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書籍名

AIと社会と法 パラダイムシフトは起きるか?

著者名

宍戸 常寿、 大屋 雄裕、小塚 荘一郎、佐藤 一郎 (編)

判型など

368ページ、A5判、並製カバー付

言語

日本語

発行年月日

2020年8月

ISBN コード

978-4-641-12617-6

出版社

有斐閣

出版社URL

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学内図書館貸出状況(OPAC)

AIと社会と法

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本書は、「論究ジュリスト」誌上に足かけ2年にわたって連載された座談会企画「AIと社会と法――パラダイムシフトは起きるか?」を一冊にまとめたものである。連載が始まった2018年春は、ようやく法学者もAIをめぐる話題に関心を持ち始めた時期であり、AIとその規制に関する国際的な動向を法律家のコミュニティに紹介するという役割があった。
 
AIが社会や法にどのようなインパクトを与えるかを議論するためには、法学内部でも適切な陣容を整えるだけでなく、法律家にわかりやすく状況を解説し、また同じ土俵で議論してくれるテクノロジーの専門家が必要である。このため、個人情報保護法の改正の議論等でご一緒してきた佐藤一郎教授 (国立情報学研究所) に、コアメンバー、そして本書の編者として参画いただいた。佐藤教授には、最新の知見を提供頂くだけでなく、テーマにふさわしい専門家をゲストスピーカーとして紹介してくださった。テクノロジーと法の対話という本書の企図がある程度達成されているとすれば、それはひとえに佐藤教授のおかげである。
 
他のコアメンバーかつ編者としては、本学法学部出身の研究者である、小塚荘一郎教授 (学習院大学) と大屋雄裕教授 (慶應義塾大学) に参加いただいた。お二人とも、守備範囲を狭く限らず他流試合をいとわない、法学の分野では名うての論客である。筆者を含めた4人に加えて毎回、AIに関わる研究者や実務家をゲストスピーカーに招いた座談会は、とにかく議論活発で話題も盛りだくさんであり、進行役であった筆者はいつも時間を気にしながらではあったが同時に勉強することが多かった。
 
AIをめぐる法学の議論は、まずは個人情報保護・プライバシーや著作権等、データに直接関係する分野との接点が多いが、民法・刑法・競争法・労働法等、あらゆる法分野に大きな影響を与えることを、本書は各分野の専門家との討論を通じて、具体的に明らかにしている。他方で、AIがいかに人間を上回る学習・推論の能力を備えていようとも、なお人間の「道具」にとどまる限り、これまで人間の社会が大事にしてきた、自由や公正といった価値は、AIの普及する社会でも維持されなければならないし、そのために法が果たすべき役割も、また法や法律家が自己革新を遂げる必要も、示すことができたのではないかと思う。AIの研究者やAIを利用する人々にとっての、法学入門としての意義もあるだろうと自負している。
 
2019年にはG20大阪サミットがあったが、その前後にも国際機関やEU等でのAIの規律をめぐる議論は加速し、さらに最終的な編集作業は新型コロナウイルス感染症が拡大する中で進められたが、本書はそうした現在進行形の展開を追いかける記録としても、役立つのではないかと思う。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 宍戸 常寿 / 2021)

本の目次

第1章 テクノロジーと法の対話
第2章 データの流通取引──主体と利活用 (ゲスト:生貝直人・市川芳治)
第3章 契約と取引の未来──スマートコントラクトとブロックチェーン (ゲスト:岡田仁志・西内康人)
第4章 医療支援 (ゲスト: 江崎禎英・寺本振透)
第5章 専門家責任 (ゲスト: 橋本佳幸・森田 果)
第6章 著作権 (ゲスト: 奥邨弘司・羽賀由利子)
第7章 代替性──AI・ロボットは労働を代替するか? (ゲスト:笠木映里・佐藤 健)
第8章 サイバーセキュリティ (ゲスト: 谷脇康彦・湯淺墾道)
第9章 フェイクとリアル──個人と情報のアイデンティフィケーション (ゲスト: 成瀬 剛・山本龍彦)
第10章 これからのAIと社会と法──パラダイムシフトは起きるか?

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