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白とライムグリーンの表紙

書籍名

大震災に学ぶ社会科学 第3巻 福島原発事故と複合リスク・ガバナンス

著者名

城山 英明

判型など

400ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2015年9月25日

ISBN コード

9784492223581

出版社

東洋経済新報社

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福島原発事故と複合リスク・ガバナンス

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現代の社会経済活動は広域そしてグローバル且つ重層的に相互連結し、様々な技術システムに支えられるとともに、それらに強く依存し、複雑化している。このような状況において、2011年3月11日東北地方太平洋沿岸地域を巨大地震と津波が襲った。想像を絶する自然の脅威は、大規模な社会インフラシステム(通信、鉄道、港湾、送配電網、水供給など)に甚大な被害を与えるとともに、福島第一原子力発電所の過酷事故を引き起こした。
 
福島原発事故は、地域住民の生活を奪うだけでなく、原子力発電所との社会・経済的な依存性をさまざま発露させ、東北・関東地域での電力供給不足による生産活動の停止・低下、さらにはサプライチェーンを通じた全国・国外への影響波及、全国の原子力発電所の稼働停止、国内および他国での原子力・エネルギー政策の見直し論議、原子力安全規制要求事項の再吟味へと、連鎖を引き起こした。そして、現在も、福島第一原子力発電所の管理はなお予断を許さず、廃止措置という終息への長い道程に入っている。
 
東日本大震災や福島原発事故は、また、原子力発電、エネルギーの問題だけではなく、他の分野の問題へと波及した。原発事故は、食品中の放射性物質に関する安全問題に波及した。また、震災と福島原発事故は、患者の避難、医薬品・医療機器の被災地への供給という問題を引き起こし、医療・介護問題にも影響を及ぼした。震災は交通インフラへの影響も大きかった。さらに、東日本大震災に際しては、金融や実体経済活動にシステミックな影響が生じる恐れがあったため、被災者に対する金融面での適切な対応や被災地金融機関の決済機能が確保される措置がとられた。そして、これらの問題は相互に関連していた。その意味では、複合リスクへの対応が求められたといえる。
 
本書では、まず第1章において、リスク・ガバナンスの分析枠組み及び複合リスクへの分析視座を提示する。その上で、第1部において、総合工学の代表格である原子力発電技術の利用にあたっての社会的な安全確保活動を、福島原発事故の以前、事故時、以後の姿を、事例分析等を通して考察する。第2部においては、福島原発事故の食品安全問題への波及や、東日本大震災という緊急事態における医療・介護、交通システムおよび金融システムの対応について、各分野の事例を分析したうえで、相互関係性及びそのような相互関係を管理する複合リスク・ガバナンスの課題について考察する。最後に、第12章においては、リスクのフレーミング、すなわち、想定の設定の仕方という観点から、分野間の比較を行った上で、複数のリスクの相互連鎖によりより大きなリスクを引き起こすという相互作用が存在していたことを確認し、このような問題に対処する複合リスク・ガバナンスが機能するためには、分野の異なる専門家間のコミュニケーションを確保することが決定的に重要であること等を明らかにする。
 

(紹介文執筆者: 未来ビジョン研究センター 副センター長 / 公共政策大学院 教授 / 法学政治学研究科 教授 城山 英明 / 2019)

本の目次

第1章 はじめに:リスク・ガバナンスの課題
  第1節 リスク・ガバナンスの分析枠組み
  第2節 複合リスクへの視座
 
  第1部
第2章 原子力発電技術の導入・普及
  第1節 原子力発電技術の導入・普及過程
  第2節 原子力発電プラントのマネジメントシステム
 
第3章 事故前の原子力安全規制
  第1節 耐震審査指針改訂プロセス
  第2節 地震・津波研究の進展と対応
  第3節 シビアアクシデント対策-知識蓄積の課題
 
第4章 事故前の立地地域における関係構築とコミュニケーション
  第1節 自治体との関係構築
  第2節 住民意識と政府・自治体・事業者によるコミュニケーション活動
 
第5章 危機時のガバナンス
  第1節 事故発生直後のクライシスコミュニケーション
  第2節 SPEEDIの利用と情報公開
 
第6章 事故後の原子力発電技術ガバナンス
  第1節 原子力規制・行政体制の改革
  第2節 原子力防災制度改革
  第3節 事故後のリスクコミュニケーション
  第4節 事故後のオンサイト管理
 
第7章 原子力発電技術ガバナンスの課題
  第1節 福島原発事故に対する「事故調査」と社会的学習
  第2節 科学技術や原子力発電に対する市民および専門家の意識−福島第1原子力発電所事故の以前・以後−
  第3節 原子力発電技術利用のリスク・ガバナンスの課題
 
  第2部
第8章 食品中の放射性物質を巡る問題の経緯とそのガバナンス
  第1節 「想定外」のリスク 食品×放射性物質
  第2節 食品中の放射性物質の基準値を巡る対応の経緯
  第3節  食品安全のリスクの課題とガバナンスの課題
  第4節 今後の課題
 
第9章 震災への医療システム対応の経緯と課題
  第1節 震災への医療システム対応の経緯と課題
  第2節 震災後の医療の制度的・中長期的課題
 
第10章 交通システムの復旧・復興
  第1節 交通システムの技術基準の発展と震災後の対応
  第2節 想定の限界:東京圏における大震災の都市鉄道サービスに与える影響
  第3節 地方鉄道の災害対策と復旧・復興
 
第11章 金融面での東日本大震災への対応
  第1節 東日本大震災の広範な影響と対応
  第2節 各段階における対応
  第3節 中長期的対策―金融機能強化法等
  第4節 金融リスク・ガバナンス―金融危機対応と自然災害対応―
 
第12章 おわりに:複合リスクのガバナンスと危機管理・システム移行・官民関係
  第1節 本書における基本的な問い-リスクのフレーミングと相互作用
  第2節 分野間比較-リスクのフレーミングの諸相
  第3節 分野間相互作用への対応-複合リスク・ガバナンスの課題
  第4節 危機管理-不確実性の下での意思決定と実施
  第5節 イノベーション・システム移行-時間軸も踏まえて
  第6節 官民関係の再構築-新たな透明な連携方式と信頼の必要
 

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