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書籍名

ガバナンスを問い直すI 越境する理論のゆくえ |  ガバナンスを問い直すII 市場・社会の変容と改革政治

判型など

第I巻: 272ページ、A5判 |  第II巻:288ページ、A5版

言語

日本語

発行年月日

2016年11月14日

ISBN コード

第I巻: 978-4-13-030207-4
第II巻: 978-4-13-030208-1

出版社

東京大学出版会

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本書 (全2巻) は、東京大学社会科学研究所が2010年度から2015年度にかけて実施してきた全所的プロジェクト研究「ガバナンスを問い直す」の研究成果を総合的に取りまとめたものである。社会科学研究所では、初回の「基本的人権」(1964-69) 以来、「戦後改革」(1969-1975)、「ファシズムと民主主義」(1972-1980)、「福祉国家」(1979-1985)、「現代日本社会」(1985-1990)、「20世紀システム」(1992-1998)、「失われた10年?」(1999-2006)、「地域主義比較」(2005-2009)、「希望の社会科学 (希望学)」(2005-2009)と、同時代の日本社会と世界が抱える重要なテーマを学際的に探究する全所的プロジェクト研究を継続的に実施してきた。この一連のプロジェクトは、いわば戦後日本社会の長期にわたる「定点観測」であり、社会科学研究所の最も基幹的な研究活動の一つである。本書はその最新の成果ということになる。
 
「ガバナンス」という問題設定は、1990年代の半ばから内外で急速に普及し、今日では多くの分野でこれを用いた議論が行われている。しかしそのようなガバナンス論の多発的な展開は、いったい何を意味するのか。また、このガバナンスという問題設定は、現在の日本および世界が直面する課題を分析しその解決の方向性を探る上で、はたしてどれだけの有効性を持つのか。これらの疑問は、既存のガバナンス論では等閑に付されてきた。「ガバナンスを問い直す」プロジェクトはそれらを自覚的に主題化し、ガバナンスという問題設定を招来した要因とともに、その有効性を問い直したものである。
 
本書の成果は多岐にわたるが、とくに重要な点として次の点がある。第1に、ガバナンスという問題設定における「再生産」の主題の重要性を多面的に明らかにすることにより、ガバナンス論の新たな地平を開拓したこと。第2に、一般的なガバナンス論が、水平的なネットワークや協働、そしてその効率性などを予定調和的に前提するのに対して、むしろ私人間の権力関係や公権力による一部利益の偏った実現、総じてガバナンスに内在する権力的契機やコンフリクトの側面を析出し、ガバナンスをめぐる「正統性」や「デモクラシー」のあり方を深く問題としていること。その上に立って、第3に、本書の目次に示されるように、現在の日本および世界が直面する多様な課題について具体的に分析を掘り下げ、ありうる解決の方向性を提示していることである。
 
本書は、法学・政治学・経済学・社会学など社会科学の多様な分野の研究者が参加し、それぞれの専門性を最大限活かしながら、相互に開かれた議論を行うことを通じて生みだされた「社会科学の総合知」の成果である。これまでガバナンス論に関心を持ってきた研究者・学生・市民の方々にとっても、これから本格的に取り組もうとする方々にとっても、本書は大きな知的刺激を与えるものと確信している。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 佐藤 岩夫 / 2017)

本の目次

[第I巻] 東京大学社会科学研究所・大沢真理・佐藤岩夫 編
『ガバナンスを問い直すI 越境する理論のゆくえ』(東京大学出版会 | 2016年11月)

http://www.utp.or.jp/book/b307337.html

序 論 ガバナンスを問い直す -- なにが問題か (大沢真理)
第I部 ガバナンスとはなにか
 第1章 政治思想史におけるガバナンス (宇野重規)
 第2章 経済ガバナンスの目的と手段 (加藤 晋)
 第3章 ガバナンス・アプローチとEU研究 (平島健司)
第II部 なぜガバナンスか
 第4章 企業統治と法制度の役割 -- 会社法制を中心に (田中 亘)
 第5章 歴史の中のガバナンス (五百旗頭薫・宇野重規)
 第6章 参加と協働に潜む葛藤 -- 地域における福祉ガバナンス (朴 姫淑)
第III部 ガバナンスで捉える
 第7章 「再生産」とガバナンス -- 政治社会学から (武田宏子)
 第8章 世代間問題とガバナンス (佐々木彈)
 第9章 ガバナンス (論) における正統性問題 (藤谷武史)



[第II巻] 東京大学社会科学研究所・大沢真理・佐藤岩夫 編
『ガバナンスを問い直すII 市場・社会の変容と改革政治』(東京大学出版会 | 2016年11月)

http://www.utp.or.jp/book/b307338.html

第I部 家族・生活・地域
 第1章 家計生産のガバナンスと社会の均衡 --「家事分担に関する妻の選好」を例に
     (不破麻紀子)
 第2章 日本における女性就業の地域差 (安部由起子)
 第3章 多極化する都市空間のガバナンス -- 境界を開く法の役割 (高村学人)
 第4章 災害と民主主義・多様性 -- リスク・ガバナンスの3次元理論に向けて
     (スティール若希)
第II部 企業・市場
 第5章 株主価値最大化がもたらすもの -- 労使関係論から (南雲智映・中村圭介)
 第6章 経済政策のガバナンスとは -- 構造改革は事態を悪化させた (大瀧雅之)
第III部 改革政治
 第7章 イギリスにおける政権交代と福祉ガバナンスの変容 (今井貴子)
 第8章 消費税増税と日本のガバナンス (グレゴリー・W・ノーブル)
 第9章 「政治の司法化」とガバナンス (佐藤岩夫)
総 括 本プロジェクトの意義と拓かれた課題 (大沢真理・佐藤岩夫)

関連情報

東京大学社会科学研究所 「ガバナンスを問い直す」プロジェクト:
http://web.iss.u-tokyo.ac.jp/gov/

2016年11月8日(火)に開催した合評会の記録が、『社会科学研究』69巻 (号は未定) に掲載予定。
 

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