インターネット・オブ・プレイス 「都市」の新しい拡張
今日ほど、「都市」の意義や役割が問い直されたことはありません。新型コロナウイルス感染症は、世界中の密集する都市を直撃し、人々の健康と経済活動に大きな影響を与えました。「ソーシャルディスタンス」が合言葉となったことは、「互いに近接して住む」という都市の特性に相反する論点が提示されたことを象徴しています。
また、それ以前から都市は大きな課題に直面していました。低迷する経済状況を打開するためにイノベーションを生み出すことが喫緊の課題であるなか、人々の創造性を高めるために都市がどのような役割を果たせるのか。人材を惹きつけるために創造性や生産性を高める場が必要である一方、自然環境や通勤など生活の質を求める価値観とどのように両立させることができるか。そして、オンラインのプラットフォーム上で人々が仕事を受発注したり、価値を提供することができる中で、物理的な都市にどのような意義があるのか。本書は、こうした問いに答えるために行われた「プラットフォームとしての都市」研究の成果に基づいています。本書はこの研究に関わった第一人者であるメンバー各自の視点から、論考を書き下ろしたものです。
本書は全4部の構成となっています。第I部では本書全体に関わる基本的な視座と概念が紹介されます。場の機能とコンテクストを分解し、柔軟に組み替える「インターネット・オブ・プレイス」という概念を導入していますが、これは「デフレーミング」という考え方を都市に応用したもので、都市と地方という二元論を超える、新たな視点を提示するものです。以後の章は、「社会経済的側面」「文化的側面」「技術的側面」という三つの側面に従い構成されます。
第II部は社会経済的側面を扱う3つの章から構成されます。地方に立地しながら全国展開を果たしている企業の事例や、都市に住む人のインセンティブの分析、また災害復興を題材とした空間資本の重要性などが議論されています。第III部はインターネット・オブ・プレイスを文化的側面から論じる三つの章から構成されています。コワーキングスペースが新たな文化の創造の担い手として果たせる役割、都市の景観の定量的把握、秋葉原における重層的な街の文化などが考察されています。第IV部は技術的側面に着目して議論を進めており、都市におけるデータ共有・連携のプラットフォーム、大手町・丸の内・有楽町 (大丸有) 地区のスマートシティの取り組み、5G技術も活用した地域や都市の相互接続、また、スマートシティにおける法的課題等について検討を加えています。
この他にも、実務家等からコワーキングスペースにおける活動や、大都市における文化の継承等についてコラムを収録しています。
都市を巡る最先端の議論がここにあります。ぜひご一読ください。
(紹介文執筆者: 情報学環 教授 高木 聡一郎 / 2024)
本の目次
第I部 序論
第1章 インターネット・オブ・プレイスの概念 高木聡一郎
第II部 社会経済レイヤー
第2章 都市と地方の二元論を超える 澁谷遊野・高木聡一郎・福地真美
第3章 エモーショナルな都市――人々は都市に何を求めているのか 高木聡一郎・澁谷遊野
第4章 都市のレジリエンスとデジタルプラットフォーム――空間資本を用いた考察 櫻井美穂子
コラム1 都市と地方を繋ぐハイブリッドな交流のすすめ 神田主税
第III部 文化レイヤー
第5章 イノベーションの新たな文化を育む「場」のデザインとその戦略 トゥーッカ・トイボネン/高木聡一郎訳
第6章 都市にとって美とは何か――ビッグデータとAIを用いた「感性的なもの」の定量化の試み 吉村有司
第7章 秋葉原・文化・超辻性 庄司昌彦
コラム2 大都市における文化の継承に向けて 印出井一美
第IV部 データ/技術レイヤー
第8章 都市におけるデータプラットフォームとイノベーション 越塚 登
第9章 エリアマネジメントのDXがもたらす都市の拡張 重松眞理子
第10章 都市の相互接続と共存進化を支えるサイバーインフラ 中尾彰宏
第11章 都市空間におけるデータ利活用の法的課題 酒井麻千子
あとがき
関連情報
2023年活動報告「Web3とデフレーミング領域を中心に、国際的な連携を進めています!」 (Face2023|UTokyo Foundation 2024年3月8日)
https://utf.u-tokyo.ac.jp/project/ptj172?reportId=pjReportDetail0#project-tab02
関連記事:
アフターコロナの都市のあり方を示す「インターネット・オブ・プレイス」とは何か (高木聡一郎|東京大学大学院教授|日経COMEMO 2021年2月2日)
https://comemo.nikkei.com/n/nff023a382627