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書籍名

進化計算と深層学習 創発する知

著者名

伊庭 斉志

判型など

192ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2015年10月

ISBN コード

978-4-274-21802-6

出版社

オーム社

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進化計算と深層学習

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近年、人工知能 (AI) は三度目のブームと言われています。その一因はニューラルネットワークを発展させたディープラーニング (深層学習) でしょう。そこで本書では、ディープラーニングの基礎となるニューラルネットワークの理論的背景から最近の進展や成果、課題にいたるまでを詳しく説明します。
 
筆者の専門は進化計算や創発ですが、ニューラルネットワークについては学生時代から興味を持ち研究のために頻繁に利用しています。進化計算はニューラルネットワークと一緒に活用されることも多く、国際的な学会においても両者のテーマで共催されることが少なくありません。そのため本書では、進化計算とニューラルネットワークを統合した手法として、さまざまな分野に応用され注目を集めているニューロ・エボルーションについても解説します。
 
また筆者は、パーセプトロン、ニューラルネットワークからディープラーニングにいたるまでの最初と二度目の冬を実際に見聞きし、体験しています。したがって、かつてのブームを知らない人々に興亡の歴史とその背景について筆者なりに語るのも意義あると思い執筆しました。
 
最近の学生たちがディープラーニングやAI手法を使って問題を解いたり新たな視点で考察したりするのに、筆者は人知れず感銘を受けています。しかしながら一方で、彼らの多くがAIやニューラルネットワークの古典的な名作や歴史的背景をほとんど知らずにいることは非常に残念です。そのため本書ではそれらの意義にふれるべく記号主義をめぐる論争や認知科学的議論なども説明しました。とくに最後の章は「知の創発」と題して、AIの実現や脳の進化について解説します。もともとAIという研究分野では随筆による発表が許されていたので、そこには筆者なりの考え方も多分に含まれています。
 
こうした背景から、本書は人工知能の初級研究者を対象とした入門書となっています。「進化」と「学習」をキーワードとして、人工知能の実現へのアプローチや知能の創発についても解説しています。アルゴリズムや生物学の知識を前提としないビギナー向けに、ニューラルネットワークの基礎的部分から、ディープラーニングまで理論をふまえて分かりやすく解説します。ディープラーニングの技術開発にあたって、その前段階であるニューラルネットワークの基礎からそれらの最近の研究、ディープラーニングの代表的な手法と応用例を取り上げていきます。また本書では、数学的な理解は必要最小限におさえ、全体的に数式やプログラムなどは極力使用しないように努めています。

 

(紹介文執筆者: 情報理工学系研究科 教授 伊庭 斉志 / 2020)

本の目次

第1章 進化計算入門
1.1 進化とはなんだろうか?
1.2 ダーウィンを悩ませた眼の進化が解けた?
1.3 進化する計算のアルゴリズム:新幹線から金融、ロボットまで
1.4 性選択:彼・彼女の選り好みがすべてを決める
1.5 対話型進化計算でデザインしよう
1.6 進化計算の強み
1.7 進化は進歩か?
 
第2章 ニューラルネットワークと学習
2.1 学習とコネクショニズム
2.2 パーセプトロン
2.3 ミンスキーの悪魔
2.4 ニューラルネットワークの復興
2.5 画像を扱ってみよう
2.6 記号はどこにあるのか?
 
第3章 深層学習 (ディープラーニング)
3.1 ディープラーニングの勃興
3.2 ボルツマン・マシンと焼きなまし
3.3 RBMと層別学習
3.4 リカレントネットワークとLSTM
3.5 自分自身をコード化する自己符号化器 (AutoEncoder)
3.6 CNNで特徴抽出
3.7 DQNで昔のゲームをやろう
 
第4章 進化するネットワーク
4.1 ニューロエボリューション
4.2 NEATとhyperNEAT
4.3 遺伝子ネットワークと発生生物学
4.4 ERNe:鷲は舞い降りた
 
第5章 知能の創発
5.1 ボールドウィン効果:学習により進化は加速するか?
5.2 脳を進化から考える
5.3 知能の創発をめざして
 

関連情報

受賞:
第25回 (2016年度) 大川出版賞受賞 (公益財団法人 大川情報通信基金)
http://www.okawa-foundation.or.jp/activities/publications_prize/list.html
 
本書で紹介したデモ・ソフトウェアの紹介ページ:
http://www.iba.t.u-tokyo.ac.jp/support/index.html

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