東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

ロボットの手の写真

書籍名

ロボット・AIと法

著者名

弥永 真生、 宍戸 常寿 (編)

判型など

328ページ、A5判、並製カバー付

言語

日本語

発行年月日

2018年4月

ISBN コード

978-4-641-12596-4

出版社

有斐閣

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ロボット・AIと法

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このところ、ロボットやAIに関する話題や記事に触れない日はない。その背景には、自動走行をはじめとしてロボット・AIに関する技術の実用化が進んでいることに加えて、少子高齢化や人口減少の進む日本の経済・社会にとってロボット・AIへの期待は高まる一方といった事情がある。その反面、「ロボットに人間の仕事が奪われるのではないか」「AIによって個人の自律やプライバシーが脅かされるのではないか」といった危惧、懸念の声も聞こえるようになっている。
 
ロボット・AIに関する社会科学からの発信も近年増えてきているが、本書では、13人の法律家が、それぞれの研究分野からこの問題にアプローチした。本書をひもといた読者は、ロボット・AIがどのような法的課題を投げかけているか、民法・商法・刑事法・行政法等における既存の枠組みがどこまで有効なのか、新たな捉え方がなぜどのように必要になるのか等々、問題状況を概観できるはずである。
 
本書の執筆陣はいずれも、それぞれの法分野の最先端を走るとともに、隣接する法分野と対話し、経済・技術等の他の知見を吸収することに熱心な論客である。そのような――世間からは「型破り」に見える――法学研究者の先駆者である弥永教授とともに、本書の編集に携わることができたことは、私にとって光栄なことであった。
 
IoTやビッグデータとともに”Society 5.0”の不可欠な要素とされていることからもわかるとおり、現在のロボット・AI技術の隆盛や実用化はIT・ICTと切っても切り離せない。そのことは、ロボット・AIをめぐる法的課題が情報法と密接に関わることを意味している。知的財産権の代表的実務家や、国際的に活躍する競争法の研究者に加わって頂いたおかげで、本書の提供する視点や知見は、よりいっそう多角的・多面的なものになったと感謝している。
 
自律型兵器の規制をはじめ、ロボット・AIをめぐる議論は国際的にも盛んになる一方である。私自身は国内の政策動向を略述する第一章を執筆したが、その間には何度も、変化の早さや問題の広がりに目がくらむような思いがした。研究者を含む法律家や法学部生を念頭におきながら、社会や技術者と情報を共有することの必要性を説いたのは、そのためである。
 
その反面、ロボット・AIの研究開発や社会実装に関わる人たちが、公正な社会の枠組みである法に関心を持ち、法律家と必要な対話を重ねることが、ロボット・AIの健全な発展にとって不可欠であるだろう。「本書は、ロボット・AIを介した法学入門でもあり、法学をバックグラウンドにする読者にとっては法学再入門にもなっている。」と書いたのは、セールストーク半分だが、我ながら本書の意義をうまく説明しているものと思っている。本書が広く読まれることを、願っている。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 宍戸 常寿 / 2019)

本の目次

第1章 ロボット・AIと法をめぐる動き(宍戸常寿)
  I   はじめに
ロボット・AI ブーム/ロボット・AI と法の関わり/本章のねらい
  II  ロボット・AI とは?
ロボットとは?/AIとは?/ロボット・AIの何が新しいのか?
  III  ロボット・AI による社会変革
時間軸―シンギュラリティ?/「第4次産業革命」と「Society5.0」/日本におけるロボット・AI政策の力点
  IV  ロボット・AI の社会的影響と対応
ロボット・AIの社会的影響とリスク/リスク社会における科学と社会の関係/ロボット・AIの開発・利活用について留意すべき点
  V  ロボット・AI と法(学)
ロボット・AIがもたらす法(学)の課題/ロボット・AIによる法のパラダイムシフト?/「ロボット・AI法」の独自性
  VI  おわりに――本書の概観
国内外の動向/理論的検討/各論的検討
 
第2章 ロボット・AIと法政策の国際動向(工藤郁子)
  I  はじめに
「ロボット・AI と法」は,こわくない?/法政策のデザイン/本章の構成
  II  欧州
ロボティクス規制に関するガイドライン/ロボティクスに関する民事法的規則/「モノづくり」と法政策
  III  米国
IT産業と法政策/AIの未来に備えて
  IV  おわりに
 
第3章 ロボット・AIと自己決定する個人(大屋雄裕)
  I  法システムの基礎
分割不能な個人/保護と排除の法
  II  自己決定の自律性への問い
認知科学の挑戦/アーキテクチャの権力/幸福への配慮/あらたな可能性
  III  意識されない操作と統制
規制への意識/no way out(出口なし)
  IV  行為者の人格性への問い
人と物の世界/人間の条件
  V  人格なき社会への展望
  COLUMN サイボーグをめぐる問題
 
第4章 ロボット・AIは人間の尊厳を奪うか?(山本龍彦)
  I  はじめに
  II  個人の尊重原理とは何か
  III  集団と個人――個人の尊重原理・第2層をめぐる考察
アルゴリズム上のバイアス/セグメントに基づく確率的な判断―個人主義とセグメント主義との相剋/「過去」の拘束
  IV  個人の自律――個人の尊重原理・第3層を巡る考察
不条理な没落/他者的「家族」としての接近/コピーロボットへの接近
  V  おわりに
 
第5章 ロボット・AIの行政規制(横田明美)
  I  はじめに
  II  安全確保における法制度と行政規制

民事法・刑事法との関係―予防司法としての行政規制/安全のための行政規制/消費者法制における民事法・刑事法・行政法の組み合わせ
  III  既存の法システムと新技術への対応
日常生活に溶け込む製品の安全性―有体物とソフトウェア,ネットワーク/道路交通をめぐる法制度
  IV  ロボット・AIの普及による社会の変化
モノとソフトウェア・ネットワークとの融合/学習するAI,判断過程のブラックボックス化/アクターの多層化,複層化
  V  ロボットが普及する社会と行政規制
「ロボット・AI法総論」と「ロボット・AI法各論」/「AI開発ガイドライン」案への意見募集をめぐって/総論と各論の相補的見直しと行政の役割
 
第6章 AIと契約(木村真生子)
  I  はじめに
  II  アルゴリズム取引と現代的な契約
アルゴリズム取引―契約の自動化の進展/自動化された取引から生ずる問題/規制当局の対応
  III  「人」と「機械」の相互作用から契約は生まれるか
「人」と「機械」による取引と契約法の関係/単純な機械と人との取引―自動販売機による売買/複雑な機械と人との取引―クローズド・ネットワークでのコンピューター通信/オープン・ネットワークでのコンピューター取引
  IV  コンピューターは代理人となれるのか――アメリカとドイツの考え方
アメリカ/ドイツ/まとめ
  V  AI の出現
AIをめぐる契約の動き/AIを介した契約の帰趨
  VI  おわりに
 
―ロボット・AIと競争法―(市川芳治)
1 ある事例から
2 競争法の思考枠組みとロボット・AI
3 競争当局等の問題関心
4 基本への立ち返り
5 エンフォースメント
6 終わりにかえて
 
第7章 自動運転車と民事責任(後藤 元)
  I  はじめに
自動運転技術の発展/自動運転と民事責任/本章の構成
  II  自動運転技術のレベル
  III  現行法を前提とした検討
ドライバー・運行供用者の民事責任/自動運転車メーカーの民事責任
  IV  将来的な制度設計の可能性
現行法を前提とした帰結の問題点/制度設計の選択肢
  V  結びにかえて
 
第8章 ロボットによる手術と法的責任(弥永真生)
  I  ロボット製造業者の製造物責任
  II  ロボット製造業者の不法行為責任
  III  インフォームド・コンセント
  IV  債務不履行責任と瑕疵担保責任
  V  契約により責任を制限することが認められるか
対病院等―定型約款/対患者―消費者契約法
  VI  遠隔手術に伴う法的問題
遠隔医療・遠隔手術の展開/どこの裁判所に訴えるか―裁判管轄/どの国の法律が適用されるのか―準拠法
  VII  今後の課題
免許制度の可能性/「欠陥」「瑕疵」「過失」の立証の困難さ/保険または補償制度の可能性
 
第9章 ロボット・AIと刑事責任(深町晋也)
  I  はじめに
  II  モデルケース
事例1/事例2/事例3
  III  自動走行車と過失犯の成否
自動走行車の意義とその種類/レベル3の自動走行車と死傷事故
  IV  レベル4 以上の自動走行車と過失犯の成否
前提:レベル4以上の自動車は公道を走れるか/レベル4以上の自動走行車と刑事責任:AIの刑事責任?/レベル4以上の自動走行車と刑事責任:設計者の責任
  V  自動走行車と生命法益のディレンマ状況
生命法益のディレンマ状況とは/ドイツ刑法学における生命法益のディレンマ状況の解決/我が国における生命法益のディレンマ状況の解決/自動走行車のプログラミング段階での問題
  VI  ロボット・AI が被害者的な立場に立つ場合
総説/人間の感情/人間との密接な関係
  VII  終わりに
 
第10章 AIと刑事司法(笹倉宏紀)
  I  はじめに
  II  刑事司法におけるAIの可能性――総論
  III  AIと事実認定

事実認定の仕組み/AIによる代替可能性/学習の限界と事実認定過程の複雑さ/証拠能力
  IV  法の適用判断
  V  その他の活用場面
量刑・再犯予測/新派刑法理論の復活?/保釈・令状審査/起訴猶予/捜査/取調べ/AIが捜査に協力する場合
  VI  法の支配とAI
 
第11章 ロボット・AIと知的財産権(福井健策)
  I  導入
  II  ロボット・AIコンテンツの広がり
  III  ロボット・AIコンテンツの特徴と社会影響
大量化・低コスト化/テーラーメイド化/権利侵害・フリーライドの恐れ/新たな体験・発見・感動
  IV ロボット・AIの知財問題
検討の視点/学習用データ/ロボット技術・AI本体(アルゴリズム)/学習済みモデル/生成コンテンツ
  V  おわりに
 
第12章 ロボット兵器と国際法(岩本誠吾)
  I  はじめに
ロボット兵器の登場/ロボット兵器の特徴/進化ロボット兵器への不安
  II  ロボット兵器の分類と現状
ロボット兵器の分類基準/ロボット兵器の現状
  III  ロボット兵器の法規制動向
2012年以前の動向/2013年以降の動向/非公式専門家会合から政府専門家会合へ
  IV  国際法上の議論
用語の定義/国際人道法の適用/新兵器の法的審査/国際責任の追及
  V  関連事項の議論
倫理的考慮とマルテンス条項/LAWSの予測可能性/人間による制御/LAWSの内在的危険性
  VI  おわりに
法規制アプローチの対立/事前規制推進派と事前規制慎重派/議論の困難性を超えて
 

関連情報

トークイベント/講演:
2018年度第11回例会「ロボット・AIと法」 (日本アクチュアリー会 2019年3月12日)
http://www.actuaries.jp/meeting/reikai/reikai2018-11.pdf
 
「『BEATLESS』が問う、『ロボット・AIと法』」~大屋雄裕×長谷敏司×工藤郁子 (進行) ~ (ジュンク堂池袋本店 2018年6月23日)
https://www.youtube.com/watch?v=RQsdc_6MGNA&list=PLcJVy1N9xduVq09Ertx1SPPdRAVgnIXKA
 
 
ランキング:
JDLA日本ディープラーニング協会G検定合格者が選ぶディープラーニング関連おすすめ書籍ランキング (2019年2月4日)
https://drive.google.com/file/d/1EGLuPw1DF3f-1UVAtjfau2PHzGDws6AL/view
 
 
書籍紹介:
編集担当者による本書紹介 Book Information (『法学教室』No.452 2018年5月)
http://www.yuhikaku.co.jp/static_files/BookInfo201805-12596.pdf
 
 
書評:
「良品10選 今月のおすすめ商品新商品紹介」 (『会社法務A2Z』VOL2019-6 2019年5月25日)
https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/103613.html
 
飯村敏明 (弁護士) 評  (『判例時報』No.2394・2395/春季合併号 2019年3月11日・21号)
http://hanreijiho.co.jp/wordpress/book/%e5%88%a4%e4%be%8b%e6%99%82%e5%a0%b1-no-2394%e3%83%bb2395%ef%bc%88%e6%98%a5%e5%ad%a3%e5%90%88%e4%bd%b5%e5%8f%b7%ef%bc%89/
 
新刊ガイド (『法学セミナー』通巻764号 2018年9月)
https://www.nippyo.co.jp/shop/magazine/7834.html
 
今を読み解く:中山幸二 (明治大学自動運転社会総合研究所所長) 評 「自動運転社会の衝撃 技術が変える法と人間観 (日本経済新聞朝刊 2018年6月23日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO32109230S8A620C1MY5000/

話題の本 (日刊工業新聞 2018年6月22日)
 
情報フォルダー (朝日新聞 2018年5月26日)
 

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