東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

オレンジの表紙、テレビ制作現場の写真

書籍名

テレビ番組制作会社のリアリティ つくり手たちの声と放送の現在

著者名

林 香里、 四方 由美、北出 真紀恵 (編)

判型など

352ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2022年8月22日

ISBN コード

9784272331079

出版社

大月書店

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テレビ番組制作会社のリアリティ 

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やらせ、ジャニーズ問題、総務省接待。放送業界には不祥事が絶えないというイメージがあります。けれども、私たちは、テレビ番組制作の舞台裏をどれだけ知っているでしょうか。『テレビ番組制作会社のリアリティ つくり手たちの声と放送の現在』は、現代のテレビ業界で番組制作の中核を担う「番組制作会社」の内情を、実際の制作者たちへのインタビューをもとに描き出します。視聴者には見えない制作の苦労や喜びを綴りながら、放送事業の構造的問題に迫ります。
 
複雑化する制作現場のリアル
テレビ番組は私たちの日常生活に欠かせない存在です。その多くはテレビ局がつくってはおらず、番組制作会社という、テレビ局の下請けのような、多くは規模の小さい会社が請け負っています。これらの会社の給与は一般的に低く、労働時間も長いことから、テレビ局社員との格差が問題視されてきました。本書の調査では、20人のテレビ制作会社関係者に協力を依頼し、オンラインおよび対面でのインタビューを実施しました。新型コロナウイルスの影響で調査は困難を極めましたが、制作者たちの熱意に支えられて実現しました。制作現場の労働環境やジェンダー差別の問題、外部発注や派遣の増加など、現場の複雑な権力構造を浮き彫りにしました。その言葉の端々から、リアルな日常を垣間見ることができます。
 
デジタル情報化時代の放送事業の現在
本書はまた、テレビ業界の現在の状況についても触れています。視聴者のニーズや嗜好の変化、デジタルメディアの台頭、そして視聴率をめぐる熾烈な競争など、現代のテレビ業界が直面する多くの課題を分析しています。これらの要素がどのように番組制作に影響を与えているのか、そしてつくり手たちがそれにどう対応しているのかを探ることで、テレビというメディアが今後どのように変容していくのかを考える一助となると思います。
 
現場の声が紡ぐ放送事業の現実
放送局は一見華やかで、年収も高く、若者のあこがれの職場として発展してきました。そのような華やかさがあることは確かですが、それとは別に、業界には商業主義が支配し、組織構造的な課題があることは、番組視聴する際のメディアリテラシーの観点からも重要だと思います。ネット時代になったとはいえ、テレビは今日もニュースを知るためにもっともよく利用されるメディアだという調査結果があります。テレビというメディアの魅力と、その背後にある歴史、制度設計、そして個人の膨大な努力や苦労を感じ取っていただければと思います。とくに、情報化社会を生きる若い世代にとっても、多くの示唆を与えてくれると思います。
 

(紹介文執筆者: 情報学環 教授 林 香里 / 2024)

本の目次

序章 本研究のねらい――番組制作会社から考える日本のテレビ(林 香里)
1 不可視化されてきた「番組制作会社」
2 「番組制作会社」の定義
3 番組制作会社が注目される背景
4 本調査の問いとポリティカル・エコノミーの視座
5 番組制作会社研究の困難
 
第1章 制作会社の誕生と展開――テレビ制作の現場で(国広陽子・北出真紀恵)
1-1 制作会社の誕生――一致した経営者とクリエイターたちの利害
1 テレビ放送の開始と番組制作体制――混成チームの現場スタッフで出発
2 労使対立と番組制作――労働者としての番組のつくり手の葛藤
3 番組制作会社の誕生――安定的番組供給と経営合理化を背景に
1-2 制作会社の展開――デジタル技術革新と視聴率至上主義、規制緩和のその先に
1 デジタル技術革新と「放送と通信の融合」をめぐって――「ニューメディア時代」と”多チャンネル“への夢
2 「編成主導体制」の制作現場と「視聴率至上主義」のまん延――「編成主導体制」の登場
3 景気の低迷と「労働市場」の規制緩和
4 テレビ業界再編のうねりのなかで
 
第2章 制作現場の日常風景(石山玲子・花野泰子)
2-1 アシスタント・ディレクター(AD)の日常
1 あやかさんのある1日
2 番組制作のやりがいと特権
3 意外に多い雑用とデスクワーク
4 職場の人間関係
5 道半ばの働き方改革
2-2 番組制作会社に所属するディレクターたち
1 ディレクター、だいきさんのある1日
2 制作作業から得られる充実感
3 制作者としての辛さ
4 意思疎通の大切さ
5 働き方改革のしわ寄せ
2-3 プロデューサーは中間管理職
1 多忙な「営業兼マネージャー」
2 「部分業務委託」という不条理
3 後継育成の楽しみと限界
4 局系列会社は天下り先、独立系も局依存の番組制作
5 若手が育たない働き方改革とデジタル化技術の功罪
2-4 職人として生き残るベテラン・フリー・ディレクターたち
1 仕事と趣味が両立する仕事
2 滞る若手育成
3 中堅世代の空洞化
2-5 小括
 
第3章 番組制作者たちの軌跡と仕事への意識(小室広佐子・林 怡蕿)
3-1 一直線ではないキャリアパス
1 広い門戸と口づての入職
2 十人十色のキャリアの築き方
3-2 働く人の意識
1 制作会社は放送局の「植民地」
2 視聴率至上主義のもとで
3 仕事場と所属先のズレ
4 立ちはだかる見えない壁
5 低賃金と格差への不満
6 報酬は達成感と臨場感
3-3 「プロの制作者」への道のり
1 職業人教育
2 「昇格」のルートと壁、そして将来の展望
3 番組は誰のために
3-4 小括
 
第4章 「地方」の制作者たちの日常風景とキャリア(北出真紀恵)
4-1 地方における制作会社の経営状況
1 番組制作におけるクライアント(地方局)の位置づけ
2 地方制作会社の経済環境の変化――テレビ全盛期からリーマンショックへ
4-2 地方ディレクターたちの日常風景
1 地方ディレクターの制作業務
2 地方の現場から「東京」をながめてみると
3 地方における制作者たちのプロ意識
4 地方の制作会社における課題
 
 
第5章 番組制作現場のジェンダー・アンバランス(国広陽子・花野泰子)
5-1 番組制作会社のジェンダー構成
1 放送局のジェンダー構成
2 番組制作の現場におけるジェンダー構成
3 女性化するアシスタント・ディレクター職
5-2 女性たちのキャリア形成に向けて
1 女性アシスタント・ディレクターの未来――プロデューサーを目指す理由
2 現役女性プロデューサーたちのキャリア形成過程
3 女性のキャリア形成を阻む要因
4 男性たちのワーク・ライフ・バランス志向
5 番組制作現場ジェンダー・アンバランスのゆくえ
 
終章 テレビ番組制作会社と制作者たち――課題と展望(四方由美)
1 テレビ制作会社のリアリティ
2 疲弊するテレビ制作現場
3 番組制作会社と放送倫理
4 制作会社と制作者の今後

関連情報

書籍紹介:
四方由美「テレビの現場は今…」 (women’s action network 2022年9月10日)
https://wan.or.jp/article/show/10230
 
書評:
『ふぇみん』 2022年11月15日号
https://www.jca.apc.org/femin/book/20221115.html#c

研究報告:
北出真紀恵「番組製作会社から見る放送産業の変容に関する研究」 (公益財団法人放送文化基金 2018、2019年助成)
https://www.hbf.or.jp/grants/article/society2023
 
関連記事:
四方由美「日本のメディアにおける女性活躍推進」 (『学術の動向』22巻8号 pp. 74-79 2017年)
https://doi.org/10.5363/tits.22.8_74
 
四方由美「ワークショップ6「女性活躍推進」と放送の労働現場」 (『マス・コミュニケーション研究』No. 90 pp. 173-174 2017年)
https://doi.org/10.24460/mscom.90.0_173
 
インタビュー:
「メディア不信」逆転への処方箋 林香里・東京大学教授 (一般社団法人インターネット報道協会 2024年7月30日)
https://www.inaj.org/article/110/
 
「メディアは組織変革を」林香里教授に聞くジャーナリズムの明日 (東大新聞オンライン 2020年12月17日)
https://www.todaishimbun.org/prof_hayashi_20201217/

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