東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に乳幼児が体を動かしている写真

書籍名

「体を動かす遊びのための環境の質」評価スケール 保育における乳幼児の運動発達を支えるために

著者名

キャロル・アーチャー (著)、イラム・シラージ (著)、 秋田 喜代美 (監訳・解説)、 淀川 裕美 (訳)、 辻谷 真知子 (訳)、宮本 雄太 (訳)

判型など

116ページ、B5判

言語

日本語

発行年月日

2018年5月15日

ISBN コード

9784750346830

出版社

明石書店

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本書は、キャロル・アーチャーとイラム・シラージ著、"Movement Environment Rating Scale (MOVERS) for the 2-6-year-olds provision: Improving Physical Development through Movement and Physical Activity" の邦訳書です。

本書は、第一著者と第二著者の共著で2015年に刊行された“Encouraging Physical Development through Movement-play”がもとになっています。特に第一著者のキャロル・アーチャー氏が長年子どもたちのために実施してきた実践や指導経験から生まれたものです。評価スケールとして開発を行い完成させたものとするためには、スケールの信頼性が高いということが求められます。そのために、著者らは実際にロンドン市内の園で小規模パイロット研究をまず実施し、さらに子どもの体を動かす遊び環境への介入が子どもの運動発達に及ぼす影響について調べる研究を実施しました。また、そこからさらに本スケールを用いた大規模な調査で、より多くの評定者が本スケールを用いても一致し安定して活用できる信頼性の高いスケールであることを検証した上で、本書として刊行されています。本スケールは、現在ではアイルランドやオーストラリア等、他の英語使用圏でも広く使われ始めています。これはイングランドの文化的文脈に埋め込まれた保育に沿う形で開発されてきたスケールです。ですから本書を、常にそのまま当てはめるのではなく、日本の社会文化的文脈ではどうなのかと批判的な思考の眼を持ちつつ読んでいただくことが大事なことになると、訳者は考えています。
 
アセスメントのラテン語の語源は「そばに座る」だそうです。つまり評価スケールというのは傍らにいて感じたことをつぶさに捉え、語り合うことでさらなる向上につなげていき、子どもに戻すものという視点でこの評価スケールも考えてみていただけるとよいのではないかと思います。ここでは環境の側に目を向けていますが、運動遊びにおいては得意な子どもがいる一方で、苦手意識を持っていたり、できないという気持ちから行動としてはできていない子もいるかもしれません。そうした子どもの気持ちと行動量の両面から個々人に応じた環境はどうあったらよいのか、またもっとやりたいという子どもにとって、子ども自らもともに環境構成を行う者として捉えながらどのような挑戦的な環境を構成していくことができるのかを考えていくことも大事な視点ではないでしょうか。子どもの気持ちと動きをともに考え、環境を構成しまた援助をしていくところに保育者の専門性があります。日本では古くからの伝承遊びとしての鬼ごっこや縄跳びやまりつきをはじめ、いろいろな遊びの中に動きを引き出す遊びがたくさんあります。そうした楽しい遊びを意識し、さらにそれを子どもたち自身が主体的に変容させながら遊びを発展させていく姿の中で体を動かす遊びについても考えていくことが大事でしょう。本書が、環境というものをより力動的、柔軟に考えることで多様な動きと洗練された動きを楽しむ環境への取り組みにつながればと思います。
 
(「体を動かす遊びのための環境」 の社会文化的文脈 ─ 本書を読んでいただくにあたって」秋田喜代美 より一部抜粋,改変)
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 特任准教授 淀川 裕美 / 2019)

本の目次

日本語版刊行にあたって[キャロル・アーチャー]

謝辞
序文[アンソニー・オークレイ]

MOVERSのご紹介
MOVERSの作成経緯
  身体の発達と動きについて――理解を深めるために
  ・子どもたちと一緒に、動きに関する言葉を使う
  ・子どもたちは身体的に活発である必要がある
  ・誕生から6、7歳までの子どもの、いくつかの早期の運動パターンにより育まれるもの
  ・乳幼児のための健康的な食事
  ・睡眠

【はじめにこちらをお読みください】
  MOVERSを使用する前の準備
  ・はじめる前のガイド【重要】
  ・判断のポイント
    ・ポジティブな行動・応答・かかわりについての判断
    ・ネガティブな行動・応答・かかわりについての判断
  ・観察の手順
  ・評定の手順
    ・MOVERSのスコアシート・プロフィール・信頼性確認シート

MOVERSの内容

【サブスケール1】身体の発達のためのカリキュラム、環境、道具や遊具
  ・項目1 身体活動を促すための環境空間を作ること
  ・項目2 可動式・固定式の設備・備品を含む道具や遊具を提供すること
  ・項目3 粗大運動スキル
  ・項目4 微細運動スキルを支える体の動き

【サブスケール2】身体の発達のためのペダゴジー
  ・項目5 保育者が、屋外・屋内での子どもたちの運動にかかわること
  ・項目6 屋内・屋外で子どもたちの身体の発達を観察し評価すること
  ・項目7 屋内・屋外における身体の発達のために計画すること

【サブスケール3】身体活動と批判的思考を支えること
  ・項目8 子どもたちの動きに関する語彙を支え、広げること
  ・項目9 身体活動を通してコミュニケーションをとり、相互にかかわることで、「ともに考え、深めつづけること」を支えること
  ・項目10 屋内・屋外で子どもたちの好奇心や問題解決を支えること

【サブスケール4】保護者と保育者
  ・項目11 子どもたちの身体の発達と彼らの学び、発達、健康により育まれるものについて保育者が家庭に伝えること

スコアシート (事前記入用)
観察した保育施設の大まかな図面 (室内・室外)
スコアシート (観察直後記入用)
プロフィール (複数回の観察・共同観察用)
評価者間の信頼性確認シート (共同観察用)
参考文献


【座談会】日本の保育現場で本書の知見をどう活かすか [安家周一×桶田ゆかり×松嵜洋子]

【解説】「体を動かす遊びのための環境」の社会文化的文脈――本書を読んでいただくにあたって [秋田喜代美]

あとがき [秋田喜代美]
 

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