東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に子どもが石で遊んでいる写真

書籍名

GIFTS from the CHILDREN 子ども達からの贈りもの レッジョ・エミリアの哲学に基づく保育実践

著者名

カンチェーミ・ジュンコ、 秋田 喜代美 (編著)

判型など

208ページ、B5変型判

言語

日本語

発行年月日

2018年5月24日

ISBN コード

978-4893472656

出版社

萌文書林

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

子ども達からの贈りもの

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これからの未来の学校の教育のあり方を示す事例として北米で紹介され、国際的に著名になった保育哲学がある。それは、ローリス・マラグッチにより第二次世界大戦後に唱えられた哲学思想である。イタリア レッジョエミリア地方で保育者と保護者、地域コミュニティの連携によって地域ぐるみで保育が実践され、その実践を通して共同体を形成してきた。この哲学に学ぼうと今では国際ネットワークが形成され、この保育哲学と実践は質の高い保育実践として世界中で認知され評価されてきている。
 
本書は、このマラグッチの保育哲学にもとづきイタリアではなく、我が国においてしかもインターナショナルスクールと言う多文化な場で、この保育哲学に基づく実践がどのように継続して行われてきたのか、そこでいかなる子どもたちの学びの姿が生まれたのかを描出している。イタリア文化から日本文化へ、インターナショナルスクールへと越境した保育実践を精緻に述べている。その試みにより、理論や哲学と実践のつながりを問い、文化的な営みとしての実践のあり方を学問的視点からも分析検討している。
 
保育や教育の領域においては、指導の方法ややり方、道具等で新たなものが開発されるとその流行を取り入れた実践が行われる傾向に走りやすい。また時に、幼児教育や保育と言う乳幼児期の教育は、子どもたちの年齢が低いがゆえに、容易なものや、誰にでも母親のようにできるものと時に誤って捉えられがちである。それに対し、本書は、「聴くことの教育学」というレッジョ・エミリアの哲学に触発されたカンチェーミ・ジュンコ園長が、教職員と共に、カリキュラムと実践をいかに組織し、アトリエをはじめとする空間をデザインしたのかがまず示される。
 
そしてその内容や場において行われたプロジェクト、協働の探究的活動の記録が紹介される。それらは、子ども達の声をつぶさに描き出したものである。子どもはいかに幼い者であって、尊厳を持っても探究者として世界と出会い、人や物と関わり志向しているのか、子どもの可能性を導出している。保育者が専門家として子どもたちの声をどのように聴き取ったのかが、ドキュメンテーションとして示される。英語で記された数々の実践記録の中から実践者と研究者が協働して6つの記録を選び出して日本語に訳出し、解釈や意味づけを付すことで、理論と実践の関係を問うている。その在り方自体が、教育の営みをどのように観るのかという、子どもと保育者との探究と学びの物語として語られている。
 
イタリアのレッジョ・エミリア市の実践記録や思想の翻訳本はある。しかし、日本の中で取り組んだ真正な実践の本は初めてである。保育学の学術領域の奥深さ、子どもを捉える専門家の眼差し、そして教育ではいかにシステムと哲学と実践が関わっているのかを本書を通じて考えていただくことができれば、編著者としては、幸いである。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 秋田 喜代美 / 2018)

本の目次

プロローグ
越境の経験(BORDER CROSSING)
    ELC でのレッジョの哲学による実践の軌跡
    レッジョの哲学における素材と場のしつらえ
 
ELC の物語(STORY of the ELC)
    歴史
    カリキュラムの枠組み
    哲学 喜びなくして何もない/驚きの要素
    環境 時間と空間
    保護者との関係
    ELC での1日
    保育者の専門性の向上
 
アトリエの思想(THOUGHT of the ATELIER)
    アトリエの解釈
    素材
    アトリエリスタの主なねらい
 
理論と実践の両輪(THEORY and PRACTICE in unison)
    探究1  公園との対話
    探究2  みんなの特別な箱
    探究3  はじめての作品展
    探究4  絵が語ること
    探究5  虹の動物園
    探究6  ずっと続く友情
 
エピローグ
 
 

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