
書籍名
首都直下大地震 国難災害に備える 関東大震災100年:防災対策の意識改革、コストからバリュー、そしてフェーズフリーへ
判型など
152ページ
言語
日本語
発行年月日
2023年8月29日
ISBN コード
9784845118472
出版社
旬報社
出版社URL
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2023年は10万5千人に及ぶ死者・行方不明者を出した関東大震災を引き起こした大正関東地震からちょうど100年の節目の年でした。関東大震災の被害や影響は、延焼火災や構造物被害、流言飛語の問題などを中心として語られることが多いですが、津波や土砂災害も過去の他の震災と比べて十分大きな規模でした。また、過去100年間の市街地の大幅な拡大や長周期構造物の普及による新たな問題が指摘されることもありますし、震災からの復旧・復興については、後藤新平の帝都復興計画や復興院を中心に議論されることが多いようです。
しかし、このような議論だけで十分でしょうか。本書では、関東大震災が発生した時代背景やその後の我が国の歩みを俯瞰した上で、関東大震災が我が国に与えた真の影響、現在の我が国が抱える問題のほとんどの本質的な原因となっている首都圏への一極集中の原因やその背景、さらに改善策などについても考察しています。そして、これらの考察結果に基づき、発生が危惧される首都直下地震や南海トラフの巨大地震対策として、何に注意すべきかについても述べています。
大正時代は、政治的には明治時代の元老を中心とした藩閥主義を脱して、政党政治に移行しようとしていた時代です。経済や社会活動においても、第一次世界大戦による経済好況や戦後不況、護憲運動や労働運動、婦人参政権運動、部落解放運動など、民主運動が活発に行われました。1918年から3年にわたるスペイン風邪の大流行では、当時の人口の4割を超える2,400万人が感染し、39万人の死者が出ました。市民の生活においても、西洋式の衣食住が広がるとともに、新しい都市の文化も形成されました。いわゆる「大正デモクラシー」の時代だったわけですが、関東大震災は、この自由な雰囲気を一気に変え、わずか18年後には太平洋戦争に突中し、22年後の1945年には民間人を含め310万人を超える死者を出す第二次世界大戦の敗戦への転換点になったのです。
大正関東地震は明治維新から2023年までの時間 (一五六年間) の最初の約三分の一の時点で発生し、22年後の第二次世界大戦の敗戦がちょうど中間年になります。その後の我が国が敗戦から大きな影響を受けたことは言うまでもないですが、その大元には関東大震災があります。人間は自分が想像できないことに対して備えたり、対応したりすることは絶対にできません。現在発生が危惧されている首都直下地震や南海トラフの巨大地震は、関東大震災の全体像の把握と今後の国内外の社会状況の変化に関する適切な予測に基づく、バックキャスト的な課題解決策の検討が必要だと思います。これが将来の被害軽減と災害を契機として社会全体が誤った方向に進まないために不可欠であることを、私たちは再認識すべきです。その際には、現在の少子高齢人口減少や厳しい財政的な制約を忘れてはいけません。今後のわが国の巨大災害対策は「貧乏になる中での総力戦」となる可能性が高く、そのような状況では、意識の改革も必要になります。本書では「コストからバリューへ」、そして「フェーズフリー」をキーワードに、今後の我が国における持続可能な災害対策の推進法についても私見を述べています。
(紹介文執筆者: 情報学環 学環長・教授 目黒 公郎 / 2024)
本の目次
第I部 関東大震災から100年
――国難災害に対する最重要課題とその改善へのヒント
大正関東地震と関東大震災
関東大震災が我が国に与えた影響
今後直面する国難(級)災害とその理由
過去に起こった国難災害
(1) 諸外国での例
(2) 我が国における例
我が国と首都圏の人口変化
明治維新で大きく変わったこと
(1)参勤交代の真の意味
(2)明治政府の人材登用
(3)首都圏への人材集中の実態
(4)首都圏への人口や機能の集中がもつ意味
(5)首都圏への極度の集中をどう緩和するか
おわりに
第II部 首都直下地震に備える
第1章 今後の大地震対策:貧乏になっていく中での総力戦
大地震が頻発する時代を迎えた日本
貧乏になっていく中での総力戦――必要となる意識改革
災害に強い地域づくり――災害レジリエンスの高い社会とは
災害のメカニズム――「災害は進化する」というが
総合的な災害管理とは
第2章 総合的な災害管理で効果的に災害リスクを低減する
総合的な災害管理とマトリクス
「ありのままの姿」から「あるべき姿」へのプロセス
防災計画と実際の防災対策の乖離
災害リスクと防災対策の優先順位づけ
公表された世界の主要都市の災害リスク
第3章 災害対策の効果を正しく理解することの重要性
災害対策の効果を正しく理解する
誤解されている東日本大震災の教訓
ハード対策のプラスの影響とマイナスの影響
ソフト対策のプラスの影響とマイナスの影響
第4章 熊本地震災害の対応から学ぶべき教訓
2016年熊本地震災害
連続で激しい揺れが襲ったことの影響
(1)構造物の被害への影響
(2)死傷者数への影響
プッシュ型支援から得られた教訓
(1)支援する側の教訓
(2)支援を受ける側の教訓
災害対応へ及ぼす平成大合併の影響
(1)将来の被害を抑止するために
(2)災害対応力の強化のために
今後の大規模災害対応に対して
第5章 東北地方太平洋沖地震の直後に感じたこと
東北地方太平洋沖地震と東日本大震災
緊急地震速報の発報と当日の行動
復興ビジョンと四原則
国家戦略室にて
(1)対口(たいこう)支援
(2)被災者のマインドのリセット
(3)帰宅困難者問題
(4)継続的・総合的な被災地支援のために
第6章 首都直下地震対策への関東大震災からの教訓
大正関東地震と被害概要
関東大震災と首都直下地震の経済被害と復興
地震火災の出火の原因とその変化
地震火災の効率的な初期消火のために
首都直下地震対策に向けて
第7章 ライフラインの供給停止と災害時の生活継続
ライフライン被害と今後の対策の基本
ライフライン被害の特徴
(1)ライフラインが機能障害を起こしやすいわけ
(2)ライフラインは生命線か?
ライフラインの機能障害への対処法
(1)ライフラインの機能の代替案
(2)循環型備蓄のすゝめ
(3)家庭で常備している生活用品とその利用法
第8章 災害イマジネーションの重要性と向上策
適切な防災対策の実現に最も重要なこと
目黒メソッド
(1)徹底した当事者意識
(2)個人が有する多面性の理解
(3)「健常者=潜在的災害弱者」の意識
(4)自分の死後の物語を考えることの重要性
(5)次の災害までの時間がわかると
目黒巻
災害イマジネーションの向上によって
第9章 災害イマジネーション不足を原因とする諸問題
災害を想像するという備え
感震ブレーカーの功罪
数値目標としての耐震化率の欠点
大規模災害時の中小企業のBCPのあり方
マスコミによる災害報道における問題
良かれと思った行動が問題を生まないように
第10章 災害対応における適切な人材運用の実現のために
「何をすべきかわからない」状態から始まる災害対応
災害対応を取り巻く現在の課題
提案システム(SHIFT)の概要
(1)災害対応の全体像を示す機能
(2)最適な人員配置法を提示する機能
(3)活動履歴・実績をデータベース化する機能
(4)災害対応の進捗管理を行う機能
提案システム(SHIFT)の活用法
(1)事前(発災前)の活用法
(2)発災時の活用法
その他の利用法と今後の管理運用のあり方
第11章 地震にまつわる確率について
地震と確率
ポアソン分布とBPT分布
活断層の破壊を原因とする地震
回帰周期の大きく異なる地震発生確率の扱い
(1)活断層型地震の場合
(2)プレート境界の地震の場合
(3)両者の違いが発生する理由
確率的地震動分布予測図について
東京オリンピック・パラリンピックと地震対策
第12章 大地震の前に実施しておくべき課題のまとめ
最終稿として
国難的災害であることの理解
次の巨大震災までにすべきこと
(1)「貧乏になっていく中での総力戦」という覚悟と「コストからバリューへ」、そして「フェーズフリー」の意識改革
(2)地震後の電力の確保
(3)人口誘導と大胆な土地政策
(4)災害保険の改善
(5)災害がれきの処理の問題
東日本大震災の対応からの教訓
さいごに
関連情報
巨大地震に備え、民力で防災ビジネス育てよ 目黒公郎氏 東京大学教授 (日本経済新聞 2024年10月18日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD263H30W4A920C2000000/
国難級の巨大地震には家庭の自助が重要に (MISAWA HOME Lounge 2024年8月28日)
https://www.misawa.co.jp/homelounge/library/homeclub/thinklife/post-136.php
防災対策を「コスト(費用)からバリュー(価値)に」 東京大・目黒公郎教授 (産経新聞 2024年2月2日)
https://www.sankei.com/article/20240202-FCMLULRHIZKCBHQUCQW24NCDBY/
関東大震災後100年防災Special「激甚化する災害への対策企業としての最大の備えは防災意識の転換にあり」 (日経ビジネス 2023年9月1日)
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/ONB/23/dp0901/
防災「生活の質向上」を目的に 目黒公郎・東京大学教授 関東大震災100年 身構える大都市(6) (日本経済新聞 2023年8月28日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC173BP0X10C23A8000000/
【教員インタビュー】目黒公郎 教授(前編)
An Interview with Prof. MEGURO, Kimiro (Part 1) (東京大学大学院情報学環・学際情報学府ホームページ 2023年7月7日)
https://www.iii.u-tokyo.ac.jp/research/230707interview1
【教員インタビュー】目黒公郎 教授(後編)
An Interview with Prof. MEGURO, Kimiro (Part 2) (東京大学大学院情報学環・学際情報学府ホームページ 2023年7月18日)
https://www.iii.u-tokyo.ac.jp/research/230718interview2
くらしのなかに防災ニッポン : 防災移転や共助の活用…国難級災害に求められる「総力戦」とは (読売新聞オンライン 2023年6月8日)
https://www.bosai.yomiuri.co.jp/biz-article/10145
SDGsインタビュー: 将来の大地震に備えた防災対策〈後編〉防災力の向上に不可欠な災害イマジネーション【建設×SDGs (6)】 (アクティオ - RENSULTING MAGAZINE 2023年5月31日)
https://magazine.aktio.co.jp/work-ability/20230531-1448.html
SDGsインタビュー: 将来の大地震に備えた防災対策〈前編〉「フェーズフリー」の意識改革を【建設×SDGs(6)】 (アクティオ - RENSULTING MAGAZINE 2023年5月24日)
https://magazine.aktio.co.jp/work-ability/20230524-1434.html
増える自然災害、不足する避難所。東大・目黒教授に聞く「在宅避難」の備えと防災の心得 (日本財団ジャーナル 2022年8月31日)
https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2022/77478/disaster
書評:
書評 (『週刊エコノミスト』 2023年9月19・26日合併号)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20230907/se1/00m/020/006000d
関谷直也 評 (東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター 2023年9月1日)
https://cidir.iii.u-tokyo.ac.jp/report/nl60-01/
ワークショップ・講演:
MAMORU JAPAN×東京大学 「国難災害に叡智で立ち向かう―複合・巨大災害の全貌解像と横断的対応体制の提案―」 (株式会社MAMORU 2024年3月11日)
https://mamorujapan.com/202403252082/
設研現代問題セミナー: わが国の今後の災害対策のあり方と防災ビジネスの重要性 (一般財団法人日本経済研究所 2023年12月12日)
https://www.jeri.or.jp/lecture/%E8%A8%AD%E7%A0%94%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E5%95%8F%E9%A1%8C%E3%82%BB%E3%83%9F%E3%83%8A%E3%83%BC-%EF%BC%94/
第27回震災対策技術展“防災対策の意識改革「コストからバリューへ」~持続可能な防災ビジネス~” (一般社団法人防災事業経済協議会 2023年2月2~3日)
https://www.boco.or.jp/archives/news/1054