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青のグラデーションの表紙

書籍名

改革開放萌芽期の中国 ソ連観・東欧観から読み解く

判型など

168ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2023年10月10日

ISBN コード

9784771037762

出版社

晃洋書房

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改革開放萌芽期の中国

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現在の中国は、「大国」へと変貌を遂げた。そのあり方や国際社会での立ち居振る舞いについては様々な評価があるが、それらの評価がどうであれ、世界の中国研究者は、中国が「大国」化した起源について学術的考察を深めなければならない。
 
では、その起源とはどこにあるのか。
 
複数の解答があり得るが、そのうちの有力な一つが、高度経済成長の基盤を整えた1970年代から1980年代までの、いわゆる改革開放萌芽期である。本書は、この萌芽期の道程を1980年代の政治体制改革論に注目して整理したものである。より簡潔に言えば、本書は、改革開放萌芽期の政治体制改革論を歴史化することで、中国を「大国」へと導いた起源の一つを解明したわけである。
 
本書の具体的な問いは、次のとおりである。中国は、社会主義諸国が世界各地で動揺した1980年代に、ソ連や東欧諸国の経験を踏まえながら、改革開放を軌道に乗せようとした。ところが、中国は、それらの国々とは異なる道を歩むことになった。それは一体なぜなのか。当時の中国は、どのようにソ連や東欧諸国を観察し、どのように自己を変革しようとしたのだろうか。
 
本書は、この課題に応えるために、次のキーワードを設定した。すなわち、党の権力、国家と自治、労働者の自主性、民主と法治 (「民主と法制」ないしは「社会主義的法治国家」)、多党制、選挙制、幹部制、公開性である。ただし、私たち日本の中国近現代史研究者は、欧米圏の中国研究者のように、これらのキーワードを何らかの理論を用いて分析する方法論には与しない。私たちは、当時の関係者の言説に基づきながら、実証を重んじる方法論を採用することにした。と同時に、ヨーロッパ現代政治史研究者や政治学研究者と協働しながら、当時のソ連や東欧諸国と比較する視点を重視した。
 
現代中国の起源としての改革開放史を研究することは、日本でも中国でも欧米諸国でも端緒についたばかりである。私たちは、日本の自由な学術環境から生み出された実証を重んじる本書を通じて、世界の改革開放史研究がますます深化していくことを期待している。もちろん、私自身もその努力を惜しむつもりはない。私は、2026年春に東洋文庫の英文ジャーナルModern Asia Studies Review (Vol.17) で特集号「中国の改革開放を歴史化する」を組む予定である。そして、世界の研究者と協力しながら、改革開放史研究の学術性を世界規模で高めていきたい。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 中村 元哉 / 2024)

本の目次

総論――私たちは改革開放史をどこまで知っているのか|中村元哉
 
 Column 1 「民主」と「法治」という難問──「1980年代末のヨーロッパ」からの眺め|網谷龍介
 Column 2 ルーマニアから見た中国──オリエンタリズムとコミュニズムの狭間|ホルカ イリナ
 
制度改革論
 
1 政治体制改革と党の権力|中村元哉
2 政治体制改革を促す国家の性質と自治のあり方|中村元哉
3 労働組合の改革と労働者の自主性|久保茉莉子
4 社会主義体制下の民主と法治|吉見 崇
5 多党制の是非|家永真幸
6 直接選挙と競争原理の導入|家永真幸
7 人材の育成と任用をめぐる制度改革|久保茉莉子・宋 君宇
 
 Column 3 労働組合と勤労者評議会──チェコスロヴァキアの模索|中田瑞穂
 Column 4 旧東欧諸国の多党制|中田瑞穂
 
改革の論理を導くソ連・旧東欧諸国に対する評価
 
8 ネップに対する評価と改革の論理|横山雄大
9 フルシチョフに対する評価と改革の論理|河合玲佳
10 旧東欧諸国の変動およびペレストロイカに対する評価と改革の論理|吉見 崇
11 天安門事件直後のグラスノスチをめぐる評価|比護 遥
 
 Column 5 ソ連共産党の1961年綱領・規約における体系的更新原則について|松戸清裕
 
文献案内|河合玲佳/宋 君宇

関連情報

中村元哉研究室
https://dragon-china99.org/index.html
 
自著解説:
中村元哉「1980年代の中国はソ連・東欧をどう見ていたか」 (中国学.com 2023年10月23日)
https://sinology-initiative.com/society-and-culture/288/
 
研究プロジェクト:
科学研究費助成事業 (基盤研究 (A)) 2021-2025年度
「中国の改革開放萌芽期の再検討:メディア空間からみた旧東欧との分岐」
https://dragon-china99.org/project.html

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