東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い模様の入った表紙、書籍名はグレーの背景

書籍名

原発被災地の復興シナリオ・プランニング

著者名

金井 利之、 今井 照(共編著)

判型など

149ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2016年11月25日

ISBN コード

9784875556916

出版社

公人の友社

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原発被災地の復興シナリオ・プランニング

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本書は、2011年福島第一原子力発電所の苛酷事故 (INESレベル7) によって被災した福島県内の被災市町村における復興計画についての研究である。具体的には、富岡町を対象に復興計画策定過程に参与観察しての共同研究の成果である。他の被災市町村と同様、全域が避難指示区域となって全町民避難となった富岡町では、復興に向けた計画づくりが進められた。復興計画 (第1次) は、避難直後と言うこともあって充分な町民参加を経ないで策定されたが、復興計画 (第2次) は町民参加によって策定が試みられた。研究者やコンサルタントは、町民参加の過程に参与することで、富岡町の未来に向けて積極的に関わった。
 
しかしながら、現実に策定された復興計画 (第2次) は、参加した町民の思いを充分に汲み取ることができなかった。結果的には、国・復興庁及び復興庁の意向を強力に受ける福島県からの外圧、さらには、そうした県庁派遣職員によって内部的にも自主性を失った富岡町自体によって、国の復興事業メニューに「乗り遅れない」という焦りの競争なかで、いつしか、国主導の土建事業主体の復興計画に収斂してしまった。こうして、町民にとっては、必ずしも本意ではない復興計画が、町 (民) の要望した計画として公式に策定され、国・福島県からは、「町とはじめて方向が一致した」という「評価」を受けることなり、帰還政策とともに復興事業が動き出している。
 
このような事態を観察することを受けて、共同研究として、町民の意向に即した「有り得た」はずの、さらには、「有り得る」かもしれない、復興計画について、試論的に展開したものである。自治体にとって長期計画や長期シナリオは重要である。しかし、それは住民の声から導出されなければならない。そこで、上記の復興計画 (第2次) の策定過程で為された町民参加会議体における町民の声をもとに、「有り得た」かもしれないオルタナティブなの復興計画を描き出したものである。その意味では、実際に実在する復興計画の実証研究ではない。しかし、全くの机上論でもない。現実の復興計画の策定において入力された情報と同様の情報を利用しつつ、そこから「有り得る」復興計画の代案を構成したものである。
 
その際に使用した手法が、「シナリオ・プラニング」である。その手法には様々な形態があり、また、方法論的にはいろいろな論点は有り得るが、この共同研究では、方法論には深くこだわることはしなかった。むしろ、現実とは異なる複数の選択肢をシナリオとして、明確に提示することに重きを置いた。町民の思いを、いくつかの「物語」として言語化し、それを計画化する作業を試みたものである。そうして導出されたのが、「被害者シナリオ」「反省シナリオ」「凍結シナリオ」という3つのシナリオであった。その上で、もう一つの計画を「シャドープラン」としてまとめ、さらに、それを支えるための制度として「二重の住民登録」を検討したものである。
 
現実には、既存の政治構造のなかで、第2次復興計画が策定され、それに基づいて復興事業が進む。それは、必ずしも町民の思いとは一致していないが、実証研究的にはなかば「必然」の力学を反映している。しかしながら、将来においても、この計画でそのまま進むことができるとは限らない。そのような観点から、過去の時点で「有り得た」シナリオを提示し、将来の時点で「有り得る」かもしれない「シャドープラン」をまとめ、将来の世代に知的基盤として伝えることを企図しているのである。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 金井 利之 / 2017)

本の目次

本書について
第1章  総論
    はじめに
    第1節  自治体にとっての長期計画
    第2節  長期シナリオなき趨勢
    第3節  住民の声から導出される富岡町長期シナリオ
    おわりに
第2章  3つの長期シナリオ
    第1節  被害者シナリオ~追及の物語~
    第2節  反省シナリオ~悔恨の物語~
    第3節  凍結シナリオ~待機の物語~
第3章  シャドープラン
    第1節  計画編: 再建シナリオ~もう一つの物語~
    第2節  制度編: 二重の住民登録
    おわりに
参考文献