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赤から白のグラデーションの表紙

書籍名

憲法学のゆくえ 諸法との対話で切り拓く新たな地平

著者名

宍戸 常寿、 曽我部 真裕、山本 龍彦

判型など

552ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2016年9月

ISBN コード

978-4-535-52184-1

出版社

日本評論社

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憲法学のゆくえ

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憲法改正論議が高まるとともに、憲法学のあり方が注目されている。憲法学は一般に、政治やメディアで提案された憲法改正の諸提案に対して批判的であり、そのこと自体が批判にさらされてきた。集団的自衛権の一部行使を容認する政府見解の変更がなされた2014年7月頃から、多くの憲法研究者がメディアに登場して発言したこともあり、あらためて憲法学に対して様々な立場から、熱い、あるいは冷ややかな目線が向けられている状況にある。
 
本書は、そのような憲法学をめぐる環境の過度の政治化を予測し、反応しようとしたものではない。むしろ本書は、法学としての憲法学が、隣接分野とどのような関係にあるのか、相互理解と対話の可能性を求めて、2014年1月から約2年をかけて行われた8つの座談会を、収録したものである。座談会は、隣接分野から憲法に理解・関心のある研究者を招き、憲法学に対する率直な問題提起や批判を含む基調報告を頂いた上で、私、曽我部真裕教授そして山本龍彦教授の3人がそれに応答する、という形を取った。
 
ゲストスピーカーは、いずれもホスト3人と近い世代で、それぞれの分野を牽引する気鋭の研究者である。森肇志教授、藤谷武史教授はともに現在、本学に在籍しており、笠置映里氏、伊藤正次教授も本学の法学政治学研究科で修行された研究者である。招いておきながら、敵地に単騎で乗り込んで暴れることを強いられる気持ちだったのではないかと恐れるが、それでも快くお引き受け頂き、非常に建設的な議論を作り出して頂いたことに、心から感謝したい。
 
私以外のホストである曽我部教授、山本教授も、ともに同じ世代に属しており、憲法や情報法の研究・実務の場で協力することが多い。しかしそれでも、他分野からの問いかけに対する応接に、それぞれのバックグラウンドや個性の違いが露わになることもあり、これはこれで楽しい発見だった。
 
もともとこの座談会は、月刊誌である法律時報に掲載されたものである。この種の座談会は、参加者の漫談に陥ったり、逆に議論が過度に専門化したりするおそれがある。その点、本書に収められた座談会は、参加者の間の緊張感を保ちつつ、同時に多角的な角度から、憲法学と隣接分野で共通する論点について、一致する理解やアプローチの違いなどを、浮き彫りにすることができた、と私は自負している。それと同時に、自分の研究にとって非常に有用な視点や気づきを、多く与えられたことは、いうまでもない。
 
憲法学は常に、隣接分野からの知見に接し、時にそれを消化し、時に自己の議論枠組みを変容させ、時に厳しく対峙することで自らの前提を問いなすというやり方で、現在あるような学問として発展してきた。本書は、私たちの世代が現時点でそのような知的格闘を行った記録である。本書が、憲法学それ自体の発展にとって刺激剤となるとともに、憲法学の外の健全な知的読者が、憲法学の到達点を正しく認識し、批判して頂くための出発点となることを、願っている。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 宍戸 常寿 / 2017)

本の目次

1
イントロダクション……山本龍彦
[基調報告] 憲法と刑事法の交錯……亀井源太郎
[座談会] 憲法と刑事法の交錯……亀井源太郎 宍戸常寿 曽我部真裕 山本龍彦

2
イントロダクション……曽我部真裕
[基調報告] 憲法学と司法政治学の対話──違憲審査制と憲法秩序の形成のあり方をめぐって……見平 典
[座談会] 憲法学と司法政治学の対話……見平 典 宍戸常寿 曽我部真裕 山本龍彦

3
イントロダクション……宍戸常寿
[基調報告] 憲法学における財政・租税の位置?……藤谷武史
[座談会] 憲法学における財政・租税の位置?……藤谷武史 宍戸常寿 曽我部真裕 山本龍彦

4
イントロダクション……山本龍彦
[基調報告] 憲法上の財産権保障と民法……水津太郎
[座談会] 憲法上の財産権保障と民法……水津太郎 宍戸常寿 曽我部真裕 山本龍彦

5
イントロダクション……曽我部真裕
[基調報告] アーキテクチャによる規制と立憲主義の課題……松尾 陽
[座談会] アーキテクチャによる規制と立憲主義の課題……松尾 陽 宍戸常寿 曽我部真裕 山本龍彦

6
イントロダクション……宍戸常寿
[基調報告] 憲法学と国際法学との対話に向けて……森 肇志
[座談会] 憲法学と国際法学との対話に向けて……森 肇志 宍戸常寿 曽我部真裕 山本龍彦

7
イントロダクション……山本龍彦
[基調報告] 憲法と社会保障法……笠木映里
[座談会] 憲法と社会保障法──対話の新たな地平……笠木映里 宍戸常寿 曽我部真裕 山本龍彦

8
イントロダクション……曽我部真裕
[基調報告] 行政学から見た日本国憲法と憲法学──執政権説の検討を中心に……伊藤正次
[座談会] 行政学から見た日本国憲法と憲法学……伊藤正次 宍戸常寿 曽我部真裕 山本龍彦
 

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