東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

PCを持って船に乗っている動物たちのイラスト

書籍名

絵と図でわかる AIと社会 未来をひらく技術とのかかわり方

著者名

江間 有沙

判型など

192ページ、B5変型判

言語

日本語

発行年月日

2021年5月21日

ISBN コード

978-4-297-12130-3

出版社

技術評論社

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

AIと社会

英語版ページ指定

英語ページを見る

人工知能 (AI) を社会と切り離して考えることはできない。現在AIは社会の未来を考えるときにも、そして私たちの社会のインフラを考える上でも重要な技術であり概念となっている。
 
本書は「絵と図でわかる」シリーズでもあり、AIと社会の問題に関する課題をイラストやマンガを使いながらわかりやすく解説している。その中でも特に強調したいのは、AIを描く未来像には「どういう社会に私たちが住みたいか」という様々な価値の選択があることだ。第1章「AIがもたらす価値のトレードオフ」 (図1) では、エネルギー効率などを考慮した「環境に配慮した社会」が人々の行動を誘導する「管理社会」と表裏一体であることや、様々な趣味を共有できるコミュニティができる「多様化社会」は同時に他の多様な価値に触れることのない「同質化社会」を生み出すといった価値の対立を示している。


『絵と図で分かる AIと社会』(技術評論社、2020、p.10-11)
 
 
またAIが社会に入り込むことによって、様々な課題も出てきている。図2で紹介しているように、AI技術が画像や音声を生成することによって、悪用されたり誤情報が拡散されたりすることが現実におきている。またAIのアルゴリズムや学習データが偏っていることにより、AIの判断が差別的になることが実際に問題となっている。さらにはAIを使った私たちの働き方がどのように変わるのか、軍事に利用されることへの懸念など、現代に生きる私たちが直面している課題は多い。
 

『絵と図で分かる AIと社会』(技術評論社、2020、p.18-19)
 
 
このような対立や課題にどのように対応していくか、そのためにはAIのガバナンス (統治) の在り方をAI技術やデザイン、人々の認知、そして社会制度などを組み合わせながら考えていかなければならない。2章から5章まではそのような視点から現在のAI技術ができること、社会の仕組みとして考えるべきこと、そして技術と社会の接し方や説明の仕方から対応できることを紹介している。
 
気づかないうちに私たちの社会や生活に深く入り込んでいて、多くの恩恵がもたらすと同時に、さまざまな課題も発生しているのが「AIと社会」の関係だ。最後の第7章では、私たちには何ができるのかという問題提起のもと、企業や開発者、そして消費者やAIの利用者である私たち一人ひとりが、第1章で掲げた目指したい未来像を考えていくことの重要性を説いている。AIというレンズを通して、今の私たちの社会を見つめなおし、技術とのかかわり方を考える1冊である。

 

(紹介文執筆者: 未来ビジョン研究センター 准教授 江間 有沙 / 2023)

本の目次

第1章 未来は複数ある
1-1 これからの社会を考えよう
1-2 AIがもたらす価値のトレードオフ
1-3 人とAIの関係性
1-4 AIと社会の世界地図
1-5 AIと未来ビジョン
1-6 AIをめぐるさまざまな課題
1-7 本書の見取り図
 
第2章 AI技術の基本を知ろう
2-1 AIを支える技術と環境
2-2 AIの歴史と冬の時代
2-3 学習する機械(AI)ができること
2-4 機械に学習させる方法
2-5 学習に必要な手順
2-6 脳のしくみを使う
2-7 ニューラルネットワークから深層学習へ
2-8 AIの研究分野と広がり
 
第3章 AI技術の課題を探ろう
3-1 AIシステムの作り方:料理にたとえて考えてみると……
3-2 品質保証
3-3 説明可能性と透明性
3-4 意味理解と常識
3-5 頑健性
3-6 生成
3-7 転移学習
3-8 AIの民主化
 
第4章 AI技術が引き起こす社会の課題に気づこう
4-1 迷探偵AIの事件簿
4-2 問題が起きる理由
4-3 データとデータセット
4-4 アルゴリズムと社会の問題
4-5 プロファイリング
4-6 社会の分断
4-7 フェイクとヘイトスピーチ
4-8 プライバシーと個人情報保護
4-9 セキュリティと安全
 
第5章 技術と社会のデザインを考えよう
5-1 AIシステムの作り方:評価と調整
5-2 インタフェースのデザイン
5-3 誰がAIを開発し評価するか
5-4 人間らしさの追求
5-5 人間らしい会話の追求
5-6 人間らしい外見や動作
5-7 AIシステムをどう説明するか
5-8 人と機械の生死のデザイン
 
第6章 社会が抱える課題を見直そう
6-1 AIを使った生活や働き方
6-2 仕事とタスク
6-3 機械に何を任せるか
6-4 改良と改革
6-5 データ利活用の課題
6-6 AIガバナンス
6-7 人間関与とリスク対応
6-8 責任と信頼性
6-9 デュアルユースと軍事利用
 
第7章 私たちに何ができるか
7-1 目指したい未来を考えよう
7-2 包摂と排除のデザイン
7-3 設計思想とバイデザイン
7-4 私たちにできること
 
column
手塚治虫プロジェクト
トロッコ問題を考える
タスク分けワークショップ
COVID-19とデータガバナンス
リスクチェーンモデル(RCModel)
 
おわりに
AIと社会について理解を深めるためのブックガイド
参考とするウェブサイト
索引
 

関連情報

関連サイト:
東京大学未来ビジョン研究センター | 技術ガバナンス研究ユニット - AIガバナンスプロジェクト
https://ifi.u-tokyo.ac.jp/projects/ai-governance/
 
著者インタビュー:
【オンデマンド配信】東京大学ホームカミングデイ 「QuizKnockと探る!未来ビジョン」#2 (YouTube | UTokyo IFI 2022年10月18日)
https://www.youtube.com/watch?v=IAtaHVWNPT0
 
フロントランナー挑む 第123回
AI利用,安全・適切に 対話の「場づくり」めざす:江間 有沙 (『日経サイエンス』2022年4月号 2022年2月25日)
https://www.nikkei-science.com/202204_012.html
 
期待の若手研究員に注目! 令和3年度「卓越研究員」の研究に迫る (2) (『東大新聞オンライン』 2022年1月16日)
https://www.todaishimbun.org/takuetsu_20220116/
 
「AI倫理」を実装するのは誰?(いかにして?):江間有沙──「THE WORLD IN 2022」 AI GOVERNANCE (『WIRED』日本版vol.43 2021年12月15日)
https://wired.jp/2021/12/15/vol43-the-world-in-2022-arisa-ema-ai-governance/
 
【江間有沙氏・特別インタビュー】AIを考えるとは、住みたい社会を考えること -AIと社会のこれから (AINOW 2021年10月22日)
https://ainow.ai/2021/10/22/259257/
 
WHOが医療AIの倫理的な国際基準を作る理由 - バイアス問題、医療とAIの業界文化の違いなどが課題 (日経バイオテク 2021年10月13日)
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/21/10/08/08714/
 
「議論と実践は双方向、アジャイル的に取り組む」-世界を取り巻くAI倫理の課題【第4回人工知能学会誌コラボ】 (AINOW 2021年4月27日)
https://ainow.ai/2021/04/27/254887/
 
「人間は何でもAI任せにしていいのか」AI研究者と東大特任講師が出した結論
「技術で社会がよくなる」は本当か? (PRESIDENT Online 2021年3月16日)
https://president.jp/articles/-/44101
 
知性を宿す機械 – Why do we need to discuss “AI Ethics” now? - なぜ今「AI倫理」の議論が必要なのか (MIT Technology Review 2020年9月29日)
https://www.technologyreview.jp/s/218730/why-do-we-need-to-discuss-ai-ethics-now/
 
対談:「人間中心のAI」の社会実装を目指して(後編)
「AI倫理ガイドライン」に表出する企業理念 (BIPROGY TERASU 2020年7月29日)
https://terasu.biprogy.com/article/bt_talk_ai-ethics_2/
 
対談:「人間中心のAI」の社会実装を目指して(前編)
AI倫理が問いかける「人とテクノロジー」の関係性 (BIPROGY TERASU 2020年7月22日)
https://terasu.biprogy.com/article/bt_talk_ai-ethics_1/
 
<ゆるくゆたかに 不寛容にあらがう> (5) 東京大特任講師・江間有沙さん (『中日新聞』 2020年5月22日)
https://www.chunichi.co.jp/article/38978
 
人工知能と社会の関係を考える「AIと社会の総合診療医」| 江間有沙 | UTokyo 30s No.8 (東京大学広報誌『淡青』39号 2019年11月19日)
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z1304_00042.html
 
書評:
柳川範之 評「イラスト満載でこれからのAI社会を考えるユニーク本」 (エコノミストOnline 2021年7月2日)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20210713/se1/00m/020/011000c
 
講義:
人工知能と社会をめぐる課題にどう向き合うか:江間 有沙 (東京大学 未来ビジョン研究センター 准教授) (応用脳科学アカデミー 2022年8月30日)
https://www.can-neuro.org/2022/basic_3_2_2/1691/
 
イベントリポート: 「AIが性別や人種で差別するのは暴走ではない 理由は「社会の歪み」にある」  (Ledge.ai 2020年9月15日)
https://ledge.ai/asteria/
 
イベントリポート: 「AI美空ひばり」どこまでがAIでどこまでが人なのか (Ledge.ai 2020年8月27日)
https://ledge.ai/miraikan/
 
台湾版:
江間有沙『超圖解 AI與未來社會:建立數位時代的科技素養,強化邏輯力×創造力×思考力』 (台灣東販 2022)
https://www.books.com.tw/products/0010915193
 
現在、韓国語への翻訳も進行中
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています