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書籍名

現代中国の歴史 [第2版] 両岸三地100年のあゆみ

著者名

久保 亨、土田 哲夫、高田 幸男、井上 久士、 中村 元哉

判型など

304ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2019年9月24日

ISBN コード

978-4-13-022026-2

出版社

東京大学出版会

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現代中国の歴史 [第2版]

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日本においては、誰一人として、隣国中国を知ることの重要性を否定しないだろう。なぜなら、日中間の経済・文化交流が千年単位で続き、その関係性が20世紀末からさらに強まっているからである。そして、中国そのものが21世紀に入ってから大国化し、世界での存在感を増しているからである。むろん、中国にとっても日本は重要な隣国であり、おそらく世界のなかでも特別な存在であるに違いない。なぜなら、中国にとって漢字文化をこれほどまでに共有できる外国は、日本をおいて他には無いからである。
 
しかし、日中の相互認識は、なかなかかみ合わない。とりわけ、20世紀の日中間には戦争という不幸が発生し、戦後もイデオロギー対立をともなった冷戦思考が日中間に覆いかぶさったために、双方の相手国に対する認識は何重にもねじれてしまった。この問題の解決には日中双方の努力が継続して必要だが、日本は日本でやれるべきことを粛々とおこなうことが大切である。世界の覇権を力ずくで奪うかにみえる現在の中国をただ恐れ、それに不信感を抱くだけでは何も始まらないであろう。そもそも現在の中国は、どのように近代を歩んで、現在の地点に達したのだろうか。
 
本書は、この目的に応えるために編集された。想定される読者は、学部生、留学生、社会人である。本書は、中国にとって近代化の起点となった清末から約100年のあゆみを、最新の学術成果を分かりやすく反映させながら総括している。その約100年のあゆみには中華民国から中華人民共和国への移行と香港・マカオの返還が含まれるため、本書は自ずと中国・香港・台湾の「両岸三地」と呼ばれる複雑な関係性についても総括することになる。したがって、本書を通読すれば、近現代中国が中華の伝統やナショナリズムの論理および構造に身を置きながら、あるいは、それらから距離を保ちながら、時に日本や世界とも共通する課題に直面して21世紀を迎えたこと、そのダイナミックな変動のなかで「両岸三地」の関係性が推移して現在に至っていることを理解できるだろう。現在の中国は、社会主義をめざした1949年の革命で断絶しているわけではない。我われは、それ以前の史実を知らなければ、1970年代から実質的にすすんだ改革開放の基盤や20世紀末から強調されるようになった愛国教育の歴史的心性を理解できないだろう。
 
多くの人たちにとって事実を重視する歴史解説は、面白くないかもしれない。しかし、事実とそれをめぐる最新の解釈を知らなければ、すべてが思い込みの空論に陥ってしまう。本書は、学術と社会をつなぐ実践的なテキストである。と同時に、実直な研究成果に基づいているという意味からすれば、世界でも通用するテキストになっている (と信じている)。

 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 中村 元哉 / 2020)

本の目次

はじめに――中国とは何か
  広大な存在としての中国
  多様性と統一性,そして両岸三地
  日本人にとっての中国
  中国現代史をどう見るか
  未来を構想する中国現代史

第1章 中華民国の誕生
 1.20世紀初頭の世界と中国
  近代世界に引込まれた中国
  帝国の衰退と新たな胎動
  辛亥革命
 2.地方の時代
  地方エリートと近代教育の導入
  清末民初の議会政治
  地域社会と地方軍
  「打倒軍閥」
 3.民族運動の展開
  排外から反帝/愛国運動へ
  民族運動の展開
  近代的外交の成立  
 4.革命政党による政治
  新思想の影響
  共産党の結成・国民党の改組
  国民革命の展開

第2章 国民党中国の近代化と抗日戦争
 1.自立への模索
  国民政府の外交・財政・経済政策
  戦間期中国経済の発展
  国内統一の進展
  抗日運動の拡大と共産党の方針転換
 2.帝国日本との対決
  東北情勢と九・一八事変
  華北をめぐる対立
  抗日戦争の始まり
 3.抗日戦争と中国の戦時体制
  抗日戦争の長期化と第二次世界大戦
  国民政府の抗戦体制
  中国共産党と抗日根拠地
  日本占領地区と東北
 4.近代教育と都市文化の展開
  大衆文化の活況
  教育普及の模索
  アカデミズムの成立
  近代メディアの発展
 5.植民地台湾の発展
  台湾の近代
  日本の植民地統治
  社会統合と民族運動
  「皇民化」と戦争動員

第3章 共産党中国の成立と冷戦
 1.戦後再建の試みと国共内戦
  国民政府の戦後構想とその破綻
  行き詰まる戦後中国外交
  中国共産党による東北制圧
  49年革命と中華人民共和国の成立
 2.戦時体制から社会主義へ
  新民主主義を掲げた建国
  新たな外交の開始と朝鮮戦争
  冷戦体制下の社会主義選択
  中ソ「蜜月」とアジア外交
 3.文化大革命への道とその破綻
  中ソ対立と大躍進運動の失敗
  文化大革命の展開
  反米反ソ外交
 4.画一化された社会
  革命直後の社会
  「単位社会」の形成
  政治運動に翻弄される社会
  画一性の実際
 5.戦後台湾の出発と香港
  国民政府の接収政策と二・二八事件
  台湾海峡の危機とアメリカ
  台湾での国民党統治再建
  香港の工業化

第4章 現代の中国と世界
 1.改革開放と天安門事件
  国際緊張の緩和
  文革の終息
  改革開放路線への転換
  民主化運動と武力弾圧
 2.冷戦の終結と経済成長
  ソ連解体・東欧革命と中国
  90年代の改革開放
  高度経済成長とWTO加盟
  リーマン・ショック後の成長鈍化と新たな対応策
 3.多様化する社会
  都市における「小康」の実現
  農村の変容
  価値観の多様化
  「強国化」の陰で
 4.香港と台湾の変容
  香港返還と中国
  台湾化と経済発展
  台湾の民主化の進展
  政権交代と両岸関係の困難

おわりに
  富強の中国への道
  民主化の可能性
  両岸三地の現在,そして将来
  日中関係と尖閣問題
  日中関係と戦争の記憶
  世界の中の中国
 

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