東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に中国の知識人8名の顔写真

書籍名

中国、香港、台湾におけるリベラリズムの系譜

著者名

中村 元哉

判型など

264ページ、上製

言語

日本語

発行年月日

2018年5月25日

ISBN コード

978-4-908672-22-4

出版社

有志舎

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20世紀前半の中華民国(民国)期にも、リベラリズムとしか形容できない政治思想は確実に存在した。しかも、それは、中華人民共和国(人民共和国)成立以降も中国に伏流し続けると同時に、香港や台湾に広がっていった。本書は、中華圏におけるリベラリズムの生成と紆余曲折の道のりを、各地域のそれぞれの政治情勢と関連づけながら考察したものである。私が本書で分析したのは、儲安平、銭端升、張君勱、張知本、殷海光、雷震、顧準ら20世紀半ばに活躍した知識人であり、『観察』、『自由陣線』、『民主評論』、『自由中国』といった20世紀半ばに注目された政論誌である。
 
そもそも、多くの人たちは「近現代以降の中華圏においてリベラリズムがあったのか。かりにあったとしても、それに何の歴史的意味があるのか」と不可解に感じることだろう。確かに、それらは政治的にも社会的にも何もなし得てこなかったように思われる。とりわけ、近現代中国においては、ナショナリズムの完成と社会主義の実現が革命史の名の下で最優先されてきたため、その印象はさらに強くなるはずである。
 
私も、革命史を否定するつもりは毛頭ない。近現代中国は1949年に民国から人民共和国へと移行した以上、中国共産党による革命の歴史を研究対象とすることは今後も必要である。しかし、問題なのは、「近現代中国には中国共産党を中心とする革命史以外の歴史は存在せず、中国は自由や人権、あるいは民主政治や憲政とは無縁な特殊な地域だ」とする中国観が日本において蔓延していることである。
 
近現代中国も自らのやり方で近代化を模索してきたのであり、その模索のなかには、日本や世界と共通する試みも含まれていた。近現代中国にも、日本や世界と同質な一面があるわけである。そのような歴史を、学問の自由を享受する日本において、きちんと追究してもいいのではないだろうか。そうして近現代中国の実像を豊かに描き直し、それを中華圏や世界に対して発信していけばいいのではないだろうか。本書は、中華圏のリベラリズムを自由と権力という課題と向き合った「普遍的なリベラリズム」と政治情勢や文化情勢に左右された「現象としてのリベラリズム」に二分して、近現代中国における世界との共通性や特殊性を浮かび上がらせながら、日本の中国観を相対化しようとしたものである。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 中村 元哉 / 2019)

本の目次

はじめに――中国、香港、台湾のリベラリズムとは?
第1部 中国、香港、台湾のリベラリスト
  第1章 批判の自由を求めて――儲安平
  第2章 自由と統制の均衡を求めて――銭端升
  第3章 憲政の制度化を求めて――張君勱
  第4章 憲法による人権の保障を求めて――張知本
第2部 中国、香港、台湾における連鎖
  第5章 文化論としてのリベラリズム――殷海光
  第6章 日中戦争下の容共リベラリズム――広西、雲南から香港へ
  第7章 米ソ冷戦下の反共リベラリズム――香港と台湾
  第8章 反右派闘争から文化大革命までのリベラリズム
おわりに――蘇る中国、香港、台湾のリベラリズム
 

関連情報

講演:
基調講演:中村元哉(東京大学 大学院総合文化研究科 准教授) (東京大学駒場 2019年6月15日)
http://cold-war-sf.blogspot.com/2019/
 
書評:
苦難つづきの歴史 列伝風に (『日本経済新聞』 2018年6月9日号)
https://r.nikkei.com/article/DGKKZO3154573008062018MY7000?s=5

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