東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

紺色の表紙に狼の絵

書籍名

人狼知能 だます・見破る・説得する人工知能

著者名

鳥海 不二夫、 片上 大介、大澤 博隆、稲葉 通将、篠田 孝祐、狩野 芳伸

判型など

168ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2016年8月

ISBN コード

978-4-627-85371-3

出版社

森北出版

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人狼知能

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世界で最初のAIとはなんだろうか。AIの定義にもよるだろうが、ゲームをプレイするコンピュータプログラムをAIと呼ぶならば、その歴史はコンピュータが発明された直後から始まったといえるだろう。世界初のコンピュータENIACが完成したのが1946年であるが、チェスのプログラミングに関する論文は1950年にすでに出版されている。コンピュータができた当初からゲームの相手を作ることにここまで積極的だったという事は、計算機科学者はそんなに昔からチェスをやる友達もいなかったのかと心配になってしまいそうである。そんなゲームAIも2016年にGoogleが開発したアルファ碁が世界最強レベルのイ・セドル九段に勝利したことで、人間を超えるという目標はいったん果たしたようにも思われている。

では、ゲームAIの開発はこれですべての目標を達成したのだろうか? 実は、チェス、将棋、囲碁といったゲームは、完全情報ゲームと呼ばれる種類のゲームである。すなわち、すべての情報が完全に公開されているゲームである。一方で、情報が完全には公開されない不完全情報ゲームと呼ばれる種類のゲームも存在する。このような不完全情報ゲームはまだコンピュータが人間を完全に打ち負かすには至っていない。

そんな不完全情報ゲームの一つが、本書で扱われている人狼ゲームである。人狼ゲームの大学生の認知率はほぼ100%とも言われ、今更説明することもないだろう。様々なローカルルールが存在したりはするが、基本的には「村人に紛れ込んだ人狼を探し出す」タイプのゲームの総称である。

人狼ゲームをAIにプレイさせることの難しさは何だろうか? 実は、人狼ゲームは単に不完全情報ゲームであるというだけではなく、会話によって成り立つコミュニケーションゲームでもあり、多人数がチームを作ってプレイする多人数協力ゲームでもある。その意味では囲碁や将棋よりも解決すべき問題が多い課題であるといえる。その中でも、特に重要なのが、人を説得するという技術である。

本書では、人狼ゲームを通じて、そのようなAIがまだ解決できていない問題を解決しようとする、人狼知能プロジェクトの試みを紹介している。

人狼ゲームはよく「嘘をつくゲームである」といわれるが、実態はそうではない。相手を信頼するかどうかを判断するゲームであり、相手を信頼させるゲームである。もし人間と人工知能がお互いに嘘をつく可能性があるとなると、自分が持つ情報がいかに正しいかを説得する必要が出てくる。すなわち、相手の言葉に嘘があるという前提に立った時点で、たとえ本当の情報を伝える場合でも、それが嘘ではないことを相手に納得させる材料が必要になるのである。その意味では、人狼ゲームにおいて人工知能が人間を打ち負かす日というのは、人工知能が嘘をつくかもしれないという前提を持った上で、なお人間が人工知能を信頼した時であると言えよう。本書内の一章では可能世界という考え方で、人の信頼の作られ方をコンピュータで再現する手法の一つを紹介している。

また、人狼知能プロジェクトではAIの発展という側面以外にも、人狼ゲームをプレイする人工知能の開発を集合知的に行うためのプラットフォームとしての役割も果たしており、本書ではこちらについても紹介をしている。ちなみに2019年には国際人工知能学会 (International Joint Conference on Artificial Intelligence : IJCAI) で人狼AIの国際大会も行われている。IJCAI2020は日本の京都 (またはオンライン) で行われることが決まっているため、人狼ゲーム好きで、プログラム好きの方がいれば、是非本書を読んで人狼知能の開発に挑戦してもらいたいと思う。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 准教授 鳥海 不二夫 / 2019)

本の目次

第1章 人狼知能とは何か?
第2章 人狼ゲーム概説
第3章 人狼知能の実現に向けて
第4章 人狼知能のための認知モデル
第5章 人間どうしによるプレイの解析
第6章 集合知による人狼知能の構築~人狼知能大会
第7章 人狼知能エージェントの構築
第8章 人狼知能が拓く未来

 

関連情報

Artificial Intelligence based Werewolf / 人狼知能プロジェクト
http://aiwolf.org/

著者インタビュー:
これからのAIの話をしよう (人狼編): 「人工知能はうそをつく」 常識疑う力を 人狼AI研究者が描く未来 (ITMedia 2018年3月1日)
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1803/01/news044.html

人工知能はウソを見破ったり、人を説得したりできるか? (imidas 2017年6月30日)
https://imidas.jp/jijikaitai/k-40-109-17-06-g678

人の嘘見破るAIつくる (日本経済新聞 2017年1月8日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO11441240X00C17A1MY1000/

嘘をつく、嘘をつかれる人工知能をつくる──人狼ゲームをする「人狼知能」をつくるわけ (前編) (WirelessWire News 2016年1月7日)
https://wirelesswire.jp/2016/01/49300/

嘘をつく、嘘をつかれる人工知能をつくる──人狼ゲームをする「人狼知能」をつくるわけ (後編)  (WirelessWire News 2016年1月8日)
https://wirelesswire.jp/2016/01/49308/

書籍紹介:
AIと「人狼」ができる日はくるか? (森北出版note: 2019年10月3日)
https://note.com/morikita/n/n8a30e469f064

書評:
作家・畑中章宏が読む『人狼知能 だます・見破る・説得する人工知能』鳥海不二夫他著 人工知能にだまされるとき (産経ニュース 2016年10月23日)
https://www.sankei.com/life/news/161023/lif1610230025-n1.html

関連記事:
鳥海不二夫 第1回 「人狼知能」って何? (ITを学ぶ電子書籍ストアManatee 2017年7月4日)
https://book.mynavi.jp/manatee/detail/id=76458

大槻恭士 第2回 人狼知能エージェントを戦わせてみよう (ITを学ぶ電子書籍ストアManatee 2017年7月12日)
https://book.mynavi.jp/manatee/detail/id=76984

狩野芳伸 第3回 人狼知能と対話システム (ITを学ぶ電子書籍ストアManatee 2017年7月28日)
https://book.mynavi.jp/manatee/detail/id=77396

狩野芳伸 第4回 自然言語処理 (ITを学ぶ電子書籍ストアManatee 2017年8月16日)
https://book.mynavi.jp/manatee/detail/id=77738

狩野芳伸 第5回 「CEDEC 2017」セッション「人狼知能大会:しゃべる人狼知能~人工知能による自然言語人狼対戦」のみどころ (ITを学ぶ電子書籍ストアManatee 2017年8月25日)
https://book.mynavi.jp/manatee/detail/id=77846
 

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