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スクラッチしたようなグレーと白の表紙

書籍名

日本政治史講義 通史と対話

判型など

568ページ、四六判、並製カバー付

言語

日本語

発行年月日

2021年5月

ISBN コード

978-4-641-14937-3

出版社

有斐閣

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日本政治史講義

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近代日本の始点をペリー来航に定め、太平洋戦争を介して持続する戦後史の終着点を2020年の安倍晋三内閣の終焉と定めたのが、本書の特徴である。日本政治外交史の分野でここまでの射程を持つ本は、類例を見ない。

さらに、「通史と対話」という副題が示すように、各時代の概説のあと、著者の二人が、対話を通じて時代の底流にある政治構造とその転換を語り、その素材として、様々な史料をとりあげる。正面から時代に取り組む読み方もできるが、対話から時代を知る糸口をつかみ、そこから通史を読み通すこともできるという仕掛けがそこにある。
 
このように、対象とする時代の長さと、対話をまじえた講義である点で、本書は大学の学生も一般市民も読み手となりうる日本政治外交史の教科書を目指している。
 
こうした構成を取ることができたのは、本書の原型が放送大学の教科書と映像教材であり、架空の対話ではなく、スタジオで著者二人が交わした対話が文字化されているからである。現実の会話は、設例として作られた対話とは大きく異なる。そこでのやりとりはスムーズで自然である。そのため、対話編は無理なく読み進められるように構成されている。
 
しかも、本書の原型となる教材を準備していた年は、2011年であり、東日本大震災の発生からしばらくたってからであった。御厨は政府の諮問機関であった東日本大震災復興構想会議の議長代理として復興政策の基本方針をとりまとめた。牧原は、仙台市の復興方針の諮問を受ける会議の委員となり、東北地区の復興状況の調査を行っていた。これらの経験から、本書は、関東大震災、阪神淡路大震災といった巨大災害と政治史の関係を特にクローズアップしている。震災以前には等閑視されてきたこのトピックは、政治変化をより促進する要因としては極めて重要である。
 
著者の二人は、長らくオーラル・ヒストリーの手法で戦後政治の歴史資料の蓄積を図ってきた。書かれた史料と同等かそれ以上に、談話の意味が増す戦後では、オーラル・ヒストリーの活用は、歴史叙述に不可欠である。本書は、桂太郎の書簡、原敬日記、占領期の官僚のメモなどの史料の紹介とともに、多数のオーラル・ヒストリーの記録を紹介している。対話編の文脈では、語りの記録を説明する方が、文章の精彩が増しているように思われる。
 
最後に、本書の準備の際に、北は函館から南は沖縄まで現地調査を行っている。そうした場が生み出す政治史も本書の特性であり、意識的に建築や公共空間が政治史に刻印する権力構造についても、随所で触れるよう心がけている。
 
長い射程の中で歴史の大きな流れをつかむという一般性をもたせつつ、特殊な状況を活写する史料とトポスの引用という仕掛けを取り入れた政治史である。
 

(紹介文執筆者: 先端科学技術研究センター 教授 牧原 出 / 2021)

本の目次

第1章 日本政治と政治史学
第2章 戊辰戦争と西南戦争
第3章 日清戦争と立憲政友会の成立
第4章 日露戦争と大正政変
第5章 第一次世界大戦と政党政治
第6章 十五年戦争の時代
第7章 占領と復興
第8章 日米安全保障条約の改定
第9章 高度経済成長の政治
第10章 佐藤栄作内閣と沖縄返還
第11章 列島改造と保革伯仲の時代
第12章 地方の時代と東京一極集中
第13章 政治改革と細川護熙内閣
第14章 小泉純一郎内閣と自民党政権の崩壊
第15章 第一の政権交代と民主党政権
第16章 第二の政権交代と第二の安倍晋三政権

関連情報

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政治史の書き方,読み方,使い方 vol.2 ――『日本政治史講義』の場合 [上] (有斐閣書籍編集第2部 | note 2021年11月16日)
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書評:
本よみうり堂:[記者が選ぶ] 8月22日 (読売新聞 2021年8月22日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/column/press/20210823-OYT8T50056/
 
[出版]「日本政治史講義」(御厨貴、牧原出 著) (沖縄タイムス 2021年8月13日)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/803240
 
御厨 貴 (東京大学先端科学技術研究センター客員教授) 評「通史を通して対話を試みる――『日本政治史講義――通史と対話』を書き終えて (有斐閣『書斎の窓』 2021年7月号)
https://www.bookbang.jp/review/article/692121
 
読書アンケート: 五野井郁夫 (高千穂大学教授) 評 (『図書新聞』第3505号 2021年7月24日)
http://www.toshoshimbun.com/books_newspaper/shinbun_list.php?shinbunno=3505
 
イベント:
[オンライン(Zoom)] 『日本政治史講義』(有斐閣) 刊行記念 御厨 貴×牧原 出トークイベント 「菅政権の一年を振り返る――日本政治史“特別”講義」 (代官山 蔦屋書店 2021年8月9日)
https://peatix.com/event/1977454?lang=ja
 
御厨政談 第5回 特別編 Web書評会 「日本政治史講義」
https://www.sohatsu.or.jp/we%E6%9B%B8%E8%A9%95%E4%BC%9A%E3%80%8C%E6%97%A5%E6%9C%AC%E6%94%BF%E6%B2%BB%E5%8F%B2%E8%AC%9B%E7%BE%A9%E3%80%8D/
 
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政治寄席2021: 御厨貴×牧原出『日本政治史講義』を読み破る (東大駒場リサーチキャンパス公開2021 2021年6月12日)
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