20210722world-philosophy/

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