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緑の表紙

書籍名

中公新書 中国農村の現在 「14億分の10億」のリアル

判型など

304ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2024年2月21日

ISBN コード

978-4-12-102791-7

出版社

中央公論新社

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中国農村の現在

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今世紀に入ってから20年来、ひたすら疾走を続け、大発展を遂げてきた中国。中国に関する情報は日々、溢れ出し、国外にいても耳に入ってくる。

でも、ふと考えると、中国の農村って、一体どうなっているのだろうか? よく分からない。実は農村は、発展する都市の陰に、完全に取り残されているのではないか? 農村から都市への出稼ぎ者である「農民工」は労働の現場で虐げられているのではないか?「留守児童」は憐れむべき状況に置かれているのではないか? 人々の不満が渦巻いて農村では暴動が頻発し、崩壊寸前なのではないのか? 本当のところが知りたい。

この本を手に取る読者は、多少なりともこのような疑問を抱いているのではないか。そうした読者の疑問に、できる限り誠実に答えてみたい。それが本書のミッションである。

中国はわずか40年前まで、人口の8割程度を農民が占める、文字通りの農民国家で、正真正銘の「発展途上国」であった。2023年現在の都市化率は60%以上といわれているが、都市に住んでいても農村に実家があり、旧正月などには農村を訪れる「農村関連人口」でいえば、まだ70%を超えているだろう。ざっと10億人である。だからこそ、農村社会を理解することは、急速に発展しグローバル大国となった現在の中国の政治や経済、さらには対外関係に至るまで、より深く知るうえで避けて通れない。

本書では、以下の5つの大きな問いが検討される。

(1) 中国の農民とは、どのような歴史的経験を持ち、どういう思考様式を有する人々なのか? さらにいえば、中国はしばしば「格差社会」といわれるが、格差の底辺にいる農民たち本人は、この格差についてどう考えているのだろうか。
(2) 現在の農村の暮らしはどのようなものだろうか。貧困に喘いでいるのだろうか。誰が、どのようにして暮らしのなかで直面する様々な問題を解決しているのか。たとえば、政府の行政サービスは農村にまで行き届いているのか。
(3) 統治者である中国共産党中央と中央政府は、国内の農村をどう位置付けているのか。中国の政治体制は「権威主義体制」と呼ばれるが、その体制の維持にとり、農村社会はどのような働きをしているのだろうか。なぜ、村レベルにだけ競争的な選挙が展開しているのか。
(4) 私たち外国人による中国の農村のフィールド・ワークはなぜ、しばしば「失敗」するのだろうか。統治者である中国共産党中央と中央政府、地方政府や農村基層幹部 (村の役人たち) は、「外国」のことをどう考えているのか。
(5) 現在、中国政府が進めている「新型都市化政策」は、農村社会にとりどんな意味をもつのだろうか。それは今後、大都市に人口が集中し、農村が消滅していくことを意味するのだろうか。

中国の知り合いの家を何度も何度も訪れたような気持ちになりつつ、本の最後までお付き合いいただいた読者は、上記5つの問いが、いつの間にか氷解していることに気づくだろう。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 田原 史起 / 2024)

本の目次

序章 中国農村の軌跡
第1章 市民との格差は問題か?――農民の思考様式
第2章 農村はなぜ崩壊しないのか?――村落生活の仕組み
第3章 なぜ村だけに競争選挙があるのか?――農村をめぐる政治
第4章 中国農村調査はなぜ失敗するのか?――「官場」の論理
第5章 農村は消滅するのか?――都市化政策と農村の変化
終章 中国農村の未来

関連情報

著者インタビュー:
西村豪太「話題の本 著者に聞く:家族主義で経済最優先、中国農民の「まったり感」」 (『週刊東洋経済』 2024年4月20日号)
https://toyokeizai.net/articles/-/747298

著者コラム:
中国の農村での棟上げ式と大宴会
中国とインドの農村社会の比較 (1) (中国学.com 2024年8月29日)
https://sinology-initiative.com/society-and-culture/1650/

書評:
関谷雄一 評 (『教育学部報』第656号 2024年7月1日)
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/656/open/656-2-03.html
 
白石徹 評「<視点>中国・習近平氏への崇拝 農村10億人の岩盤支持」 (『東京新聞』 2024年5月28日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/329806
 
橋爪大三郎 評 「今週の本棚」 (『朝日新聞』 2024年5月11日)
https://allreviews.jp/review/6710

平山周吉 評「今月のイチ推し新書!」 (『文藝春秋』 2024年5月号)
https://bunshun.jp/bungeishunju/articles/h7928
 
『日本経済新聞』 2024年3月23日
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO79443050S4A320C2MY6000/

書籍紹介:
金順姫「著者に会いたい:田原史起さん「中国農村の現在」インタビュー 生身の姿を『オレ流』で」 (『朝日新聞』 2024年6月8日)
https://book.asahi.com/article/15299325
 
「新書DEカルチャー 中国農民の実像」 (『週刊現代』 2024年5月18日・25日号)
https://gendai.media/list/books/wgendai/4910206440547

嵯峨隆「BOOK REVIEW ON ASIA 今月の一冊」 (『東亜』第682号 2024年4月号)
https://www.kazankai.org/media/ea/a1260

「新刊案内 中国農村社会の構造を現地調査から説き起こす」 (『外交』第84号 2024年3月・4月)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/gaikou/vol84.html

「フィールド調査交え、臨場感に溢れる「中国農村の現在」 詫摩佳代の新書速報」 (『朝日新聞』 2024年3月16日)
https://book.asahi.com/article/15201867
 
寺田理恵「村内部での格差を気にする」 (『産経新聞』 2024年3月3日)
https://www.sankei.com/article/20240303-HUP7OOFUP5LAVEVWYF7HKGSYUA/
 
関連記事:
大内悟史「論壇Bookmark:人も仕事も還流、変わる中国の農村」 (『朝日新聞』 2024年9月23日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S16040734.html
 
田原史起「中国的『県域社会』の現在」 (『東亜』第686号 pp. 18-25 2024年8月)
https://www.kazankai.org/media/ea/a1440

 

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