東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

黒と薄紫の切り絵の表紙

書籍名

震災と市民 1 連帯経済とコミュニティ再生

著者名

似田貝 香門、吉原 直樹 (編)

判型など

256ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2015年8月13日

ISBN コード

978-4-13-053022-4

出版社

東京大学出版会

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震災と市民 1 連帯経済とコミュニティ再生

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本書は、「巨大災害の発生という緊急時、市民社会には寄付やボランティアなどの「連帯経済」が立ち現われ、人びとは共同性へとつきうごかされる。東日本大震災とその後の経験のなかから、現代日本社会における新たな自立と支援の姿、コミュニティの諸相を考察する」(出版社HPより引用) ことをねらいとしている。
 
本図書の中で、筆者自身は、8章において「復興とコミュニティ論再考――連携協働復興のコミュニティ・デザインにむけて」と題して、特殊日本的概念である「復興」を論じ、またその上で、以下に記す通り、非営利組織による復興を今回の震災復興の特徴として捉えて、その実態、課題、可能性などを論じている。
 
そもそも「復興」は、関東大震災からの都市再建に際して初めて用いられた用語であると考えられる。西欧列強に追いつくことが主要命題であった往時、文芸復興 (ルネッサンス) が社会的に注目されていた。おそらくは、東京の復興 (帝都復興) を構想した後藤新平は、この文芸復興にヒントを得、震災とそれに伴って発生した大火からの再建において、従前の状況にもどることではなく、東京を社会的にも物的にも列強国の首都に負けない帝都とすることを期して、つまり近代化された新しい社会そして都市をかたちづくることを期して、帝都復興との呼称を創案した。
 
しかし、実際の「復興」は、土地区画整理事業によるインフラの整備にとどまった。そして、戦災復興を経て、「復興」=土地区画整理事業によるインフラの整備を中心とする、という図式が成立してきた。もちろん、阪神淡路、中越などの各震災において、それまでとは異なる新しい社会をめざすという意味での復興の試み、それはまちづくりのための基金の創設であったり、協議会方式の採用であったり、も、主流とは言えないまでも、行われてきた。
 
東日本大震災からの復興は、阪神淡路や中越地震などの復興とはまた異なる特徴を有している。その最大の特徴の一つが、非営利活動や組織による復興の多様化と複雑化にある。国際的NGO、広域的復興連携組織、全国展開するNPOや一般社団、さらにはCSRの観点から活動企てる私企業、そして全国から来るボランティア市民、地域ベースのNPOや市民活動団体、町内会や仮設住宅の自治組織、社会福祉協議、など異なる立場や役割/ねらいを持った多様な組織主体が復興に関わり、様々な試行的な実践が展開されていた。そこでは、異なる性質の組織/主体間の意味ある連携が行われた場合もある一方で、非営利組織間での競合、他主体との連携の可能性があるにも拘らず孤立的活動を強いられる場合などもあり、多様な様相を観察することができた。
 
復興が、復旧を超えて、被災地の未来の社会や都市を構想し、それに近づく試みを意味するものであるのならば、復旧をこえた+αの部分には、その「時代」が目指したい社会/都市の未来が投影されているものではないだろうか。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 小泉 秀樹 / 2019)

本の目次

はじめに
I 市民社会と「連帯経済」
 1章 モラル・エコノミーとボランティア経済――<災害時経済> のもうひとつの経済秩序 (似田貝 香門)
 2章 グローバル・リスク社会から連帯社会へ――原発災害と市民社会 (斉藤 日出治)
 3章 災害の空間・時間構造と市民的公正 (八木 紀一郎)
 4章 巨大災害と市場・政府・コミュニティ (澤田康幸)
       [コラム1] 東北の復興に思う (岸田省吾)
 
II 災害復興とコミュニティ
 5章 関東大震災の予見と防災対策 (鈴木 淳)
       [コラム2] 防災と「建築基本法」思想 (神田 順)
 6章 減災・復興と都市計画・まちづくり (室﨑益輝)
 7章 大槌から見える“安全の文化”への新たな道 (岩崎 敬)
 8章 復興とコミュニティ論再考――連携協働復興のコミュニティ・デザインにむけて (小泉秀樹)
 9章 「仮設市街地」による協働復興――陸前高田市長洞集落の住民組織活動の考察 (森反章夫)
       [コラム3] 東日本大震災における <贈与のパラドックス> の諸相 (仁平典宏)
 10章 帰属としてのコミュニティ――原発被災コミュニティのひとつのかたち (吉原直樹)
 11章 コミュニティの問題にとりくみだした建築界 (五十嵐 太郎)
あとがき
 

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