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人工知能と社会の関係を考える「AIと社会の総合診療医」| 江間有沙 | UTokyo 30s No.8

掲載日:2019年11月19日

やらいでか!UTokyo サーティーズ
淡青色の若手研究者たち

約5800人いる東京大学の現役教員の中から、30代の元気な若手研究者を9人選びました。職名の内訳は、教授が1人、准教授が2人、特任准教授が1人、講師が1人、特任講師が1人、助教が3人です。彼/彼女らは日々どんな研究をしているのか、そして、どんな人となりを持っているのか。その一端を紹介します。(広報誌「淡青」39号より)
※2019年9月10日現在での30代を対象としています。

科学技術社会論

人工知能と社会の関係を考える「AIと社会の総合診療医」

江間有沙
EMA, Arisa
未来ビジョン研究センター特任講師
写真
職場がある伊藤国際学術研究センターの前にて。「実はアナログ派。一月の予定はA4の紙に書いて携帯しています」 写真:井上匠

先頃、英国工学物理研究会議によるORBIT(Observatory for Responsible Research and Innovation in ICT)プロジェクトが、“100 Brilliant Women in AI Ethics”を選定しました。AI倫理の世界で活躍する100人の名が記されたこのリストには、一人の日本人、Arisa Emaの名前があります。人工知能学会倫理委員会副委員長、日本ディープラーニング協会理事、内閣府「人間中心のAI社会原則検討会議」構成員といった肩書きも持つ江間先生ですが、AIを作る専門家というわけではありません。

「私の専門は科学技術社会論(STS)です。社会に埋もれた課題を指摘する側面と、その課題への対策を社会に働きかける側面も持つSTSの領域で、AIなどの情報通信技術と社会との関係について広く研究しています。そのため、AIと社会のことを知りたい人の相談に乗る総合診療医的役割も。技術のことならAさん、法律ならBさん、政策ならCさん、実務ならDさん......と振り分ける窓口役ですね」

窓口役だけではありません。江間先生は、AIと社会の関係を考える研究グループを2014年に立ち上げて以降、AIに関わる専門家たちを分野越しにつなげる場を作ってきました。窓口にもネットワーク・ハブにも、幅広い好奇心と知識がもちろん必要。そこには、少女時代にシドニーで通ったユニークなシュタイナー学校の影響があったようです。

「たとえば古代エジプトがテーマなら、ミイラの作り方を学んだり、当時の料理を再現したり、ヒエログラフを書いたり、当時の算術を学んだりする。教科別に教科書があるわけでもなく、理科も社会も語学も数学も一つのテーマの中で触れるという形で、それが私には面白かったんです」

長じて進んだ東大の教養学部と総合文化研究科も、分野の別にこだわらず学際的な性格が強い部局です。京大白眉センター東大教養教育高度化機構東大未来ビジョン研究センターと数年おきに刻んできた経歴は、自らを「一人学際」と捉えるご本人の特徴が反映されたものと言えるでしょう。さて、今後のキャリアプランは?

「いまは自由に研究活動ができる、とても恵まれた環境にいます。動きが速い分野でもあるため、テーマごとに仲間を募って短いサイクルで機動力のある組織を作って動くのが性に合うみたいです。アウトサイダーとインサイダー、観察者と演奏者の間を往還するようなフットワークの軽さは持ち続けたいです」

ちなみに、Arisaemaを検索すると、テンナンショウという植物の学名がヒットします。これは漢方薬に使われる多年草。空気を読まない発言で場に刺激を与えることが多い総合診療医は、一方では自らが薬となって社会課題を解決に導いていくでしょう。

Q & A
2007年に受賞した総長賞のネタは? 「ICタグを用いた子どもの見守りシステムについて書いた論文です」
バイオリンやビオラで弾くのが好きなのは? 「ブラームスとラロ。個々の奏者が個性を出せる室内楽が好み」
20代の頃とは違うなと感じることは? 「海外出張時に飛行機の中で寝るようになりました」
上の世代と比べていまの30代に感じることは? 「リアリストでマイペースの人の方が生存能力が高い気がします」
江間先生の著書
『AI社会の歩き方』(化学同人/2019年2月刊/2000円+税)

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