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書籍名

人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの

著者名

松尾 豊

判型など

264ページ、B6判

言語

日本語

発行年月日

2015年3月9日

ISBN コード

9784040800202

出版社

KADOKAWA/中経出版

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人工知能は人間を超えるか

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人工知能の研究の奥底にあるのは、「世界を認知し、考えている自分自身は何か」という根源的な問いと、コンピュータの無限の可能性に対する信頼の2つである。我々が死ぬと、認知する主体自体もなくなるわけであるが、そのこと自体が非常に不思議であり、また、その事象をどこか「第三者的に」考えてしまわざるを得ない、我々人間の認知の限界も同時に感じるわけである。こうした認知の仕組みが、現代科学をもってしても分かっていないことは、我々研究者にとって、大好きなケーキが食べずに取っておかれているのと同じように、大きな興奮を感じる。そして、無限の可能性をもつコンピュータの仕組みで、この人類史上最大級と言ってよいであろう謎を「構成論的に」解き明かすことができないかと思うわけである。
 
こうした研究の流れは、ときに社会を巻き込んだブームを生む。人工知能という言葉のもつ妖しい魅力と万能感。それが社会的な期待とシンクロし、過去の60年間でいくつかのブームを作ってきた。研究の歴史を遡ると、実は、人工知能の領域は、知能における根本的なひとつの問題、「特徴量をどのように得るか」という問題が解決できないまま、いわば学問分野としての発達が歪んだ「非定型発達」のような形で、ここまで来ていたのである。
 
しかし、ついに突破口が開かれた。それがディープラーニングであり、特徴量あるいは表現を獲得する技術であり、言い方を変えれば「深い関数」のパラメータをデータから学習するという技術の出現である。この意義は非常に大きい。そして、このことは、人工知能の60年にわたる非定型な発達の歴史を知らずして、十分に理解することはできないだろう。
 
本書は、人工知能の歴史をたどりながら、この研究分野がもがき苦しみながらも、ときに注目され、ときに見放されてきたさまを描く。そして、この苦しみの原因、人工知能の難問とよばれていたものが、基本的には特徴量の発見の問題であることを述べる。そして、それが、ついにディープラーニングによって解かれつつあること、したがって、今回のブームは歴史を振り返る限りは「本物」であると信じるに足るものであり、大きく進展する可能性が高いことを述べる。人工知能の分野の深みと面白さ、そして「ディープラーニングの先にあるもの」が人類最大の謎に到達するのではないかという知的興奮が読者に伝われば幸いである。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 特任准教授 松尾 豊 / 2018)

本の目次

序 章  広がる人工知能――人工知能は人類を滅ぼすか
 ・人間を超え始めた人工知能
 ・自動車も変わる、ロボットも変わる
 ・超高速処理の破壊力
 ・人工知能はSF作家になれるか
 ・人工知能への研究投資も世界中で加速
 ・職を失う人間
 ・人類にとっての危機が到来する
 ・この本の読み方

第1章 人工知能とは何か――専門家と世間の認識のズレ
 ・まだできていない人工知能
 ・基本テーゼ:人工知能は「できないわけがない」
 ・人工知能とは何か――専門家の整理
 ・人工知能とロボットの違い
 ・人工知能とは何か――世間の見方
 ・アルバイト・一般社員・課長・マネージャー
 ・強いAIと弱いAI

第2章 「推論」と「探索」の時代――第1次AIブーム
 ・ブームと冬の時代
 ・「人工知能」という言葉が誕生
 ・探索木で迷路を解く
 ・ハノイの塔
 ・ロボットの行動計画
 ・相手がいることで組み合わせが膨大に
 ・チェスや将棋で人間に勝利を飾る
 ・[秘訣1] よりよい特微量が発見された
 ・[秘訣2] モンテカルロ法で評価の仕組みを変える
 ・現実の問題を解けないジレンマ

第3章 「知識」を入れると賢くなる――第2次AIブーム
 ・コンピューターと対話する
 ・専門家の代わりとなるエキスパートシステム
 ・エキスパートシステムの課題
 ・知識を表現するとは
 ・知識を正しく記述するために:オントロジー研究
 ・ヘビーウェイト・オントロジーとライトウェイト・オントロジー
 ・ワトソン
 ・機械翻訳の難しさ
 ・フレーム問題
 ・シンボルグラウンディング問題
 ・時代を先取りしすぎた「第五世代コンピューター」
 ・そして第2次AIブームが終わった
 
第4章 「機械学習」の静かな広がり――第3次AIブーム(1)
 ・データの増加と機械学習
 ・「学習する」とは「分ける」こと
 ・教師あり学習、教師なし学習
 ・「分け方」にもいろいろある
 ・ニューラルネットワークで手書き文字を認識する
 ・「学習」には時間がかかるが「予測」は一瞬
 ・機械学習における難問
 ・なぜいままで人工知能が実現しなかったのか

第5章 静寂を破る「ディープラーニング」――第3次AIブーム(2)
 ・ディープラーニングが新時代を切り開く
 ・自己符号化器で入力と出力を同じにする
 ・日本全国の天気から地域をあぶりだす
 ・手書き文字における「情報量」
 ・何段もディープに掘り下げる
 ・グーグルのネコ認識
 ・飛躍のカギは「頑健性」
 ・頑健性の高め方
 ・基本テーゼへの回帰

第6章 人工知能は人間を超えるか――ディープラーニングの先にあるもの
 ・ディープラーニングからの技術進展
 ・人工知能は本能を持たない
 ・コンピューターは創造性を持てるか
 ・知能の社会的意義
 ・シンギュラリティは本当に起きるのか
 ・人工知能が人間を征服するとしたら
 ・万人のための人工知能

終 章 変わりゆく世界――産業・社会への影響と戦略
 ・変わりゆくもの
 ・産業への波及効果
 ・じわじわ広がる人工知能の影響
 ・近い将来なくなる職業と残る職業
 ・人工知能が生み出す新規事業
 ・人工知能と軍事
 ・「知識の転移」が産業構造を変える
 ・人工知能技術を独占される怖さ
 ・日本における人工知能発展の課題
 ・人材の厚みこそ逆転の切り札
 ・偉大な先人に感謝を込めて
 
おわりに まだ見ぬ人工知能に思いを馳せて
 

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