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書籍名

NHK出版新書491 巨大地震はなぜ連鎖するのか 活断層と日本列島

著者名

佐藤 比呂志

判型など

200ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2016年7月11日

ISBN コード

978-4-14-088491-1

出版社

NHK出版

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巨大地震はなぜ連鎖するのか

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日本列島が位置する上盤プレート下には、海洋プレートが沈み込み、日本列島の応力や地殻変動に大きな影響を与えている。日本列島の内陸地震は地震発生層と呼ばれる地下15kmより浅い岩石中の断層がずれ動くことによって発生する。規模が大きな地震は、ずれ動く断層面の広がりが大きく、活断層として認識できるようになる。1995年の兵庫県南部地震では、神戸市街直下の断層がずれ動き甚大な被害となった。この地震を契機に、全国に地震観測網・GPSによる測地観測網が整備されるとともに、活断層についての調査が本格的に実施されるようになった。平野下に伏在している活断層や活断層―震源断層の形状を明らかにするためには、反射法地震探査が有効である。震源断層の形状や広がりは、その断層がずれ動いた時に発生する強震動や津波などを予測する上で基本的な情報である。こうした地下構造探査によって、2003年宮城県北部地震、2004年中越地震・2007年中越沖地震、2007年能登半島地震などは、日本海形成時の断層が再活動したものであることが分かってきた。2000万年から1500万年前の日本列島がアジア大陸から分離して日本海ができる時期には、広範な地域が引張性の力を受け、多くの断層が形成された。岩盤中の断層は一度形成されると弱面として長い間存続する。日本列島形成後も、伊豆-小笠原弧との衝突、本州弧と千島弧の衝突、沖縄トラフの拡大、沈み込むプレートの運動方向の変化など、様々な地学的な事件が発生してきたが、多くの断層が再活動を繰り返しながら、現在に至っている。こうした地質学的な知見は、震源断層の形状理解に有用である。大規模な反射法地震探査によって、1923年関東地震の震源断層が、これまで考えられていたより浅い領域に位置していることが明らかになった。また、関東平野下に分布する伏在活断層の位置や形状についても多くの知見がえられている。日本列島では、海洋プレートの沈み込みによって海溝型巨大地震が発生する。こうした巨大地震は上盤プレートでの応力変化を伴い、地震前には内陸の被害地震が発生する。2011年東北地方太平洋沖地震の前の2003~8年までの東北日本内陸の地震はこの例である。南海トラフ沿いの巨大地震の前後に内陸で被害地震の発生頻度が増大することは、歴史的にもよく知られている。内陸地震の発生は、プレート境界にある巨大断層の固着状態など、プレート境界から伝えられる力によって大きく支配されている。近年、GPSによる測地観は、海域にも拡大され、プレート境界での固着状況がモニターできるようになってきた。今後、プレートから作用する力がどのように震源断層に働くかを、地殻変動や地震観測網のデータから見積もることにより、物理的な地震発生予測が進展することが期待される。
 

(紹介文執筆者: 地震研究所 教授 佐藤 比呂志 / 2019)

本の目次

  第1章  熊本地震はなぜ起きたのか
広範囲にわたった震源/内陸地震は地下15キロメートル内で起きる/岩盤に働く力/4月14日午後9時26分、最初の地震/動きやすい断層と動きにくい断層/ストッパーが動いてしまった/4月16日午前1時25分、二つの断層が連動した/地震が連鎖した例/離れた断層帯に連鎖/内陸地震の発生はプレート境界に支配されている/熊本地震が発生した背景―九州地方にはどんな力が作用しているか/火山活動への影響/熊本地震から何を読み解くか
 
  第2章  日本列島はプレートの交差点にある
日本書紀の時代から地震は記録されてきた/地震の正体が分かったのはつい最近/P波とS波/マグニチュードと震度/地球はプレートに覆われている/プレートはベルトコンベアー式に動く/軍事技術によってプレートの詳細が分かった/日本はプレートの「交差点」上にある/ずれ方には3種類ある/日本列島周辺の地震のタイプ/津波を起こすアウターライズ地震/国内最大規模の内陸地震/活断層を用いた地震の予測/海外での地表地震探査の例/断層の活動履歴の調べ方/活断層と震源断層/活断層調査のすべてを変えたー兵庫県南部地震/全国にGPSを整備/揺れをいち早くキャッチする観測網/地震を予測する機関
 
  第3章  こうして日本列島が誕生した
かつてはすべての大陸は一つだった/日本列島形成前後/日本海ができた/西南日本の動き/関東の下にあるプレート境界断層/日本最大の内陸断層、中央構造線/糸魚川-静岡構造線/古傷だらけの日本列島/活断層と共存する
 
  第4章  活断層と震源断層
相次ぐ内陸地震/地下に潜む断層を見るー反射法地震探査/日本海拡大期の断層は再活動するー2003年宮城県北部地震/仙台の真下にある長町―利府断層帯/2007年能登半島地震/ひずみ集中帯を調べるー2回の中越地震/山と平野の境界には断層があるー岩手・宮城内陸地震/東北地方で大地震が発生する可能性/見えてきた首都直下の巨大断層/分岐して存在する断層/限界を超えて―鳥取県西部地震/断層は再活動する
 
  第5章  南海トラフ巨大地震に挑む
「活動期」に入った西南日本/南海トラフと連動して起きる内陸の巨大地震/南海トラフとは何か/どこからどこまでが危険か/震源となる3つのエリア/プレートは消しゴムのように動く?/活断層は定期的に動くわけではない/海底の観測からわかったこと/東北地方太平洋沖地震後の北日本/南海トラフ巨大地震に備えて/災害増と対策
 

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