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白い表紙、青い本のイラスト

書籍名

ケインズとその時代を読む 危機の時代の経済学ブックガイド

判型など

264ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2017年7月21日

ISBN コード

978-4-13-043038-8

出版社

東京大学出版会

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ケインズとその時代を読む

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この本では、ジョン・メイナード・ケインズ (1883-1946) が生きた時代の古典を中心に紹介しています。ケインズは、経済学の歴史のなかでも最も有名な経済学者の一人ですが、彼は20世紀前半というおそらく人類史においてもっとも困難な時代をエネルギッシュに駆け抜けていった人物です。ケインズの著作は多岐にわたるとともに、極めて論争的なものでした。そして、彼自身が政策や政治といった現実に目を向けていたということも特筆すべきことです。
 
この本では、ケインズ自身の著作を含む、合計16冊ほどの古典的作品が取り上げられています。ただ本書における古典のセレクションは、常道からやや外れているように見えるかもしれません。リチャード・カーン、アーサー・ピグー、フリードリッヒ・ハイエクといった、ケインズと同時代の経済学者の著作だけでなく、エドワード・カーや石橋湛山などやや異色の選択もしています。また、ケインズの著作の中でも『条約の改正』や『平和の経済的帰結』などのやや意外な著作も取り上げています。
 
このことは、この本の副題と関わっています。ケインズたちが生き抜いた「危機の時代」の著作から、現代に学ぶことがある、ということが問題意識の根底にあります。社会が危機に直面するなかで、どのように考え、どのように生活していくのか、これは人間が社会的存在である以上は避けることのできない普遍的な問いと言っても過言ではありません。長期不況、人口問題、革命、パンデミック、戦争など、21世紀を生きる私たちが直面している危機と重なりあう問題がケインズの時代にもありました。もちろん、時代が変われば、社会的な危機の性質が変わるかもしれませんし、対応のためのアプローチなども変わるかもしれません。しかし、なお、過去に困難に直面した人びとがどのように考えて、どのように彼らの理性を使ったのか、ということから学べることは決して少なくないと思います。
 
それがまさに、本書の重要なテーマでもあり、現代にとっても重要な問題が危機における理性の使用と関わっています。つまり、それは「全体主義」の問題です。全体主義は人間や社会にとって、最大の危機の一つだと思います。そして、現代の人びとがこの危機に陥ってしまうということはあり得ないことではありません。全体主義という危機を克服するためには、人間の理性が重要なのではないでしょうか。本書はケインズの時代の古典からこうしたことを読むという試みです。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 准教授 加藤 晋 / 2023)

本の目次

序論 危機の時代を生きる|大瀧雅之

I 第一次世界大戦の帰結と全体主義勃興の危機
 1 J.M.ケインズ『平和の経済的帰結』
   ―― 1世紀を経てなおも息づくケインズの鳴らした警鐘|神藤浩明
 2 J.M.ケインズ『条約の改正』
   ――「ケインズの政治学」を想像する|宇野重規
 3 E.H.カー『危機の二十年』
   ――二度の世界大戦の後,新たな国際秩序への展望を示す|本橋 篤
 4 F.A.ハイエク『隷従への道』
   ――自由主義の後退が行き着く苦悩の社会像を描画|古宮正章

II 理論の展開――全体主義への対抗軸としてのリベラリズム
[1]『一般理論』前史
 1 T.ヴェブレン『企業の理論』
   ――激動する社会と企業の包括的分析|西島益幸
 2 A.C.ピグー『厚生経済学』
   ――功利主義に基づく実践的経済政策の集大成|加藤 晋
 3 L.ロビンズ『経済学の本質と意義』
   ――科学的分析と規範的分析の区別を論じた古典|釜賀浩平

[2]『一般理論』と社会民主主義
 4 J.M.ケインズ『雇用・利子および貨幣の一般理論』
   ――社会的正義感と緻密な論理による近代経済学の巨峰|大瀧雅之
 5 R.F.カーン『ケインズ「一般理論」の形成過程』
   ――『一般理論』の考え方を理解するための必読書|随 清遠
 6 A.P.ラーナー『調整の経済学――厚生経済学原理』
   ――ケインズ経済学を拡張した機能的財政論|田村正興
 7 J.E.ミード『理性的急進主義者の経済政策――混合経済への提言』
   ――市場の持つ効率性と残虐性への深い認識|渡部 晶

III 1930年代の世界と日本
 1 J.M.ケインズ『世界恐慌と英米における諸政策
   ――1931~39年の諸活動』――世論形成に力点を置いたケインズの活動|大瀧雅之
 2 高橋亀吉・森垣淑『昭和金融恐慌史』
   ――民間エコノミスト2名による昭和金融恐慌の真相究明|内山勝久
 3 石橋湛山『石橋湛山評論集』
   ――日本にケインズをいち早く紹介した先覚者|薄井充裕

IV ケインズの同時代人
 1 ケインズ『人物評伝』
   ――人物評伝の達人でもあったケインズの分析力|堀内昭義
 2 フランク・ラムジーの1つの描像
   ――理論経済学者・哲学者・論理学者として|大瀧雅之
 3  E・H・カーのソ連史研究
   ――戦間期から戦後期へ|塩川伸明

関連情報

書評:
前田裕之「「危機の時代」の経済学――ケインズと同時代人の知に学ぶ」 (日本経済新聞 2017年10月28日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO22792690X21C17A0MY5000/
 
書籍紹介:
『エコノミスト』 2017年9月5日号
https://www.fujisan.co.jp/product/214/b/1551251/

関連記事:
特集「ケインズとその時代を読む」 (『社会科学研究』第66巻第2号 2015年3月20日)
https://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/jss/66/02/index.html

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