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書籍名

DOJIN選書: 80 AI社会の歩き方 人工知能とどう付き合うか

著者名

江間 有沙

判型など

272ページ、B6判

言語

日本語

発行年月日

2019年2月20日

ISBN コード

9784759816808

出版社

化学同人

出版社URL

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AI社会の歩き方

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2019年現在、人工知能という言葉を見ない日はない。しかもその単語は研究分野、マーケティング、哲学、SFなど様々な文脈で語られる。いったい、人工知能とは何なのか。人工知能とどう付き合っていけばいいのだろうか。
 
本書では、人工知能をあえて一義的に定義しない、と「はじめに」で述べた。人工知能という概念や存在は医療、農業、金融、サービス業等の領域を超えて使われている。さらにその利活用には技術者、政策関係者、NPO、企業、人文社会科学の研究者といった多様なステークホルダーの知見が必要となる。ステークホルダーをまたいで使われる概念や物体は、異なる領域の人々を結び付ける。誰もが人工知能について自分自身の言葉を使って語ることができる。人工知能を語るということは人間社会を語ることである。そこで期待されるユートピアや、リアルすぎるディストピアは、語っている個人やコミュニティの願望や懸念をあぶり出している。
 
筆者の専門とするSTS (略語はScience and Technology Studies, Science, Technology and Societyの二つある: 日本語では科学技術社会論) という分野は、科学技術と社会の課題を指摘する「Studies=学問」の側面と同時に、課題についての対策を考える「Societyへの働きかけ」の側面を持つ。重要なのは細かな定義論争に陥ることを防ぎ、集団ごとに人工知能という言葉で期待していること、課題と思われていることを整理すること、そしてそれぞれの集団を橋渡しするような場や人を構築することだ。
 
本書では、各分野やコミュニティで期待されていること、課題とされていることを紹介している。1章では技術者が考える人工知能技術の課題、2章では人工知能に関する科学技術政策、3章ではビジネスや社会への応用と影響、4章では哲学・倫理学・法学的な観点を扱っている。それぞれのコミュニティは分断されていなく、関連し合っている。そのため、各章の合間に、それぞれのコミュニティを旅する一行の小話をさしはさんだ。最後の5章は旅する一行のように、各分野を橋渡しする人そのものが持つ可能性と課題について言及して終わる。
 
「あとがき」でも書いたが、本書は別名「人工知能コミュニティ潜入記: 2014-2018」である。人工知能コミュニティを「研究する人」である一方で、様々なコミュニティにかかわって「橋渡しする人」でもある筆者は、「潜入」しているうちに人工知能に関する学会や業界団体、科学技術政策にも深くかかわってしまった。研究者自身はある特定の価値観や常識にとらわれていることを自覚する必要がある。そのため本書の第5章は筆者自身の立ち位置についてできる限り客観的に記述した記録書でもあり、自分自身の立ち位置や関心に対して批判的、再帰的に振り返ることがSTSの特徴の一つでもある。

 



『AI社会の歩き方』(化学同人、2019、p.240-1)

 

(紹介文執筆者: 未来ビジョン研究センター 特任講師 江間 有沙 / 2019)

本の目次

はじめに
本書の視点~STSという学問領域~/鍵となる概念の紹介/本書の構成/ショートストーリー
 
SS1  プロローグ
 
第1章  人工知能は何ができるか
一  人工知能研究の種類
ルールベース・知識ベースの人工知能/確率・統計型の人工知能/自己学習する人工知能/試行錯誤する人工知能/組み合わせて使われる技術/「まだ見ぬ技術」としての人工知能
 
SS2  DLにあらずんばAIにあらず
 
二  技術的な課題
技術以前の課題/公平性とバイアス/説明可能性、透明性と信頼/悪意ある攻撃/有益な人工知能研究
 
SS3  AIマインド
 
三  研究者の夢と「まだ見ぬ技術」
汎用人工知能への道/人間に太刀打ちできる人工知能の実現可能性/人間がまだ見たことのない知性/遅すぎることはない議論
 
コラム(1)  人工知能冬の時代   
 
SS4  一夜明けて
 
第2章  人工知能の価値をめぐって
一  イノベーション起爆剤としての人工知能
日本の危機意識/投資戦略の課題/産業構造の課題/人材育成の課題/倫理的な課題
 
SS5  出発、そして都へ
 
二  「人工知能と倫理」の論点整理
研究 (者) 倫理/人工知能の倫理/倫理的な人工知能
 
コラム(2)  人工知能の倫理と倫理的な人工知能の実現可能性
 
SS6  都にて
 
三  WHATからHOWの議論へ移行
学術界からのツールキット/産業界からのベストプラクティス/政府によるガバナンス/日本の課題
 
SS7  西へ
 
第3章 社会の中の人工知能
一  人工知能技術実用化の関係者
関係者の整理/関係者間の垣根の曖昧化
 
SS8  ウサギのお店
 
二  仕事と技術
仕事が奪われる?/奪われるのは仕事ではなくタスク/タスクの創造的な組み替え事例
 
コラム (2)  タスク分けワークショップ
 
SS9  ネズミの仕事
 
三 働き方と専門家の役割
機械化による効率化/効率化への危惧/新たな価値の創造/時間の上手な使い方/移行期の障壁
 
SS10  番人
 
第4章  人工知能が浸透するとき
一  基本的な権利へのまなざし
既存の体系の積み重ねと挑戦/他者と自分を守るルール/非ユーザと技術/データを守りつつ、活用する
 
コラム (4)  ブラジルで行われた「人工知能と包摂」会議
 
SS11  批判的思考
 
二  倫理的/道徳的な機械
人間というブラックボックス/報酬関数と常識のない機械/思考実験としてのトロッコ問題/倫理的なジレンマ 人工知能は感情をもてるか
 
コラム (5)  人工知能を社会の一員として迎える
 
SS12  ならぬものはならぬ
 
三 リスクではなく禁止
自律型兵器システム/性能を向上させる人工知能/人と機械の融合
 
SS13  実験
 
第5章  人工知能とどう付き合うか
一  STS研究者と実践者として
インサイダー・アウトサイダー/橋渡しする人/安心して炎上できる場づくりをする人
 
コラム (6)  ディストピアについて考える: Project Emerg
 
SS14  種明かし
 
二  かみ合わない議論
ふたたび「人工知能とは何か」/分野ごとに異なる概念/ニーズとシーズのミスマッチ/専門性、価値観や文脈の違い/「リスク」として語られるレトリック
 
SS15  新しい風
 
三  次のステップへ
各章の振り返りとつながり/議論のプラットフォーム/次のステップ
 
SS16  エピローグ~始まりの終わり~
 
おわりに
 
あとがき
 

関連情報

トークイベント:
【読書の学校】連続トークイベント「学問2.0 ~交錯する理系知と文系知」第4回 ~学問の魂vsAIの能力 学者はAIに振り回されるのか?それとも振り回せるか? (梅田 蔦屋書店 2019年8月3日)
https://store.tsite.jp/umeda/event/humanities/7866-1809030629.html
 
『AI社会の歩き方』刊行記念トークセッション: 江間有沙さん & 山田胡瓜さん「明るいディストピアがやってくる」 (八重洲ブックセンター 2019年3月29日)
https://talksession-ai.peatix.com/view
 
シンポジウム:
「AIと人がつくる未来社会」シンポジウム (大阪大学 2019年8月1日)
https://www.osaka-u.ac.jp/ja/news/seminar/2019/08/8372
 
関連記事:
佐藤良明 『AIが問われる「倫理」とは?』 (読売クオータリー2020冬号 2020年2月3日)
https://www.yomiuri.co.jp/feature/quarterly/20200122-OYT8T50030/
 
書評:
ブックエンド&図書館より
人工知能との付き合い方 課題や事例を挙げ考える (毎日新聞 2019年8月9日)
https://mainichi.jp/articles/20190809/ddp/018/040/010000c
 
坂井修一 (情報科学者、歌人) 評 「専門越えて共に頭を悩ます」 (東京新聞 2019年6月16日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2019061602000194.html
 
内田麻理 氏 (信濃毎日新聞 2019年6月9日)
 
推薦書籍:
一般社団法人 日本ディープラーニング協会 | JDLA推薦書籍
https://www.jdla.org/recommendedbook/
 
恵泉女学園大学 | 100字でおすすめ!
https://www.keisen.ac.jp/institution/library/recommend/2019/09/25/
 

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