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白い表紙にベージュの模様

書籍名

ちくま新書 行政学講義 日本官僚制を解剖する

著者名

金井 利之

判型など

384ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2018年2月5日

ISBN コード

978-4-480-07128-6

出版社

筑摩書房

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行政学講義

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本書は、一般読者向けに、日本の行政と官僚制を紹介するものである。タイトルは、「行政学講義」となっているが、学界の標準的な教科書とは言えない。従って、大学の講義で教科書として利用することは、講義する者が相当程度に標準的な知識を補足することがなければ困難である。本書は筆者自身の固有の行政学である。もちろん、本書で書かれている内容は、事実であると確信している。ただ、描く者によって、同じ事実をもとにした日本行政や官僚制も、多様な姿として表現されるだろう。
 
統治者と被治者の同一性を想定する民主主義でも、支配の契機は消えない。実体的な支配の作用を担うのが為政者であるが、その中心は行政であり官僚制である。しかし、自由主義的民主主義においては、行政や官僚制を民主的統制する政治や自治や、民衆の直接的な参加や、個人の自由が重要である。これを扱うのが第1章である。
 
為政者による支配を制約するのが、第2章で採り上げる外界の存在である。自然や社会・家族などは、行政が支配を目指す対象であるともに、支配の限界を画する環境であり、非常に大事である。特に、外国・国際関係と資本主義市場経済の制約は大きい。また、敗戦国日本では、特殊な外国としての米国を無視できない。
 
支配の担い手が、第3章で扱う官僚制を中心とする支配集団たる身内である。身内のなかの身内が、行政組織と官僚集団である。そして、行政組織と官僚集団は、一部の外界と結合して為政者集団を形成する。全ての被治者が身内となることはない。政界・業界・学界・報道界・地方界と結合した六角形の身内集団が形成される。そして、この六角形の結合は、様々な人脈によって形成され、また、六角形が人脈を再生産する。統治者と被治者の同一性を標榜する民主主義の理念はあるものの、現実には、為政者側の身内にもなる被治者と、身内から排除される被治者とが、分化する。
 
為政者は、被治者に対して支配の作用を及ぼす。その回路が、第4章で扱う実力、法力、財力、知力の4つである。実力は支配の最も赤裸々な姿であるが、法的裏付けという法力や正しい情報・知識という知力が必要である。また、支配を強制するよりは、財力や知力で被治者の同意を得る方が望ましいし、財力や知力で支配をある程度達成することが、実力や法力を助ける。4つの力は、相互に補完し合ながら、為政者による支配を実現する。
 
以上のような実態を踏まえ、民衆の行政とのつきあい方を終章では模索する。全ての被治者が為政者の身内になることは可能ではないが、為政者の身内は全ての被治者に対して開放的であるべきである。また、全ての民衆が為政者側の身内になることは、為政者目線の内面化であって、現実の支配の民衆に対する不条理を隠蔽することでしかないから、身内になればよいことではない。むしろ、為政者の身内にならない被治者民衆の人生を保障することも、健全な支配のためには必要である。包摂と保障の双方が求められる。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 金井 利之 / 2018)

本の目次

序  章 被治者にとっての行政
第1章 支配と行政
第2章 外界と行政
第3章 身内と行政
第4章 権力と行政
終  章 行政とのつきあい方
 

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