東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に子供たちのモノクロ写真

書籍名

新 保育の心もち まなざしを問う

著者名

秋田 喜代美

判型など

159ページ、19x14cm

言語

日本語

発行年月日

2019年5月

ISBN コード

978-4-564-60929-9

出版社

ひかりのくに

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新 保育の心もち

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現在、乳幼児期の子ども達の多くは、1日の大半を保育所や幼稚園、こども園等という保育の場で過ごしている。そしてそこで関わる専門家である保育者になるための保育者養成校で使用される教科書としてのテキストは多く刊行されている。また保育のノウハウやスキルを紹介した本はいわゆる保育関係出版社から多く出されている。さらに海外からの思想等や保育の研究に関わる博士論文等をまとめた学術書は刊行されている。にもかかわらず現職の保育者が日々の保育を振り返る視点等を示したものは少ないと感じて始めたのが、日本教育新聞のコラム欄のエッセーの執筆である。10年間その執筆を続けそのエッセーをまとめた書として『保育の心もち』『保育のみらい』『保育のおもむき』『保育の温もり』『続・保育のみらい』『保育の心意気』を出版し第7巻目が『新 保育の心もち』である。この一連のシリーズは延べ29200冊が現在までに販売され読まれてきている。
 
本著のタイトルに含まれる「心もち」という語は、日本の幼児教育の父と言われる倉橋惣三が「子どもの心もち」と題した文章を書いており、そこから筆者が引用したものである。「子どもの心もち」を読み取る「保育者の心もち」を描き出そうとして、本タイトルを付した。特に本著の特徴は、子どもたちの写真を撮る写真家として傑出していると考えている写真家 篠木眞さんとのコラボによって、子どもたちの園での生活をとらえる眼差しを具体的に専門的にわかりやすいことばで示そうとした点が第一の特徴である。副題を「眼差しを問う」としているのは、子どもの姿をいかに見とり、見守り、そこから保育の次の見通しをもって保育や教育をデザインしていくのかが、保育の専門家にとって極めて重要な視点であるからである。次に第二の特徴としては、乳幼児期の子どもの活動の中核であり育ちの原動力は遊びであるので遊びに特に焦点を当てた点である。最近は教育では、乳幼児期でも学びだけを注視して目に見える成果や効果を早く出そうとしそれがよい教育だと考える傾向が大人側に強い。その潮流の中で遊びがより深く子どもたちの経験として意味あるものとなるためには何が必要かと言う問いに関して第II部では焦点を当て具体的な日々の園のエピソードをもとにしながら述べている。そして第三の特徴としては、長時間、早期化する保育の中で、園と家庭がどのように対話を積み重ねていくのかと言う点が子どもの発達においてとても重要になっており、そのために対面の対話だけではなく双方向型の対話を多様なメデイアを用いて行うことが重視されている。そこにはどのような可能性があり、いかにしてその実践の知恵が表れているのかを第III部では具体的に園の相違工夫をとりあげながら示している点にある。専門用語の学術書執筆だけではなく、いかに平易にかつ深く保育者の専門性を描くことができるかという挑戦を読者の方に感じていただけたら幸いである。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 秋田 喜代美 / 2019)

本の目次

はじめに
I 保育へのまなざし
   職人技伝承への姿勢
   「姿」で捉える育ちの関係論
   保育観共有のスタート地点
   眼差しと佇む姿
   手作りおもちゃの文化
   加減を学べる園生活
   研修「初めの一歩」への意思と支援
   園庭にそよぐ風
   小学校の校庭の魅力
   保幼小連携の深化にむけて
   質向上の種の工夫
   市民としての子ども
   保護者の声から届ける記録
   砂場の質をさらに高めるために
   子育てを支え合う支援
   出来事への対応センス
   動きを表す言葉への気づき
   価値を生み出す創造性
   デジタル時代の子どもたち
   主体性を支える辛抱強さ
   苦みのある経験
   その子らしさを捉える記録
   園内研修の活性化とは
   「変人」園長に学ぶ
   カレンダーの一工夫
   園だから生まれる長期的サイクル
   名づけが生む愛着
   バリアを超える資質を育む
   調べる楽しさが広がる掲示
   見えない物が見える環境
   きらりと光る瞬間をとらえる
   子どもの姿から「質」を考える
   研究者・自治体・実践者の連携
   エンパワーメントするリーダー
   世代間交流の場としての園
   集中・夢中・熱中への道筋
   乳児保育のプロセスの質
 
II 子どもの遊びに学ぶ
   遊び込む
   ワクワク感による遊びの展開
   経験の物語としての必然感がある遊び
   子どもにとっての遊び場
   遊びへの保護者の理解の重要性
   遊びの習熟
   自信を培う
   つながっていく遊び
   ルールと遊び
   戸外遊びと園庭
   コーナーにある道具への工夫
   体を動かして遊ぶ

III 園からの・園でのコミュニケーションをみつめて
   メデイアのいろいろ
   園の特徴や理念が伝わるホームページ
   ホームページなどの写真や動画
   声が届くメッセージの発信のために
   教育とケアを伝える園便り
   伝えるメッセージのポイント
   連絡帳のIoT: Society5.0にむけて
   デジタル時代のアプリによる工夫
   デジタル時代の写真の活用
   伝え合い方を学び合う
   これからの園でのコミュニケーション

おわりに
 

関連情報

講演:
保育士のキャリア支援と子どもの最善の利益 (2020年9月18日 全国保育士養成セミナー)
https://www.hoyokyo.or.jp/seminar/information/
 
書籍紹介:
「新 保育の心もち~まなざしを問う~」秋田喜代美・東京大学大学院教授が執筆 (日本教育新聞 2019年5月27日)
https://www.kyoiku-press.com/post-202919/
 

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