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書籍名

講談社現代新書 崩れる政治を立て直す 21世紀の日本行政改革論

著者名

牧原 出

判型など

256ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2018年9月19日

ISBN コード

978-4-06-513077-3

出版社

講談社

出版社URL

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学内図書館貸出状況(OPAC)

崩れる政治を立て直す

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東京大学先端科学技術研究センターとは、理工系を中心に社会科学を含めて、先端であれば分野を問わずに集い、互いに切磋琢磨する日本でも唯一無二の研究所である。そこで政治学・行政学分野として何ができるかを考えながら生み出したものが、本書である。行政学としては歴史の視座を重視する筆者の年来の関心と、新しいものをたえず生み出そうとする工学との接点を探ることがここでは目指されている。

しかも二度の政権交代後、明らかに従来とは異なる政治・行政現象が日々起こっている。そこで、本書は、日本の行政が歴史的に形成してきた基底的な構造をとらえた上で、政権交代後の現在、そうした制度の運営=操作の可能性をとらえ、政権が制度を運営する際に何が可能であり、何が不可能なのか、その上でいかなる改革が可能なのかを検討している。

では日本の行政の基底的な構造とは何か? ここでは、まずはドイツを中心とするヨーロッパ大陸諸国の行政史研究で指摘されてきた「古典的五省」としてとらえる。それは、内務・外務・財務・法務・軍務という五分野である。いずれも憲法に規定される制度と深く関わっており、かつきわめて独自の制度的発展を遂げてきた。従来の行政学は、このうち「内務行政」(といくらかは財務行政) に特化した研究を蓄積してきたが、それでは、行政を総体として分析することはできない。そこで、本書は戦前戦後の行政史を叙述する際に、この五省を中心にまずは概説する。特に日本固有の組織として重要なのは、この五省に加えて、制度変更・政策革新のアクセルとなる商工・通産・経産省と、何れに対してもブレーキとなる法制局・内閣法制局である。こうした5分野+2の枠組みでとらえた行政こそ、総体としての日本の行政なのである。

ではそれはどのようにして改革が可能なのか? 直近の大きな改革は、2001年に行われた省庁再編であった。今なお、こうした再々編を求める声は強い。だが、本書がそこで強調するのは、工学の視点である。すなわち、そうした改革案は作動するのか? という問いである。

こうした視点は、正面から言わないまでも既に歴史の中で幾度となく取り上げられてきた。明治期をふりかえる戦前のジャーナリスト三宅雪嶺がそうであり、『明治憲法体制の確立』(東京大学出版会、1971年) で大日本帝国憲法発布後の政治状況をとらえた政治史学者の坂野潤治もそうである。直近でこれを明確にとらえたのは、小泉純一郎政権下で構造改革を推進した竹中平蔵である。メディア・アカデミズム・政策実務に広く行き渡っているこうした思考様式を、本書は「作動学」と呼び、その体系化を提唱している。「作動学」は、情報システムが広く社会を規定する21世紀現在、特に重要である。平成から令和への天皇退位では、切れ目のない代替わりが社会にとり必要であることを天皇自らが指摘し、さらに即位一月前に新元号が発表されることで、情報システムがスムーズに更新されるよう図られた。21世紀の現在、こうした情報システムをもとにしたシームレスな改革が不可欠となっている。本書は、システムと法制度がどう絡み合っているのかを解きほぐしながら、新しい制度を構想することが提唱している。責任と加速、決断と自制をどう制度の中に溶け込ませるかという構想は、それ自体がスリリングな知的冒険なのである。

 

(紹介文執筆者: 先端科学技術研究センター 教授 牧原 出 / 2019)

本の目次

第一章 変わる改革、動く制度
第二章 第二次以降の安倍晋三政権の行き詰まり
第三章 自民党長期政権と自らを動かす官僚制
第四章 小泉純一郎政権以後の自民党と官僚制
第五章 民主党政権の失敗から学ぶこと
第六章 政権交代後の官僚制を再生するには? 

関連情報

著者対談:
【神保哲生×宮台真司×牧原 出】官邸への絶大なる権限集中――その弊害と行く末 (サイゾーpremium 2019年6月27日)
https://www.premiumcyzo.com/modules/member/2019/06/post_9384/

牧原出教授 (東京大学)と西田亮介准教授 (東京工業大学) による対談 日本の官僚が"不祥事リーク"を始めた背景 (PRESIDENT Online 2019年3月1日)
https://blogos.com/article/361169/

書評:
三浦瑠麗 (国際政治学者・東京大講師) 評 (読売新聞オンライン 2018年11月26日) https://www.yomiuri.co.jp/life/book/review/20181119-OYT8T50050/

河野龍太郎 (BNPパリバ証券経済調査本部長) 評 (週刊東洋経済Plus 2018年11月24日号)
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/19299

崩れる政治を立て直す 牧原出著 行政が劣化した原因を検証 (日本経済新聞朝刊 2018年11月3日) https://www.nikkei.com/article/DGKKZO37288570S8A101C1MY7000/

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