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白い表紙に青い帯

書籍名

デフレーミング戦略 アフター・プラットフォーム時代のデジタル経済の原則

著者名

高木 聡一郎

判型など

276ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2019年7月16日

ISBN コード

9784798162782

出版社

翔泳社

出版社URL

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デフレーミング戦略

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近年、「デジタル・トランスフォーメーション」(DX)という言葉がクローズアップされていますが、デジタル技術がビジネスや経済に与える本質的な影響は必ずしも明らかになっていません。本書はそれを理解するための鍵として、「デフレーミング」という概念を提唱しています。デフレーミングとは、枠 (フレーム) が崩壊するという意味の造語です。デフレーミングには「分解と組み換え」、「個別最適化」、「個人化」という3つの要素があります。「分解と組み換え」は、サービスの「枠」を超えて要素に特化し、それらの要素を組みなおすということです。「個別最適化」は既製品という枠を超えて個別のユーザーに最適化することであり、それをITの力でコストアップすることなく実現することです。「個人化」は、企業という「枠」を越えて、個人が活躍する時代になるということです。

こうした変化は、すでに社会のいたるところで始まりつつあります。たとえば、気に入ったデザインと素材の靴を、お店を渡り歩いて探して買うのではなく、自分が好きなようにデザインし、カスタマイズして注文することが容易にできます。ソーシャルネットワークサービスは、写真やコメントの共有だけでなく、インフルエンサーによる情報発信と広告の場となり、今や小売りの場へと変貌しつつあります。クラウドソーシングのサイトには、従来はシステム会社やデザイン会社に発注しなければならなかった仕事を、個人で引き受けてくれる人々が活躍しています。「デフレーミング」は、このようにビジネスモデルから、産業構造、働き方まで幅広い変化を統合的に理解するための概念なのです。

この概念の背景には、組織経済学の考え方があります。なぜ企業が存在するのか、市場取引と階層型組織での連携のどちらに合理性があるのかといったことを検討する学問です。そこでは、「取引コスト」が重要な役割を果たしますが、デジタル技術の発展は、社会の多くの場面で取引コストを劇的に削減してきました。この取引コストの削減が「デフレーミング」をもたらしているのです。本書は、こうした学問的理論に基づきつつ、プラットフォーム、シェアリング・エコノミー、コワーキングスペースなど世界各地で生まれるイノベーションを分析したうえで、一般の読者向けに社会のトレンドを提示したものです。

デジタル技術が社会をどう変革しているか、そして経済学をはじめとする学問的な考え方が、最先端のデジタルイノベーションや社会変革への洞察を深めるうえで、どのように役立つのかを理解するためにも、ご一読頂ければ幸いです。

 

(紹介文執筆者: 情報学環 准教授 高木 聡一郎 / 2019)

本の目次

第一部 デフレーミング戦略とは何か

第1章 「画一性による規模の経済」の終焉
 デフレーミングの定義と3つの要素
 「分解と組み換え」によるサービスの再定義
 「個別最適化」とスケールの両立
 「個人化」するサービス主体
 テクノロジー進化が生み出す資源配分の効率化
 デフレーミングは21世紀を生き抜く基本的な戦略

第2章 デフレーミングのメカニズム
 階層型組織の終わりのはじまり
 なぜ企業組織が存在するのか
 組織形態を規定する取引コスト理論
 互助機構としての企業
 成熟した組織がもたらすデメリット
 テクノロジーによる取引コストの劇的な削減
 インターネットによる個人のエンパワーメント
 プラットフォーム革命による組織の解体
 サービスの分解とデジタルによる再構築
 新個人経営時代と「神の見えざる手」の復権

第二部 デフレーミングのプロセス

第3章 分解と組み換え
 急成長する中国のITサービスとデフレーミング
 決済手段から芝麻信用への展開
 デフレーミングによる産業構造の組み換え
 デジタルファーストによる個別要素の再構成
 「範囲の経済」に基づく成長戦略
 インスタグラムによるソーシャルコマースへの展開
 デリバリープラットフォーム「美団」のデフレーミング
 分解と組み換えに伴う役割の変化
 APIエコノミーで実現するシームレスなサービス
 電力の識別がもたらすエネルギーのデフレーミング
 技術的フロンティアは自律的なサブシステムの連携
 デジタルツインを実現するオープンネットワーク
 どのように業務を分解すればよいのか
 「分解と組み換え」はビジネスモデルの基本戦略

第4章 個別最適化
 ニーズを大雑把に見てはいけない
 サービス化とは個別最適化である
 スケールメリットか脱コモディティか
 情報サービスのパーソナライゼーション
 製造業のマス・カスタマイゼーション
 プラットフォームによるバラエティの実現
 本当に必要なものならコストがかかってもよい
 ハードウェアも個別最適の時代
 センサー技術でインフラを個別最適化する
 地域活性化のデフレーミング
 ユーロにみる単一通貨と全体最適の問題点
 個別最適化の限界

第5章 個人化
 現代のビジネスの資源を持っているのは「個人」
 シェアリング・エコノミーは個人化の典型
 米国におけるフリーランスの増加
 プラットフォームがもたらす産業の個人化
 個人によるインフルエンサー・マーケティング
 コワーキングスペースが実現する新しい働き方
 日本でも始まった多様なコワーキングスペースの提供
 これからの産業振興は「個人」に着目する

第三部 デフレーミング時代の組織と個人

第6章 デフレーミング時代の「信頼」
 なぜ急成長する企業は「信頼」の問題に取り組んでいるのか
 デジタルな信頼を実現する3つの方法
 クチコミの信用度にも限界
 「信頼のインターネット」としてのブロックチェーン
 ブロックチェーンが提供する信頼とは何か
 トークンエコノミーによる信頼
 ブロックチェーンは階層型組織を不要にするか
 人間の情報処理能力を補完するための信頼の新たな形

第7章 デフレーミング時代の個人の戦略
 超高齢化社会がもたらすキャリアの長期化問題
 「終身雇用」という幻想と課題
 ベーシックインカムは技術的失業への切り札になるか
 デフレーミング時代のキャリアの原則
 インフルエンサーにみる「個性化」の必要性
 デフレーミング時代のリーダーシップ
 学び直しの重要性
 教育もパーソナライズの時代へ
 学び方を学ぶことが教育の最大の目的

第8章 デフレーミングの課題と展望
 プラットフォームの巨大化と寡占問題
 進むプラットフォームの細分化・階層化
 信用情報の集積と個人の主体性
 デフレーミングとプライバシー問題
 孤立化を防ぐコミュニティの重要性
 デフレーミング時代の新たな社会保障の仕組み
 イノベーションのゆりかごとしての「都市」の復権

 

関連情報

英語版:
『Deframing Strategy』 (World Scientific社 2021年11月発売)
https://www.worldscientific.com/worldscibooks/10.1142/12453#t=aboutBook

連載:
高木聡一郎 (東京大学大学院准教授)DXの本質がわかる「デフレーミング」とは何か (日経COMEMO 2020年4月8日)
https://comemo.nikkei.com/n/nc98f0067669e

著者インタビュー:
高木聡一郎「デフレーミング概念で読み解くデジタル・トランスフォーメーション(DX)の本質」 (慶應MCC 夕学リフレクション 2019年10月15日)
keiomcc.net/sekigaku-blog/2019/10/10.html

東大 高木聡一郎氏: デフレーミングされる金融業界、ブロックチェーンで進むビジネスとの融合 (FinTech Journal 2019年8月13日)
https://www.sbbit.jp/article/fj/36740

Biz/Zineインサイト[前編] 東京大学大学院・高木准教授に聞く、DXという社会変化を理解するための概念「デフレーミング」とは (Biz/Zine 2019年4月17日)
https://bizzine.jp/article/detail/3459

Biz/Zineインサイト[後編] 東京大学大学院・高木准教授に聞く、DXがもたらすデフレーミング時代の「企業」と「個人」の生存戦略とは (Biz/Zine 2019年4月18日)
https://bizzine.jp/article/detail/3460

書評:
DXのための理論武装に (週刊BCN 2019年8月12日vol.1788掲載)
https://www.weeklybcn.com/journal/column/detail/20190821_169074.html

イベント:
2019年度後期 時代の“潮流と深層”を読み解く 宮大夕学(せきがく)講座 <脱常識の経営論> 高木 聡一郎 (宮崎大学 2019年10月10日)
http://www.miyazaki-u.ac.jp/rdc/sekigaku/1355/

リサーチプロジェクト第8回 <インダストリー・イノベーション時代のブランディング研究会> テーマ: アフタープラットフォーム時代でのデフレーミング~デジタル経済の原則~ (日本マーケティング学会 2019年9月10日)
http://www.j-mac.or.jp/research-project-new/22681/

デフレーミング概念から考える組織と個人の新たな戦略 [研究ワークショップ] (国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 2019年6月21日)
http://www.glocom.ac.jp/events/4420


 

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