イノベーションの研究 生産性向上の本質とは何か
わが国は、国内・国外の様々な構造的課題に直面していることは、皆さんよくご存じのことと思います。生産労働力の減少や少子高齢化といった人口構造の変化に起因する問題、社会資本ストックの老朽化、技術を巡る地政学的な問題や地球温暖化への対応など課題は目白押しです。また機械学習やビッグデータ、AI (人工知能) などの社会実装が本格化する中で、働き方も大きく変わりはじめ、それが産業構造を変化させる原動力にもなっています。働き方や格差・貧困問題も社会の関心事となり、これまでの規制緩和や自由経済主義的な考え方に対しても、問い直しを求める声が高まっています。わが国だけでなく、世界的にも、政策・制度のグランドデザインを改めて考えなおす時代に今まさに突入しようとしているのです。こうした課題に直面する中で、わが国が生産性を向上させていくためにはどのようなことがポイントになるのでしょうか。本書は、研究者と実務家、政策担当者が真剣に考えた成果を取りまとめたものです。
本書は総論に続いて、4つの章を1つのパートとする、3つのパートから構成されています。パート1「生産性の現状」では、わが国の足元での生産性の状況を統計データや実証研究を通じて丹念に描き出しています。この分析を踏まえて、パート2「イノベーションを通じた価値創造」では、ブロックチェーンや働き方改革、特許などといった重要な領域をいくつかピックアップして、わが国における新たな取り組みが付加価値の拡大に繋がる方策を探っています。更にパート3「イノベーションを通じた価値の収益化」では、AI (人工知能) やビッグデータがわが国経済社会をいかに変貌させるか描き出しています。
価値の収益化を取り組みことが、わが国の経済成長を通じて価値の創出に繋がるという視点を明確に打ち出しながら、わが国の企業などがイノベーションの収益化に取り組むことへの躊躇やボトルネックがどこになるのかを各専門家の立場から探っています。講演録を含む各章は、産官学の第一線で活躍する専門家によって手掛けられたもので、イノベーションを活性化させる取り組みが各所でいかに行われているかを一望するのに最適だと思います。今後ますます異分野の融合によるイノベーション活性化が期待される中で、産官学による一つの取り組みの成果をまとめたものとして、是非、手に取ってもらいたいです。
(紹介文執筆者: 公共政策大学院 副院長 大橋 弘 / 2020)
本の目次
総論 生産性向上と新たな付加価値の創出に向けての視点
東京大学大学院経済学研究科教授 大橋 弘
I 生産性の現状
第1章 (講演録)生産性向上に向けた需要創出
立正大学経済学部教授、財務省財務総合政策研究所名誉所長 吉川 洋
第2章 生産性・イノベーション関係指標の国際比較
財務省財務総合政策研究所副所長 酒巻哲朗
第3章 日本の生産性の現状、生産性向上に向けた取り組み
東洋大学経済学部教授 滝澤美帆
第4章 日本企業の海外展開と生産性、イノベーション
慶應義塾大学産業研究所・大学院経済学研究科教授 清田耕造
II イノベーションを通じた価値の創出
第5章 スタートアップ企業の成長─創業活動を通した経済活性化へ向けて─
関西学院大学経済学部准教授 加藤雅俊
第6章 生産性向上のための働き方改革~国際比較からのインプリケーション~
株式会社日本総合研究所理事/主席研究員 山田 久
第7章 特許からみる産業構造の変化とイノベーション
財務省財務総合政策研究所総務研究部研究官 木村遥介
第8章 (講演録)ブロックチェーンと生産性向上
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授/主幹研究員、研究部長 高木聡一郎
III イノベーションを通じた価値の収益化
第9章 (講演録)専門家を無力化させる「個別化」時代の衝撃
楽天株式会社執行役員、楽天技術研究所代表、楽天生命技術ラボ所長 森 正弥
第10章 (講演録)“シン・ニホン"AI×データ時代における日本の再生と人材育成
ヤフー株式会社CSO (チーフストラテジーオフィサー) 安宅和人
第11章 (講演録)イノベーションに挑む日本のロジスティクス
元財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員 小笠原 渉
第12章 「価値の創出」と「価値の収益化」による生産性向上
財務省財務総合政策研究所総務研究部総括主任研究官 奥 愛
財務省財務総合政策研究所総務研究部主任研究官 橋本逸人