
書籍名
Society 5.0 人間中心の超スマート社会 幸福への課題:個と社会の調和に向けて (p.272-284 唐沢 かおり)
判型など
312ページ、四六判、並製
言語
日本語
発行年月日
2018年10月26日
ISBN コード
978-4-532-35788-7
出版社
日本経済新聞出版社
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
英語版ページ指定
紹介するのは、日立東大ラボの編集による『Society5.0 人間中心の超スマート社会』という書籍内の章である。日立東大ラボとは、日立製作所と東京大学により設置された「産学協創」のための組織であり、学際的な視点からSociety5.0について議論を行っている。
Society5.0とは「誰もが快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることのできる人間中心の社会」である。詳細は内閣府HP内に記載されているので、もし、この言葉になじみがなければ、ぜひ (https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/) にアクセスしてほしい。Society5.0で求められるのは、高い技術力のみならず、それが人や社会の幸福に資するよう実装されることであり、分野横断的な知の融合が必要となる。私自身は、専門の社会心理学の立場から、人々の幸福と科学技術との関係、技術の社会受容、科学技術がもたらす倫理的・社会的課題について発言してきたが、紹介する章は、そこでの考察の一部をまとめたものになる。
本章では、まず、幸福の規定要因に関する研究知見から、技術が人々の幸福に資する可能性を確認する。快適さ、便利さ、楽しさ、ゆとりといった価値につながるような技術の実装が進むことで、私たちの毎日は、確かに、より「幸せな」ものになるだろう。ただし、個人の幸福の総和が大きい社会が、望むべきSociety5.0 の姿ではないことに留意せねばならない。技術が提供するサービスの多くは限られた資源であり、皆が等しくその恩恵を享受できるわけではなく、公平さ、公正さが問題となる。高い快適さをもたらす技術が個人の欲求を拡大し、利己的・搾取的な行動が重なれば、社会システム自体が崩壊してしまう。
したがって、人々の行動を制御する仕組み自体もまた、技術やデータの利活用によって、Society5.0の中に装備されていくことになる。しかし、その際に、私たちの心の特性を考慮することなく、実装を進めることは、自らの価値観に基づき自律的にふるまうという人間像を壊すことにつながる。便利さや効率を求めることに人々が腐心する社会も、ビッグデータとAIにより人間が制御されてしまう社会も、いずれも「人間中心」とは程遠い社会である。
もっとも、どうすれば「人間中心」の理念を実現できるのか、その答えは簡単に得られない。技術により社会が4.0から5.0にバージョンアップすることで、「すべての人が等しく幸福を追求し実現できる社会」が自動的にもたらされるわけではない。科学技術が、人間の心の特性や社会のあり方と調和しながら生かされるために、制度的、倫理的、法的な事柄も含めた諸課題に向き合い苦闘する中で、人間や社会のあり方を真摯に問い続けるしかない。本章、さらには書籍内の他の章が、この問いに心理学、さらには人文学がかかわる意義についての洞察につながることを期待している。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 唐沢 かおり / 2020)
本の目次
1 “Society 5.0”へのアプローチ
2 サイバー空間とフィジカル空間の融合
3 知識集約型社会
4 データ駆動型社会
5 “Industry 4.0” と “Society 5.0”
第2章 居住からの変革「ハビタット・イノベーション」
1 日本が直面する社会課題
2 ハビタット・イノベーションのフレームワーク
3 主要社会課題に対するハビタット・イノベーションのフレームワークの適用
第3章 スマートシティから”Society 5.0“へ
1 スマートシティとは
2 エネルギーマネジメントのスマート化
3 日本のスマートコミュニティ・スマートシティ
4 サステイナブルな都市とスマートシティ
5 市民主導のスマートシティから “Society 5.0” へ
第4章 都市のデータ化とサービスの連携
1 都市情報連携のめざすもの
2 都市システムの共生・共生自立分散システム
3 個人情報の保護:秘匿分析技術
4 幸福感の計測:IOTからIOH (Human) へ
第5章 社会課題解決への産学協創アプローチ
1 “Society 5.0” で都市はどう変わるか
2 人生100年時代を支えるハビタット環境をつくる
3 脱炭素社会とエネルギー X ライフのマネジメント
4 地域創生とデータ駆動型プランニング
第6章 貨幣価値社会から非貨幣価値社会へ
1 データ駆動型社会と非貨幣価値社会
2 “Society 5.0” におけるデジタルプラットフォーム
3 データ駆動型社会におけるキャッシュの割合
4 私有から共有へ――資本主義のその先にある豊かさ
5 “Society 5.0” と “Human Co-becoming”
第7章 対談「知」の協創により豊かな未来社会を拓く
--社会変革を牽引するイノベーションエコシステムの構築
五神真・東京大学総長/中西宏明・日立製作所取締役会長
第8章 課題と展望
1 幸福への課題:個と社会の調和に向けて (p.272-284 唐沢 かおり)
“Society5.0”での「人」と「幸福」 / 個と社会の調和という課題 / 幸福のかたち / より幸福な社会とは / 社会設計と関係性 / 自由な行動選択と社会による制御 / 報酬と罰の罠 / 内発的動機付け / リアクタンス / 態度や価値観を生み出す設計 / 最後に残る倫理的な問い
2 “Society 5.0”の意義と展望
関連情報
Society 5.0 – A People-centric Super-smart Society (Springer, 2020)
https://www.springer.com/gp/book/9789811529887