東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白と青の表紙

書籍名

災害情報 東日本大震災からの教訓

著者名

関谷 直也

判型など

629ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2021年9月14日

ISBN コード

978-4-13-056126-6

出版社

東京大学出版会

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

災害情報

英語版ページ指定

英語ページを見る

本書は、東日本大震災を中心とした避難の問題、集合行動、メディア研究、近年の災害情報の受容の課題について、社会情報学、社会心理学の立場からの実証的な災害情報研究に関する体系的記述を試み、包括的に論じたものである。
 
本論を貫く問いとして、防災対策をめぐる考え方、災害に対する価値観としての想定主義、精神主義、仮説主義、平等主義という日本の防災対策が陥っている「四つの課題」を析出し、それを「想定」「避難」などについて検討していく形をとった。
 
第一に想定主義である。これは主に計画行政や訓練において生じる問題である。日本の防災対策の基本はある意味、災害での可能性を想定してそれに備えることにほかならない。想定して訓練し、そして想定に対応さえできれば、災害対策、危機管理はできていると判断される。災害対策上、国の防災基本計画に基づき災害およびその被害を想定し、県や市区町村などが地域防災計画を策定したり、具体的な戦略を策定したりして、その対策にあたるというのが計画行政上のスキームになっている。
 
第二に精神主義である。これは主にハード対策や設計の問題である。災害被害が発生・拡大するのは人々の行動・心理に問題があるからだという考え方、人間の精神や心構えを強調することによって災害に備えるべき、人々の意識の変革で災害を克服すべきという考え方である。特に「避難」をめぐる問題については「被害にあった人は危機意識が欠如していたのだ」という、避難の課題を人々の防災意識に帰結する精神主義が跋扈している。
 
第三に仮説主義である。これは主にジャーナリズムの問題ともいえる。災害の直後、報道機関は、災害対応の問題点を導き教訓を伝えようとする。記者は、ある程度仮説を立て、被災者や専門家などに取材をするが、ときに意図通りにコメントしてくれる人を探して取材をする。行政も企業も、結果としてメディアで話題になったことを中心に「こうすればよい」という仮説に基づき、対策を立ててそれでよし、ということを繰り返す。そして、実際に調査検証が進むに従って、そもそもそれらの仮説自体が誤っていたことが判明するにもかかわらず、次の災害ではまた新たな別の課題が出て類似のことを繰り返すということが多くみられる。
 
第四に平等主義である。通常、災害対応、危機管理においては、より多くの人の生命・身体を守るために、限られた資源をいかに効率的に活用すべきか「優先順位」を考えることが課題である。だが往々にして、災害対策においては全て、全員に対応しようという「平等主義」に陥りがちである。そうなると、自分たちができるもの、やりたいもの、納得しうるもの、予算がついた順から対策を考えるという形になる。
 
本書は「解決策を示す」ことを目的とはしていない。日本の災害対策、防災対策の陥穽を、社会情報学、社会心理学の立場から抽出し、より多くの人を救える防災を目指すための「方向性を示す」ことを目的としたものである。
 
なお本書は、著者が東日本大震災から10年間に研究してきたもののうち、主に自然災害に関する研究の成果をまとめたものであり、原子力災害に関する研究ついては別途、出版する予定である。
 

(紹介文執筆者: 情報学環 教授 関谷 直也 / 2023)

本の目次

はじめに
 
I 避難と心理
第1章 防災対策の陥穽
第2章 東日本大震災における避難手段と避難場所
第3章 東日本大震災における避難実態
第4章 避難行動
第5章 避難と認知バイアス
 
II 集合現象
第6章 不安と自粛
第7章 災害流言
第8章 パニック
第9章 買いだめとモノ不足
第10章 帰宅困難者問題
 
III メディア
第11章 災害報道
第12章 災害と広告
第13章 災害と広報・PR
第14章 災害とデジタルサイネージ
第15章 災害とソーシャルメディア
 
IV 情報
第16章 災害情報システムと安否情報
第17章 地震災害と情報・避難
第18章 火山噴火と情報・避難
第19章 気象災害と情報・避難
第20章 災害文化と防災教育,コミュニケーション
 
おわりに
 

関連情報

受賞:
令和5年防災功労者防災担当大臣表彰(内閣府 [防災担当] 2023年9月15日)
https://www.iii.u-tokyo.ac.jp/news/2023121919934

第9回内川芳美記念メディア学会賞 (日本メディア学会 2023年6月26日)
https://www.jams.media/20230626-uchikawaprize2022details/
 
第21回ドコモ・モバイル・サイエンス賞 社会科学部門 優秀賞 (NPO法人モバイル・コミュニケーション・ファンド 2022年10月21日)
https://www.mcfund.or.jp/mobilescience/award/no21.html
 
第31回2022年度大川出版賞 (公益財団法人大川情報通信基金 2022年)
http://www.okawa-foundation.or.jp/activities/publications_prize/list.html
 
書評:
「命守る教訓を一冊に 東大・関谷さん、社会心理学に立脚し避難行動検証」 (『河北新報』 2021年12月20日)

https://kahoku.news/articles/20211220khn000009.html
 
今週の本棚 (『毎日新聞』 2021年11月20日)

https://mainichi.jp/articles/20211120/ddm/015/070/025000c
 
読書面 (『公明新聞』 2021年11月1日)

 
関連記事:
震災と情報 情報の激流の根源と向き合い方【前編】 (東大新聞オンライン 2023年8月23日)
https://www.todaishimbun.org/shinsaitokusyu_20230824/
 
震災と情報 情報の激流の根源と向き合い方【後編】 (東大新聞オンライン 2023年8月24日)
https://www.todaishimbun.org/shinsaitokusyu_20230824-2/
 
震災から10年過ぎれば関心は低下...あと2年、正確な情報を発信 (福島民友新聞みんゆうNet 2019年3月7日)
https://www.minyu-net.com/news/sinsai/serial/08/06/FM20190307-357801.php
 
災害対策に役立つ最新技術と今企業が考えるべきこと (SONY『B.』 2019年2月13日)
https://www.sony.jp/professional/magazine/B/chamber31/
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています