大地震が都市を直撃し人々の暮らしに大きな被害をもたらすと、甚大な災害となり、歴史を変えてしまうことがある。これは、日本だけの話ではない。世界の歴史を紐解くと、巨大地震の災害をきっかけに、国の経済、思想・文化、人々の暮らしが根底から覆されてしまった例が複数ある。日本では、幕末安政年間の一連の地震、ヨーロッパでは、1755年のポルトガル・リスボン地震などだ。巨大地震によって、莫大な被害が発生するのは、たんに自然現象としての地震の力が大きいからだけではない。そもそも、社会にもたらされる「外力」(災害誘因) に対して、都市が十分な「耐力」をもたず、過度の曝露性、建物の脆弱性、災害への回復力 (レジリエンス力) の欠如など、社会に内在する災害の要因 (災害素因) が存在するからだ。
「首都直下地震」は、普通の地震学の教科書には出てこない言葉である。なぜなら、この地震は、地震規模マグニチュード (M) 7程度の、日本では普通に起きる大地震であって、取り立てて話題にするほどの巨大地震ではないから。M7程度の地震は、日本とその周辺では1年に1回くらいは発生している。しかし、もしM7程度の地震が首都圏を襲うと、そこには大勢の人、たくさんの非耐震・非不燃化家屋が存在し、社会の災害回復力 (レジリエンス力) が不足している、つまり災害素因が巨大なため、被害のリスクが莫大になる。このため、災害科学や防災対応のために「首都直下地震」の概念が重要なのだ。
そもそも、首都圏は地震が多く、強い揺れに見舞われる可能性 (ハザード) が大きい。さらに、災害素因が巨大なために、首都直下地震による震災では、国難となる大被害の可能性が高い。内閣府中央防災会議によれば、現状の防災対応準備状況で、都心南部直下にM7.3の地震が起きれば、23,000人が犠牲になり、61万棟が全壊・消失する。この被害想定に立ち向かうにはどうしたらよいのであろうか。これには、理学としての地震学、建物や構造物を防御するための耐震工学、防災対応の社会科学の知見を総合化した、真の学際研究としての災害科学が必要である。「首都直下地震」という社会のリスクに立ち向かうために、地震災害の発生の仕組みを理解して、適切に対応することが必要である。本書では、国のリーダーが震災に強い社会を作っていく方策を示すと同時に、社会を構成する組織と個人が、震災に適切に備えるためにはどうしたらよいかのヒントを提示する。地震学、社会科学の最新の知見を総合した、災害科学の入門書として、震災に立ち向かうための基礎的かつ具体的な方策を提案する。
(紹介文執筆者: 地震研究所 教授 平田 直 / 2019)
本の目次
第2章 予想される被害 (なぜ被害が発生するのか ; なぜ被害を想定するのか ; 内閣府の被害想定 (二〇〇四 / 二〇〇五年) 東京都の被害想定 (二〇一二年) 内閣府の被害想定 (二〇一三年))
第3章 震源はどこになる? (複雑な南関東の地下構造;活断層で起きる関東の内陸地震 ; プレート境界の関東地震 ; プレート内部での地震 ; 超巨大地震の影響)
第4章 予知は可能なのか? (内陸の地震の予担・予測 ; 不規則な地震 ; 「三〇年以内、七〇%」の意味)
終章 首都圏を守るために(災害の危険性の大きな首都圏 ; 耐震化と出火対策 ; 帰宅困難者への対策 ; 災害からの回復)
関連情報
山里亮太編集長、首都直下地震を考える 「地震は必ず来る。都心でのサバイバル術とは」 (J-CASTニュース 2018年12月26日)
https://www.j-cast.com/2018/12/26346848.html
「阪神」「熊本」級のM7に注意 “公共の福祉” の観点で対策を・・熊本地震4カ月 その教訓と首都直下地震への備え/東京大学地震研究所教授 平田直さん (日本共産党嶺南地区委員会ホームページ 2016年8月12日)
http://jcpre.com/?p=11965
注目の人 直撃インタビュー 東大地震研究所・平田直氏 「首都直下型の予知は不可能」 (日刊ゲンダイ 2016年4月11日)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/178923
『首都直下地震』を書いた 東京大学地震研究所教授、東海地震判定会委員 平田 直氏に聞く (週刊東洋経済Plus 2016年3月26日号)
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/6671