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白と黄緑の表紙

書籍名

行政学概説

著者名

金井 利之

判型など

298ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年

ISBN コード

978-4-595-32205-1

出版社

放送大学教育振興会

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行政学概説

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本書は、放送大学 (ラジオ・学部向け) の「行政学概説’20」のための放送用教材 (教科書) である。これまで、放送大学の教材は、改訂されて教科書として刊行されるものも多かった。例えば、西尾勝『行政学』(有斐閣、初版は1993年、改訂版は2001年) は、放送用教材としての『行政学』(放送大学教育振興会、1988年)、『行政の活動』(放送大学教育振興会、1992年) を下敷きにしている。その意味で、それ自体として完成した作品というよりは、放送大学の講義と学生からのフィードバックを踏まえて、今後の改定が見込まれる中間的な試作品とみることもできよう。
 
本書は、あまたの行政学関係の教科書や体系書とは、かなり異質の構成をなしている。具体的には、相対性、空間性、時間性、権威性、区別性、専門性、秘密性、合法性、自律性、妥当性、公平性、民主性、代表性、中立性、責任性という、15の特性を取り上げて、それぞれの観点から行政を論じるというスタイルをとる。その意味では、西尾勝が、教科書ではなく論文集で取り上げた『行政学の基礎概念』(東京大学出版会、1990年)の様々な概念を、行政の特性として再編して、教科書の形態に仕上げたものと位置づけることができる。
 
その反面、西尾勝が提示した行政学の三つの観点、すなわち、制度論、管理論、政策論については、明示的に示されることはない。内閣や省庁組織などの行政の組織・制度についての解説も、予算・人事などの行政管理の仕組や運用に関する分析も、意思決定や政策過程に関する検討も、まとまった形では示されない。それゆえ、行政の基本的な制度や管理の仕組を知りたい人にとっては、やや分かりにくい記述になっている。しかし、多くの人々は、マニアとして行政の制度や仕組みの知識を得たいわけではない。また、こうした知識は、役人として働いている人にとっては当たり前であるし、行政と相互交渉をする民間企業や研究者やNPO・市民活動団体も、自然と身につくものである。それよりも、表面的な行政の背後にある、構造的な特性を示すことで、見えない行政の本質に迫ろうというのが、本書の狙いである。
 
もっとも、これらの要因は、上記の15の特性をそれぞれ持っているため、実際には解説される行政現象には大した違いはない。例えば、制度・管理の中核の一つである公務員制度・人事管理は、権威性、専門性、合法性、自律性、代表性、中立性など、様々な箇所で言及されているのである。したがって、教科書として、特に言及すべき項目が大きく欠落しているわけではない。

 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 金井 利之 / 2021)

本の目次

第1章 行政の相対性
第2章 行政の空間性
第3章 行政の時間性
第4章 行政の権威性
第5章 行政の区別性
第6章 行政の専門性
第7章 行政の秘密性
第8章 行政の合法性
第9章 行政の自律性
第10章 行政の妥当性
第11章 行政の公平性
第12章 行政の民主性
第13章 行政の代表性
第14章 行政の中立性
第15章 行政の責任性

関連情報

講義:
行政学概説 (’20) (放送大学)
https://bangumi.ouj.ac.jp/v4/bslife/detail/15486202.html

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