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山吹色一色の表紙

書籍名

歩行開始期の仲間関係における自己主張の発達過程に関する研究

著者名

野澤 祥子

判型など

192ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2017年2月10日

ISBN コード

978-4-7599-2166-3

出版社

風間書房

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仲間関係 (同年代の子ども同士の関係) においては、自他の要求がぶつかりあう場面がたびたび生じる。こうした葛藤場面において、明確に自己の意図や要求を伝えることは、主体的に他者と関わっていく上で重要だと考えられる。
 
興味深いことに、仲間関係の萌芽期である歩行開始期 (1~2歳代) には、既に、他児への自己主張の仕方に大きな変化がみられる。1歳後半から2歳前半には、自分の要求を押し通そうとする行動が頻繁に示されるが、2歳後半にかけて、言葉で自分の要求を伝え合い、自他の要求を調整する行動が徐々にみられるようになるのである。では、こうした変化は、どのようなプロセスによって生じるのだろうか。 

本書の目的は、保育所1歳児クラスにおける、約1年間の短期縦断観察のデータを分析し、歩行開始期の仲間関係における自己主張の発達過程を詳細に明らかにすることである。分析では、Fogel, Aらによる「関係的-歴史的アプローチ」を参照している。このアプローチは、他者とのやりとりや関係性をダイナミックなシステムとして捉え、頻回の観察から得られたデータの微視的分析により、発達プロセスを詳らかにしようとするものである。本書では、自己主張を含むやりとりをダイナミックなシステムとして捉え、その変化過程を検討した。このアプローチによって、従来の研究のように集団全体の平均値から発達的変化を検討するのではなく、子どもごとの発達的軌跡を描出し、その共通性から発達パターンを抽出すること、さらには、微視的分析から発達的変化を生む契機を見出すことを目指した。
 
分析の結果として、1歳後半から2歳代にかけて、個々の子どもが経験する主張的なやりとりのパターンが、不快情動を表出し合うやりとりから言葉でのやりとりへと変化することが示唆され、2歳半ばに相手の意図に対する関心を言葉で示すことがその契機となる可能性が示された。また、こうした変化が、保育者との信頼関係を基盤として他児と一緒に遊ぶ関係性が発達してくることと連動していることが見出された。
 
本書の意義として、以下の点を指摘できる。歩行開始期は、乳児期と幼児期の移行期として発達的重要性が着目されているが、乳児期や幼児期 (3歳以降) の研究と比較して研究が少なく、研究の発展が強く求められている。本書は、特に研究が未発展である歩行開始期の仲間関係に焦点を当て、その発達過程を詳細に検討したという点で、学術的な意義が認められる。また、保育所での観察の分析から保育実践への示唆を提示している。近年、3歳未満児保育へのニーズが高まっており、そのあり方を検討することが喫緊の課題である。本書では、保育所における1~2歳児の仲間関係の発達過程を、それを支える保育者の役割とともに考察しており、3歳未満児保育を検討する際の資料となることが期待される。

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 准教授 野澤 祥子 / 2017)

本の目次

第一部 序論
序章  論文の目的と各章の構成
1章  歩行開始期の仲間関係における自己主張の達を検討する意義
2章  歩行開始期の仲間関係における自己主張の発達に関する先行研究とその問題点
3章  研究のアプローチ,研究の概要および観察の手続き
 
第二部  歩行開始期の仲間関係における自己主張の発達的変化および保育者の介入に関する検討
4章  研究1: 歩行開始期の仲間関係における自己主張の発達的変化-自己主張に伴う情動的側面と発達的軌跡の違いを考慮した分析-
5章  研究2: 歩行開始期の仲間関係における自己主張に対する保育者の介入-子どもの自己主張の仕方に応じた保育者の介入に関する検討-
 
第三部  歩行開始期の仲間関係における主張的やりとりの発達過程の検討
6章  研究3: 歩行開始期の仲間関係における主張的やりとりの発達過程-発達過程の共通性に着目した検討-
7章  研究4: 歩行開始期の子ども同士のやりとりにおける自己主張の発達過程-発達過程の個別性や保育者の介入との関連に着目した質的分析-
 
第四部 総括
8章  結論
終章  まとめ
 

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