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白い表紙、街や水辺の鳥瞰写真

書籍名

地震被害のマルチスケール要因分析

著者名

大邑 潤三

判型など

232ページ、上製

言語

日本語

発行年月日

2024年3月8日

ISBN コード

9784909782229

出版社

小さ子社

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地震被害のマルチスケール要因分析

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地震災害 (建物・人的被害) の被害要因を分析する研究は、地震学をはじめ工学、人文社会科学など様々な分野が担っている。しかし、分野の縦割りと細分化が進んだ現状では、同一の事例を分析しても各分野で主張する被害要因は異なり、それらの成果が俯瞰的に整理されることは稀である。これは被害像の過度な単純化や、それぞれの地域的特徴を無視した災害の理解につながる。
 
地震被害の要因は、災害誘因である地震動そのもの、および自然的要因 (自然素因) 以外に、人文・社会的要因 (社会素因) も存在し、これらが相互に複雑に関係して被害が発生する。被害発生プロセスの全体像を理解するためには、地震災害の様々な要因 (自然・社会) を分野横断的に俯瞰して整理する必要がある。複雑で重層的な被害の諸要因を整理するにあたっては、単純に羅列するのではなく、事例や地域単位で効果的に整理する方法や考え方が求められる。
 
地震災害を含む地理的事象は様々なスケールの広がりを持っており、スケールごとの事象分布の捉え方によって、因果関係の説明は異なるものになる。本書ではマルチスケール分析の手法を取り入れたうえで、被害の発生要因の重層的な構造をモデル化することにより、被害要因の効果的な整理を試みた。これにより、1) マクロからミクロまでの各要因を包括した被害の発生構造の可視化、2) 発生要因ごとのスケールの違いと影響の違いの視覚化、3) 災害誘因および自然素因・社会素因の重層性や相互の関係性の理解、4) 異なる事例・地域における被害の発生構造の比較や類型化、が可能となる。
 
本書では近世・近代期に発生した内陸型の地震災害事例に対して、様々な視点から被害の発生要因を明らかにして被害の発生構造のモデル化と比較を試みた。例えば1927年北丹後地震における峰山地域の被害と、1925年北但馬地震による城崎地域の被害は、震源直近における多数の建物倒壊発生、商業地の木造住宅密集地域における火災拡大、女性への被害の集中といった類似点が多く、被害拡大の構造が酷似している。一方で北丹後地震における磯地域や北但馬地震における津居山地域は、同様に震源直近で火災被害が大きいものの、被害の様相が異なる。これは両地域とも漁村であり、発災時に男性が屋外に、女性が屋内に居たこと、さらに救助や救援が効果的に行われたことが、人的被害を縮小させる方向に作用したためである。こうした被害の違いや類似性を理解するうえで、本書で示した被害要因の整理方法は有効であり、これによって得られる知見は災害軽減のための有効なデータになると考える。
 

(紹介文執筆者: 地震研究所 助教 大邑 潤三 / 2024)

本の目次

第1章 地震被害の要因分析に関する研究史の概要と課題
第2章 研究の視点と方法・構成
第3章 北丹後地震における建物倒壊被害と地形の関係
第4章 北丹後地震における人的被害の分析
第5章  北但馬地震の建物倒壊被害と各地域の地震被害の特徴
第6章 北但馬地震における人的被害の傾向と地域的特徴
第7章  文政京都地震における亀岡盆地の建物倒壊被害と震央位置の再検討
第8章  文政京都地震の史料吟味と京都盆地の建物倒壊被害
第9章 文政京都地震における人的被害の分析
終章

関連情報

書評:
林能成 評「北但馬地震と北丹後地震の最新の被害分析」 (『地震ジャーナル』78号 2024年12月20日)
https://doi.org/10.60191/eqj.2024.78_97
 
『地理学評論』Vol.97,No.6 2024年11月

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