東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

青い表紙に脳のイラスト

書籍名

相対化する知性 人工知能が世界の見方をどう変えるのか

著者名

西山 圭太、 松尾 豊、 小林 慶一郎

判型など

360ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2020年3月

ISBN コード

978-4-535-55907-3

出版社

日本評論社

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相対化する知性

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本書は3人の著者の知的交流のなかで生まれた本である。私が第一部を、当時、出向中の東京電力の取締役でのちに経済産業省商務情報政策局長を務め、現在東京大学未来ビジョンセンター客員教授の西山氏が第二部を、そして、経済学者で慶應義塾大学教授の小林氏が第三部を担当した。
 
もとはといえば、私が、人間の知能を解明し、それに近づく上で「深層学習」という技術がいかに重要なパーツであるかを常に力説していたことから始まる。その話を以前から聞いていた西山氏は、深層学習を単に人工知能の話とは捉えず、むしろ世界の側にもその理由があることにあるときに気づいたらしい。西山氏は経産省の役人なのであるが全く役人らしくなく、本書の発刊前には、東大元総長の吉川弘之氏にも来てもらいこの議論をする機会があったのだが、「役人がいると思ったら哲学者だった」と評されていたのが端的に表している。発刊に至るまで3人でたびたび議論を行ったのだが、西山氏は訳のわからないことを突然言い出すことがたびたびあった。例えばあるとき「松尾さん、我々は宇宙中期にいることが分かったよ」などと言い出す。「え、あ、そうなんですか?」という感じでよくよく聞いてみると言っている意味はおぼろげながらわかるのだが、あまりにも通常の発想と飛躍していて驚嘆したものである。あるときには、「絵画の準備を」という本が素晴らしいというので読んで見たが、深層学習との関連はさっぱり分からない。また、あるときには、「フリストンというおっさん(失礼)がいて、たぶんすごい」とか言い出す。確かに、本当にすごい人なのだが、それがよく情報系の研究者でもない西山さんに分かるなと驚いたものである。「結局ライプニッツが考えていたことなんだけど近すぎて説明しにくいんだよね」とか、一般人からは意味不明な思考と推敲の果てに、本書の第二部は徐々に形作られていった。忙しい3人であったので、よくホテルのレストランなどで朝食を一緒に食べながら議論したことは大変よい思い出である。
 
本書の中心は、そうした過程を経て構成された第二部であって、その内容は、ひとことでいうと「ある」と「知る」が同型であることを述べたものであり、存在論でも唯名論でもないその中間に(両方に)答えがあると喝破する。そしてこの構造自体は世界のさまざまなところに存在する。第一部が人工知能(あるいは人間の知能)という一側面から、第三部が社会経済というまたある種の一側面から述べているのに対して、第二部はそれを統合した世界観を提示する。人工知能が出てきたことではじめて、我々の知性や社会を相対化し捉えることができる。
 
ある人からいただいた「読んでいてこの本はなんか変だぞと思った」という感想が最高の褒め言葉だと思ったが、決して読みやすい本ではない。読者に何の遠慮もしていないため、理解するのは難しいかもしれない。しかし、新しく重要な世界の見方が描かれていると思っている。ぜひこの壮大な世界観を味わっていただければと思う。

 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 松尾 豊 / 2020)

本の目次

第1部 人工知能
     ディープラーニングの新展開

 1章 人工知能のこれまで
 2章 ディープラーニングとは何か
 3章 ディープラーニングによる今後の技術進化
 4章 消費インテリジェンス
 5章 人間を超える人工知能

第2部 人工知能と世界の見方
     強い同型論

 6章 人工知能が「世界の見方」を変える
 7章 認知構造はどう変わろうとしているのか
 8章 強い同型論
 9章 強い同型論で知能を説明する
 10章 我々の「世界の見方」はどこからきてどこに向かうのか

第3部 人工知能と社会

 11章 人工知能と人間社会
 12章 自由主義の政治哲学が直面する課題
 13章 人工知能とイノベーションの正義論
 14章 世代間資産としての正義システム
 15章 自由の根拠としての可謬性
 

関連情報

特集ページ:
話題の本わしづかみ (Web日本評論 2020年3月30日)
https://www.web-nippyo.jp/17699/
 
書評:
瀧澤弘和(経済学者・中央大学教授)評 「読書委員が選ぶ「2020年の3冊」 (『読売新聞』 2020年12月27日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/feature/CO036371/20210104-OYT8T50051/
 
横田英史の読書コーナー (組込みシステム技術者向けオンライン・マガジンE.I.S 2020年11月12日)
https://www.eis-japan.com/reading/20201112/
 
瀧澤弘和(経済学者・中央大学教授)評 (『読売新聞』 2020年7月5日付)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20200704-OYT8T50147/
 
河野龍太郎(BNPパリバ証券経済調査本部長)評 「話題の本」 (『週刊 東洋経済』P85 2020年6/13号)
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/23808

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