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ベージュと緑の表紙

書籍名

経済学史 経済理論誕生の経緯をたどる

著者名

野原 慎司、 沖 公祐、 高見 典和

判型など

320ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2019年7月

ISBN コード

978-4-535-55927-1

出版社

日本評論社

出版社URL

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経済学史

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経済学はとっつきにくい学問かもしれません。ひとつには、経済学の学習を進めるにつれ、複雑な数式と抽象的な理論がどんどん出てくることにあります。それらは、理論分析の手段であり、経済現象の説明において不可欠なものです。その点、経済学の教科書は、理論を簡潔明瞭に説明する点でメリットがあるものの、ややもすれば抽象的で、人によってはとっつきにくく感じてしまい、興味を持てないでいる場合もあろうかと思います。経済学のような高度に分析装置が発達し、その理論モデルの抽象度の高い学問の場合は、とくに、その学問に対する好奇心や興味を涵養することが重要だと思われます。 
 
それら経済学のとっつきにくさという問題を解決する一助になるのは、経済学の歴史を振り返り、経済理論をそれが生じた時代背景とともに理解することです。一見すると抽象的な経済理論も、経済学者がその時代が直面していた社会の問題と向き合うなかから生み出したものです。また、それを生み出した経済学者は意識していなかったとしても、経済理論が生まれた背景には、その理論の誕生を必要とするような大きな時代の要請があるものです。経済学史を振り返ることは、経済理論の位置付けを知ることであり、経済理論の地図を理解することです。その地図を理解することは、そのような経済現象を把握するうえでの困難を解消する一助になります。経済学の歴史を振り返ることは、経済理論の生きた理解につながります。とっつきにくかったり、わかりにくかったりする経済理論も、その時代背景とともに理解すると、腑に落ちるようになります。
 
本書は、大学での経済学史の教科書として用いるのに適したように執筆されましたが、経済学とは何かを知りたい一般の方にとっても、大変有益であると自負します。本書を読むことを通じて、経済学の見取り図を得ることができるでしょう。留意したのは、初学者にとってもわかりやすい説明であることです。類書との違いとしては、幅広いトピックをカバーしていることです。古代・中世の経済思想、マルクス経済学についても等閑に扱うことなく解説していること、行動経済学を含む最先端の現代経済学についても詳しく説明していることです。本書は三人で分担されて執筆されています。類書では、一人でカバーするか、大勢の人で分担執筆するかという形が多いようです。それぞれにメリットもあるのですが、問題は、一人で書く場合広大な経済学史のトピックの一部しかカバーできないこと、大勢の人の分担執筆であると叙述が断片的になりがちになることがあります。本書は、三人の専門家が、それぞれ専門およびそれに近い領域をカバーすることで、専門性に基づき、かつ広範なトピックをカバーする叙述を可能にするとともに、分担者を最小限に抑えることで、叙述としての一貫性・読みやすさに配慮しました。
 
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 准教授 野原 慎司 / 2020)

本の目次

第1部 古典派経済学を中心として
 第1章 古代・中世の経済認識
 第2章 重商主義
 第3章 重農主義
 第4章 古典派経済学の形成:アダム・スミス
 第5章 古典派経済学の展開:リカードウ、マルサス
 第6章 古典派経済学の完成:J・S・ミル
 第7章 大陸経済学の形成:フランスとドイツとオーストリア

第2部 変革期の経済学
 第8章 マルクス学派の始まり:マルクスのポリティカル・エコノミー批判
 第9章 一般均衡理論:ワルラス
 第10章 イギリスの限界革命:シャボンズとマーシャル
 第11章 マルクス学派の展開
 第12章 20世紀前半の需要理論:ムア、ヒックスとアレン、サムエルソン

第3部 現代の経済学
 第13章 20世紀半ばの計量経済学:フリッシュ、ティンバーゲン、コウルズ委員会
 第14章 ゲーム理論の始まり
 第15章 20世紀半ばの一般均衡理論
 第16章 行動経済学の由来:期待効用理論からプロスペクト理論へ
 第17章 有効需要論の発展:ケインズとIS-LMモデル
 第18章 経済成長理論の歴史:ソローを中心として
 

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