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書籍名

MINERVA政治学叢書 5 科学技術と政治

著者名

城山 英明

判型など

296ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2018年5月10日

ISBN コード

9784623083213

出版社

ミネルヴァ書房

出版社URL

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科学技術と政治

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本書は、科学技術と政治の接点に存在する課題について俯瞰することを目的としている。科学技術と政治の接点には大きく2つの課題がある。第1の課題は、科学技術に対する政治の影響という課題である。科学技術の研究開発、科学技術の実社会の各分野での利用に際して必要になるリスク規制やイノベーションの促進は様々な主体の利益や価値に関わり、諸主体間での政治が展開される。科学技術に関する判断には多くのトレードオフや不確実性等に関する判断が埋め込まれており、一定の政治的裁量が埋め込まれている。また、科学技術に関わる政治においては、各主体が科学技術に関する能力をどのように確保するのか、各主体が能力確保に投資するインセンティブ構造が確保されているのかというのも、重要な課題となる。
 
第2の課題は、科学技術の政治への影響の課題である。現代政治の活動は様々な科学技術的条件の上に成立している。交通手段、コミュニケーション手段の変容は政治プロセス自身に影響を与えている。このような技術手段の変容はグローバル化を規定する重要な要因でもある。核兵器や最近のサイバー攻撃の拡大に見られるように、軍事技術の展開は国際政治プロセスに大きな影響を与えてきた。今後の情報技術の進展や人工知能の利用によるコミュニケーションの個別化も政治プロセスに影響を与えると思われる。
 
科学技術に関わる政治は個別の科学技術に関わる制度的文脈に埋め込まれた形で展開される。その意味で、ここで対象とする政治には、様々な制度的組織的文脈に埋め込まれた政治を包含するという点で、いわゆる行政を幅広く含むこととなる。
 
本書においては、序論において科学技術自体の性格とダイナミズム、科学技術政策の概念について検討した後、I部、II部、III部という3部構成により科学技術に関わる政治の課題を概観する。第I部では、科学技術に関わる主体と科学技術に関わる政治的ダイナミズムの分析視角を整理した上で、国内におけるリスク評価・管理や事故調査・インシデント情報共有による学習メカニズムについて扱う。第II部では、国内における知識生産や技術の社会導入に関わるイノベーションのメカニズムについて扱う。また、科学技術に関する調整メカニズムや科学技術に関する調整メカニズムと他の調整メカニズムの関係の課題についても扱う。そして、第III部においては、国際レベルにおけるリスク規制 (安全保障に関するリスクも含む) と国際的な知識生産、技術の社会導入を進めていくための国際協力のメカニズムについて検討する。
 

(紹介文執筆者: 公共政策大学院 教授 / 法学政治学研究科 教授 / 未来ビジョン研究センター 副センター長 城山 英明 / 2019)

本の目次

はじめに
序章 科学技術とそのダイナミズム
1 科学技術とは何か
2 科学と技術の相互作用・ダイナミズム
3 日本における科学技術の発展とその認識
4 科学技術政策の多義性
5 本書の構成
 
第I部 科学技術の知識とリスク管理
第1章 科学技術の政治的次元
1 科学技術をめぐる多様な主体
2政治的ダイナミズム
 
第2章 リスク評価とリスク管理
1 リスク評価
2 リスク管理
3 価値問題に関する判断
 
第3章 リスク規制の制度設計とダイナミズム
1 リスク規制の制度設計
2 食品安全規制における政府内制度設計と運用
3 原子力安全規制における政府内制度設計と運用
4 専門家の調達・能力の確保
5 政府組織と民間組織の関係設計
6 保険制度との役割分担・連携
7 捕囚とその回避戦略
 
第4章 幅広いリスクの評価と対応
1 複合リスクの課題
2 多様なリスクと増幅メカニズム
3 横断的対応
4 安全保障貿易管理――新たなリスクに関する官民連携によるリスク管理
 
第5章 事故調査・情報収集の制度設計と運用
1 責任追及と学習のディレンマ
2 アメリカにおける事故調査と責任追及
3 日本における事故調査と責任追及
4 事故およびインシデントに関する情報共有のメカニズムの試み
5 日米比較
6 最近の日本における制度改正
7 残された課題
コラム「科学技術と政治」への誘い(1)――分野横断的共同研究
 
第II部イノベーションとマネジメント
第6章 知識生産の促進――多様なメカニズムの存在
1研究の自由研究の統制
2 ファンディングの方式――コア・ファンディングとプロジェクト・ファンディング
3 知識生産のインセンティブ――知的財産権と学問的コモンズ
4 市場構造のダイナミズムへの関与
5 技術強制の可能性と自主的対応
6 研究開発評価とその限界
 
第7章 分野別技術ガバナンスの構造
1 分野別技術ガバナンス構造の分析枠組み
2 原子力技術ガバナンス
3 宇宙技術ガバナンス
 
第8章 移行マネジメント――技術の社会導入のダイナミズム
1 移行の分析枠組み
2 移行マネジメントにおける仕掛け
3 都市レベルでの共進化の事例分析
 
第9章 テクノロジーアセスメントの制度化
1 テクノロジーアセスメントとは何か
2 テクノロジーアセスメントおよびテクノロジーアセスメント的活動の歴史
3 制度化の選択肢
4 体制と人材養成
5最近の様々な試み
 
第10章 分野を超えた調整メカニズム
1 分野を超えた調整メカニズムの構造
2 科学技術イノベーション政策に関する調整メカニズム
3 宇宙政策に関する調整メカニズム
4 エネルギー政策に関する調整メカニズム
5 調整メカニズムの比較検討
コラム「科学技術と政治」への誘い(2)――「合意形成」と問題構造化手法の試み
 
第III部 国際協力のメカニズム
第11章 国際的リスク規制
1 国際的リスク規制の特質
2 リスク規制の国際的展開――情報共有と基準設定
3 事後対応――レジリエンス能力の確保
4 リスク規制における役割分担
5 リスク規制の調和化と差異化
6 今後の制度設計の課題
 
第12章 科学技術と国際安全保障
1 両用技術管理の課題
2 軍備管理・軍縮枠組み
3 転用管理
4 輸出管理=移転管理
 
第13章 科学技術利用に関する国際協力
1 国際協力の様々な方式
2 空間利用管理と責任の制度
3 国際共同事業
4 国際共同研究
5 知的財産権とアクセスの確保
6 国際協力のダイナミズム
 
参考文献
おわりに
科学技術政策史年表
 

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