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書籍名

AIから読み解く社会 権力化する最新技術

判型など

328ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2023年3月31日

ISBN コード

978-4-13-053033-0

出版社

東京大学出版会

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

AIから読み解く社会

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本書は、東京大学とソフトバンクの共同研究拠点「Beyond AI 研究推進機構」内の研究グループ「B’AI グローバル・フォーラム (https://baiforum.jp)」のメンバーが中心となって執筆・編集した論考集である。B’AIは、私たちの日常生活に浸透しつつあるAIの社会的影響を学際的視点から検討する研究グループで、私たちが本書で目指したのは、文系・理系の区別や研究分野の壁をできる限り乗り越えたいということと、AIや関連技術に関して、技術的な側面のみならず、政治的・社会的・文化的観点から考察し発信していくことである。
 
今やAIは、検索エンジンやオンラインショッピング、オンライン記事など、私たちの日常生活に溢れている。私たちの生活に意識的・無意識的に浸透するAI技術が、どのような問題を孕み、また同時にいかなる可能性を秘めているのか、さらには今後AIといかに向き合うべきなのか、本書は、労働問題や生殖医療、メディア表象など具体的事例を通して複数の角度から提案している。
 
ここで重要なのが、本全体を通して根底に流れているテーマ「権力」である。副題の「権力化する最新技術」が意味するのは、必ずしもAI技術が強力な力を発揮して人間社会を征服するというような、ディストピア的なものだけではない。同時に考えるべきは、目に見えない・意識さえされない「権力」の存在である。目に見えない権力は、人が意識的または無意識的に持っているかもしれない人種やジェンダーなどへの認識や差別、バイアスなどを作り出したり、助長したりもする。また、私たちが社会的規範として考えているものや、流行なども、ある種の権力が働いていることになる。そこでは、例えば政府や大企業などの目にみえる分かりやすい形でその権力の行使者が存在する場合もあれば、社会の中に埋め込まれ、どこに権力が存在するのかが分かりづらい場合もある。さらに、目に見えない権力の元で社会の中に根強く存在する偏見は、例えば検索エンジンのアルゴリズムなど、AI技術の中に組み込まれ、バイアスのかかった技術が生まれたりもする。だが一方で、AIはそうした偏見や差別を是正するための道具として使われうる可能性も秘めているだろう。
 
本書の表紙は、こうした様々な意味での権力が見え隠れするAI技術を象徴するものでもある。そのイラストは、カナダのスタートアップ企業が提供する画像作成のための生成AIを使い作成した。これは、例えば、ヴァルター・ベンヤミンが論じたような19世紀以降の複製技術の延長線上の議論として据えることもできるだろう。また、真正性オーセンティシティやクリエイティビティ、また人間の主体性といった問題も提起するものでもある。
 
本書は、様々な権力のあり方を直接的・間接的に論じることで、AI技術が私たち一人ひとりと密接に関係していることを示すと同時に、AIの様々な姿を知った上で、研究分野や立場を超えて多くの人々がAIに関する対話に参加できるような環境作りのきっかけとなることを目指した。AIの開発に一喜一憂したり、ただ単に「便利さ」を礼賛したり、一方で警戒・批判だけするのではなく、多面的に技術開発・利用について考えるきっかけになれば本望である。
 

(紹介文執筆者: 情報学環 准教授 久野 愛 / 2023)

本の目次

はじめに AI:不完全な人たちのための不完全な技術(林 香里)
 
I インクルーシブな社会をつくる
第1章 言語にまつわるバイアスと自然言語処理(伊藤たかね)
第2章 権力装置としてのVR(畑田裕二)
第3章 発達障害を見える化する人工知能(長井志江)
第4章 AIとジャーナリズム(李 美淑)
文献案内(小平沙紀)
 
II 人間らしくあるために
第5章 AIと労働市場(横山美和)
第6章 AIと共存する民主主義的主体に向けて(田中 瑛)
第7章 AI時代の五感と身体(久野 愛)
第8章 人間らしい言語処理モデルの開発(大関洋平)
文献案内(板津木綿子)
 
III AIに潜む脅威
第9章 越境する身体――AI時代の国際移動の管理(アナ・べドゥスキ/マシュー・スエダ 訳)
第10章 リプロダクティブ・ヘルス/ライツの尊重とAI――『殺人出産』から考える日本の最先端生殖医療の未来(佐野敦子)
第11章 歴史博物館におけるAIと歴史証言(矢口祐人)
第12章 アルゴリズムバイアスと南北問題 「AIガバナンスの厄介な問題」(アニタ・グルマーシー、ナンディニー・チャミ/大月希望 訳)
文献案内(大月希望)
 
IV ともに生きるためのビジョン
第13章 想像と創造の循環からうまれるAIとポピュラーカルチャーの未来(板津木綿子)
第14章 AI/アルゴリズムとインターセクショナルなフェミニズム(田中東子)
第15章 AIを描いてみよう!――メディアの隠喩的理解を育むワークショップ(水越 伸)
第16章 AIのELSIとガバナンス――科学技術社会論の観点から(横山広美・一方井祐子)
第17章 科学技術と権力――AIがもたらすマイクロ権力のあぶく(佐倉 統)
文献案内(キム・カヨン)
 
おわりに(板津木綿子・久野 愛)
 

関連情報

著者コラム:
その便利さは誰のため? AI技術を実装する前に、問うべきこと (MODERN TIMES 2023年10月13日)
https://www.moderntimes.tv/articles/20231016-01ai/
 
イベント:
B’AI-UTokyo NY Office Event “The Future of Higher Education in the AI Age”Held  (UTokyo New York Office  2023年12月14、15日)
https://utokyony.adm.u-tokyo.ac.jp/news/2023/12/bai-utokyo-ny-office-event-the-future-of-higher-education-in-the-ai-ageheld/
 
AIとどう生きる?『AIから読み解く社会——権力化する最新技術』(2023) 刊行記念イベント (2023年7月28日) (B’AI Global Forum | YouTube 2023年8月10日)
https://www.youtube.com/watch?v=1nqc3cukYhY
 
B’AI Book Club: Book Review Session  (B’AI Global Forum 2023年3月22日)
https://baiforum.jp/en/report/re066/
 
Rome Call for AI Ethics: A Global University Summit  (University of Notre Dame, Notre Dame, Indiana, USA 2022年10月26、27日)
https://beyondai.jp/contents/2022/11/15/rome-call-for-ai-ethics/
 
書評:
大向一輝 評 (『人工知能学会誌』Vol.38, No.5, p.770 2023年9月)
https://www.ai-gakkai.or.jp/published_books/journals_of_jsai/past_journals/in2023/vol38_no5/
 
書籍紹介:
AI社会でバイアスや格差とどう向き合うか (ウィメンズアクションネットワーク | 女の本屋 2023年4月26日)
https://wan.or.jp/article/show/10563
 
関連動画:
AI and Social Justice / Prof. Dr. Yuko Itatsu [UTokyo GUC 2022 Course Introduction] (UTokyo Global Unit Courses | YouTube 2022年2月17日)
https://www.youtube.com/watch?v=kjZXyPtcWdg

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