東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

オレンジの表紙

書籍名

教師のための防災学習帳

判型など

112ページ、B5判

言語

日本語

発行年月日

2021年3月1日

ISBN コード

978-4-254-50033-2

出版社

朝倉書店

出版社URL

書籍紹介ページ

英語版ページ指定

英語ページを見る

「失われた娘の命はかえってこないけど、せめて自分が語り続けることが、ほかの誰かの明るい未来につながるのなら————」
 
地理学を専門とする立場で、災害論や防災の分野に深く踏み込み、本書『教師のための防災学習帳』を企画した原点には、東日本大震災の遺族のこの言葉がある。
 
石巻市立大川小の児童74人、教員10人が犠牲となった津波被災の現場では、震災から年月を経ても毎日、酷暑の夏も凍てつく真冬も、遺族が〈せめて〉と語り続けている。「この〈せめて〉と真正面から向き合い、多くの学校現場や教員たちと共有しなければならない」。いささか大仰に受け取られるかもしれないが、被災地にあり、東北地方に多くの学校教員を輩出する宮城教育大学で研究生活を送っていた身として、強い使命感のようなものを自覚して、企画、編著に当たった。
 
読者層は主に現職教員や教職を志す大学生と設定した。過去の災害経験を知ったうえで、実際の学校現場の課題改善につなげられる解説を施す形式にこだわった。「学校被災」を記録した書籍が複数刊行されているものの、多くは詳細な経験の記述が中心で、具体的な対応を考える構成になっていなかったからだ。経験談を読んだだけでは、教訓を明確に導き出せないものがほとんどだった。そのため、本書では課題を自分事として反映しやすいよう各章統一の形式を設けた。避難訓練、ハザード理解、情報活用、災害心理、学校と地域や専門家との連携、災害伝承など、学校防災を取り巻く各分野の第一線で活躍する研究者や実務家に、具体的な対応策まで示す内容で分担執筆いただいた。
 
いじめやGIGAスクールの対応などで常に多忙な教員にとって、改めて防災に目を開き、意識を高めるには何が必要か。それも本書の核心になる。災禍に向き合い、防災に思いを深めることは、災害対応の知識や技能を身につけるだけにとどまらない。自分と隣り合う人たちが、互いのいのちと尊厳・人権を守り合うために何ができるのか、ともに生き抜く社会づくりには何が必要か。教育そのものが目指す視点がそこには見えてくる。
 
防災を入り口に社会のありようを考え、未来を展望する「防災という教育」の可能性まで思いを広げていただけるよう、構成に努めたつもりである。南海トラフ地震、首都直下地震の危機が迫る中、〈せめて〉を受け止めた一歩を踏み出すために、学校関係者だけでなく、地域を支える市民にも手に取って欲しいと願っている。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 小田 隆史 / 2023)

本の目次

まえがき
 
第1章 学校防災の基礎と意義――学習帳の活用法
1.1 総説
1.2 事例・教訓に学ぶ
1.3 本書を自校でどう活用するか
コラム 「防災担当教員」――戸惑いから自負へ
 
第2章 避難訓練を見直す
2.1 総説
2.2 避難訓練の実施の流れ
2.3 多様な避難訓練・防災訓練
コラム 避難訓練における多様な工夫
 
第3章 ハザードの種別と地形理解、災害リスク
3.1 総説
3.2 実際の災害で得た教訓に学ぶ
3.3 自校園で何をすべきか考える
コラム 地震時の地盤の動きをプリンとようかんで理解する
 
第4章 学校防災に情報を活かす
4.1 総説
4.2 実際の災害で得た教訓に学ぶ
4.3 自校園で何をすべきか考える
コラム 平時にネット上の防災情報を有効活用する
 
第5章 災害と人間のこころ
5.1 総説
5.2 実際の災害で得た教訓に学ぶ
5.3 自校園で何をすべきか考える
コラム 災害の語り部による記憶の伝承
 
第6章 地球規模課題としての災害と国際的戦略に学ぶ――学校の被害軽減と早期再開を目指して
6.1 総説
6.2 実際の災害で得た教訓に学ぶ――学校防災に着目して
6.3 自校園で何をすべきか考える
コラム 災害時における子どもの学び支援
 
第7章 学校と家庭・地域との連携・協働の仕組みづくり
7.1 総説
7.2 平常時における連携・協働の活動事例に学ぶ
7.3 地域のことは地域から学ぶ必要性
7.4 自校園で何をすべきか考える
コラム 避難施設の鍵管理
 
第8章 地域住民や専門家と協働した防災授業づくり
8.1 総説
8.2 地域住民や専門家と協働した釜石東中学校の事例
8.3 自校化で何をすべきかを考える
コラム 専門家とTTで授業を行う
 
第9章 語り継ぎと当事者性・市民性を育む防災教育――災害と防災を「自分に関係のあること」として捉えるために
9.1 総説
9.2 大災害と語り継ぎの実践から
9.3 自校園でできること
コラム 子どもの感性に驚く
 
あとがき

関連情報

書評:
八木雅之 評「「自校園ですべきこと」検討へ導く」 (日本教育新聞 2021年6月28日)
https://www.kyoiku-press.com/post-231863/
 
書籍紹介:
「うちのセンセイ 防災で教育の質向上」 (毎日新聞 2021年6月28日)
https://mainichi.jp/articles/20210628/ddm/013/100/036000c
 
「東日本大震災から10年、あらためて学校防災を考える 実践的手引き『教師のための防災学習帳』」 (じんぶん堂|好書好日 2021年3月5日)
https://book.asahi.com/jinbun/article/14235930
 
「予期せぬ災害時に最善の行動をとれるように 教師と教職を志す学生のための学校防災」 (じんぶん堂|好書好日 2021年2月26日)
https://book.asahi.com/jinbun/article/14216641

このページを読んだ人は、こんなページも見ています