東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

パステルグリーンの表紙、細胞やデジタルデータを思わせる抽象的なイラスト

書籍名

生命知能と人工知能 AI時代の脳の使い方・育て方

著者名

高橋 宏知

判型など

322ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2022年1月14日

ISBN コード

978-4-06-527051-6

出版社

講談社

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生命知能と人工知能

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本書は、楽しく豊かな人生を送ることを究極の目的として、脳と人工知能を対比しながら、脳の動作原理を考察し、その使い方と育て方を考えます。
 
本書では、私たちの脳に宿る「知能」を「生命知能」と呼び、人工知能的な知能とは区別します。「生命知能」と「人工知能」は本質的に異なる知能です。筆者の結論を一言で記すならば、現在の人工知能は「自動化」、生命知能は「自律化」のためにあります。「自動化」とは既存のルールを守ること、「自律化」とは新しいルールを作ることです。私たちの社会では、どちらの知能も生きていくうえで欠かせません。
 
人間は、「意識」を有する点でも、人工知能とは決定的に異なります。意識とは、感覚器から得た情報に基づき、脳の中に創られるシミュレーション世界です。各人の脳が同じ感覚情報を受け取ったとしても、意識の世界は各人で異なります。また脳は、基本的には超並列な情報処理システムですが、意識システムの中では明確な時間軸を定義し、逐次的に情報を処理します。このような逐次的な情報処理により、脳はものごとの因果性を見出します。
 
本書では、自律性を失うことを人工知能化、意識の利用を放棄することをゾンビ化と表現し、人間や社会の人工知能化とゾンビ化に警鐘を鳴らします。そうならないために、大学生のころから、強い生命知能と豊かな意識システムを鍛えることを忘れてはなりません。
 
本書は3部構成です。
 
「第1部 私たちの脳と計算機」は基礎編です。工学部で脳研究を進めてきた筆者にとって、どうして生物や脳が興味深いと思うのかを紹介します。特に、ハードウエアとしての特徴、「ダーウィニズム」という原理原則、エネルギー効率の観点から考察します。これらの考察を通じて、筆者が、脳を理解するために大切だと思う基礎知識をまとめました。
 
「第2部 知能とは何か」は脳研究の実践編です。エピソードを交えながら、筆者がどのようなことを考えながら、工学部で脳の研究を進めてきたかを紹介します。これまで筆者が問い続けてきたのは、「知能とは何か?」です。「第4章 生命知能を創る」では脳組織から知能を創る試み、「第5章 知能はどう育つか」では脳活動から知能の源泉を探求する試みを紹介します。
 
「第3部 知能を支える意識」は応用編です。脳は、芸術、科学、宗教など、さまざまな文化を生み出し、発展させてきました。脳はどうして、またどのようにして、芸術、科学、宗教を生み出したのでしょうか。この疑問にこそ、脳の動作原理を解明するカギがあるはずです。筆者は、芸術、科学、宗教を支える共通の脳の仕組みが、意識であると考えます。
 
これからのウィズ人工知能時代を楽しく幸せに生きていくために、私たち人間は、人工知能的な戦略と生命知能的な戦略を両輪として、意識システムをフル活用することが、今後ますます求められるでしょう。
 

(紹介文執筆者: 情報理工学系研究科 准教授 高橋 宏知 / 2022)

本の目次

序章 人工知能化が進む日本社会
 
第1部 私たちの脳と計算機
 第1章 脳という巨大な情報システム
 第2章 進化から見る脳
 第3章 脳は勝手に動く
 
第2部 知能とは何か
 第4章 生命知能を創る
 第5章 知能はどう育つか
 
第3部 知能を支える意識
 第6章 意識とは何か
 第7章 人工知能は芸術作品を創れるか
 第8章 意識が科学と宗教を生んだ
 
終章 強い生命知能と豊かな意識を育てるために

関連情報

書評:
成相裕幸 評「ブックガイド 自分の脳を育てる方法がある?!」 (ニュースがわかるオンライン 2022年7月20日)
https://www.newsgawakaru.com/books-selection/19619/
 
竹内薫 評「共存の鍵は人間の意識に」 (日本経済新聞 夕刊12面 2022年3月3日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD241L40U2A220C2000000/
 
西成活裕 評「自律化と自動化を対比」 (読売新聞 朝刊13面 2022年2月20日) https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20220221-OYT8T50038/
 
仲野徹 評「ここまで来ている脳とAIの関係『脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか 脳AI融合の最前線』と『生命知能と人工知能 AI時代の脳の使い方』をあわせ読み」 (HONZ 2022年1月27日)
https://honz.jp/articles/-/50759
 
紹介記事 (本書序章を公開):
生命知能と人工知能 (1)「人工知能と苦手分野が一致!? “人工知能化”する若者たち」 (現代ビジネス 2022年1月12日)
https://gendai.media/articles/-/91200
 
生命知能と人工知能 (2)「人工知能が人間をダメにする? 人間と人工知能の“脳”を分析」 (現代ビジネス 2022年1月13日)
https://gendai.media/articles/-/91201
 
生命知能と人工知能 (3)「米国に倣ってきた日本が、決められない社会になったワケ」 (現代ビジネス 2022年1月14日)
https://gendai.media/articles/-/91405
 
自著解説 (Youtube):
生命知能と人工知能 AI時代の脳の使い方・育て方 (高橋宏知)
https://www.youtube.com/channel/UCuuuZ4ewKDXA-FvTiO4HqNA
 
著者ホームページ:
東京大学 大学院情報理工学研究科 知能機械情報学専攻 生命知能システム研究室
http://www.ne.t.u-tokyo.ac.jp/

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